5話 テロ後の学校。
5話 テロ後の学校。
――翌週、月曜の朝。
休校を終えたばかりの校舎に、まだぎこちないざわめきが流れていた。
体育館。全校集会。
壇上の校長が、緊張した顔でマイクを握りしめている。
「……先週金曜夜、渋谷において発生したテロ事件について、警察と自衛隊による厳重な警戒体制が続いております。本校としても――」
抑揚のない声。
言葉では確かに『テロ』と言っている。
だが続く説明は、まるで『震度3の地震に対する避難訓練のマニュアル』を読み上げるかのように淡々としていた。
「――各自、冷静に行動してください。避難経路は教室で配布した『緊急時マニュアル』に記載されています。地震・火災・台風と同様に、不審者や爆発音などを確認した場合は、教師の指示に従って体育館または校庭に集合を……」
体育館の外では、迷彩服の自衛官や機動隊が巡回している。
窓越しに見えるその影と、壇上で『地震や火災と同じように対応』とのたまう校長の声とのギャップが、かえって場を張りつめさせていた。
校長の読み上げは“平常運転”の抑揚だ。だが窓の向こうで自衛官の小銃が光り、体育館の梁には仮設の監視ドローンが静止している――音だけが不自然にない。
――腫れ物に触れるような緊張感。
教師も生徒も、分かっているのに、分からないふりをしている……そんな空気感。
「……なお、内閣官房を通じた文部科学省の正式指示により、今回の件は『緊急災害事案』として処理されています。内閣官房、警察庁、防衛省、各省庁からも同様の通達が出ています。生徒の皆さんは決して、外部に不確かな情報を漏らさぬように。特に、SNSへの軽率な投稿は重大な違反行為とみなされ、所管庁による厳正な指導・是正措置が入ります。悪質な場合は逮捕にいたる事も十分にありえます。今回の件に関しては、未成年か否かは問われないものと考えてください」
ざわ……と空気がわずかに揺れる。
生徒たちは全員知っている。
――あの日、体育館で薬宮トコがロキの部隊を制圧したことを。
だがそれは、『世間的には存在しなかったこと』になっている。
なぜなら。
『センエース』が政府ホットラインに直接命じたから。
――『薬宮トコのことは一切公表するな。今回の件は軽い災害扱いにとどめろ』と。
政府はセンに逆らう術を持たない。
内閣から各省庁へ、そして教育委員会、学校現場に至るまで――口止めの鎖はあっという間に敷かれた。
壇上の校長が淡々と読み上げるその文言は、避難訓練のマニュアルのように聞こえる。
だが、その裏にあるのは、内閣レベルの圧力。
だからこそ、誰も声を上げない。
ただ、ひそひそと、小声で、
「ちなみに、俺、あの事件のあとに、ちょっと投稿しちゃったんだよね」
「え、どうなった? 逮捕された?」
「秒で消された。アカウントBAN。捨て垢で助かった」
「正式な通知前だったら逮捕されなかったのかな?」
「帰りに逮捕されたりして」
「はは……笑えねぇ……」
「ところで、あの時の薬宮のことだけど……」
「しっ」
「それは口にするなって言われてんだろ」
「……え、喋るのもダメな感じ?」
「この前のことはなかったことにしろ……ってのが、国からの……あと、センエースからの命令だろ」
★
薬宮トコは、壇上の言葉を聞き流しながら、膝の上でスマホを操作していた。
〈小説家になろう マイページ〉
昨夜投稿した「都市の血戦」の回。
表示された数字は自重を忘れていた。
PV:12,833,912
ブクマ:308,552
EXP:15,827,731
(……爆伸びやな。余裕で一千万超えとる……)




