1話 センエース、収監される。
1話 センエース、収監される。
――全世界のスマホが一斉に震えた。
【速報】センエース、米カリフォルニア州サン・クエンティン州立刑務所へ『自発的収監』。詳細は不明。
商店街の八百屋は、手を止めて頭をかきながら、
「えぇえ……刑務所……えぇ? な……なんで?」
それは世界中全員の代弁。
皆、同じように首をかしげている。
意味が分からない。
★
――校門前。
制服の群れがぞろぞろ。
みな、好き勝手に、センエース監獄編を予想している。
「監獄の連中、皆殺しかも?」
「あ、それ、ありえる」
「世界中の刑務所を渡り歩いて、凶悪犯を次々に殺していく感じ?」
「でも、センエースって、確か、渋谷にいても、世界中の人間を殺せるんじゃなかった?」
「制限とかあるのかもね。ゲームとかの技もそうじゃん。大技にはリキャストタイムとかある感じ」
「もしくは、自分の目でちゃんと確かめてから殺す……とか?」
「どっちもありえるわぁ」
★
――霞が関。
財務省・理財局フロア。
壁のモニターにはレート、机上には国民債の申込速報。
「ドル決済は現状維持です。ただ、再保険とクリアリングの条件を絞られると資金繰りに圧がかかります」
若手が簡潔に報告すると、
局長が歯噛みしながら頷いて、
「先手で打ち返す。通告文は強め、運用は粛々。――主計、国民債の窓口を本日中に倍増。『普通に買える状態』を切らすな」
「了解。利払いは計画どおり。広報文は『家計最優先』で統一します」
主計が即答。
理財の次席がためらいがちに続ける。
「……率直に言って、いま我々が世界に対して強気でいられるのはセンエースの抑止があるからです。すべてはセンエース頼りと言ってもいい。……もし、いなくなると、海外は揺さぶってくる。これまで以上に猛烈に……だから……その……」
そこで、ガチャっとドアが開き、事務次官が登場。
冷めた紙コップを置きながら、
「センエースは戻る。彼は神だ。もし、沈むのであれば……その時は、一緒に沈めばいい」
間を置いて、低く続ける。
「……不安があるのは承知している。神の不在で腰が引けるのが一番まずい。われわれは、神に従うと決めたが、単なるコシギンチャクではない。『神がなければ何もできない』という弱腰では、神に見捨てられる可能性すらある。……背筋を保て。矜持を忘れるな。われわれは神に選ばれているのだ」
狂信者めいてきた事務次官に、
宗教意識が低めの現代若手連中は、
(選ばれているかどうかは微妙だけどなぁ……)
(センエースが特別な力を持っているのは事実だが……)
(アレが神かどうかは……また、話が違う気がするが……)
困惑しつつも、
しかし、己にできる最善を尽くそうと奔走する。
センエースが神かどうかは知らないが、
皆、自分がすべきことは理解している。




