4話 悪の執行者。
4話 悪の執行者。
第四波の熱圧と第五波の徹甲射をやり過ごすよう、
ロキの指示で攻撃のタイミングを事前に把握していた私兵たちが、
地下へ仕込まれた防爆シェルターから現れた。
それはかつて地下鉄工事で残された耐爆資材の区画を、裏国連が秘密裏に改造したもの。
通常の地下道ならとっくに潰れている。
だが軍規格で補強されたそのシェルターだけが生き延び、兵士たちを守っていた。
黒いマスクに重火器を抱えた兵士。
強化外骨格で関節部を覆った凄腕の傭兵。興奮剤で瞳孔を開ききった狂戦士。
彼らは互いに合図を交わし、一斉にセンへと殺到する。
センは、目を細めて吐き捨てる。
「……はっはー、元気いいねぇ。何かいいことでもあったのかい?」
最初の一人が肩口にHEDP(対人対物炸裂弾)を叩き込む。
炎と衝撃。センの体が揺れ、羽織がわずかに裂けた。
その瞬間、彼の眉がわずかに寄る。
「うーむ……普通に痛いのが腹立つなぁ」
肩の煤を払いつつ、ぼそりと続ける。
「こんなゴミみたいな武器でダメージを受けるようなヤワな鍛え方はしていないんだが……まったく」
次の瞬間、兵士たちの頭上に、黒い渦が現れた。
渦は低く唸るように回転し、抗う間もなく兵士を吸い上げて呑み込む。
直後、渦は跡形もなく霧散した。
続けざまに、手練れの傭兵が雄叫びをあげて跳びかかる。
薬物漬けの狂戦士が刃を振り下ろす。
だが彼らの頭上にもまた黒い渦が芽吹き、
渦に触れた瞬間、存在そのものを吸われるように消えた。
血も肉も残らない。
ただ『その場から消えた』という衝撃だけが周囲に突き刺さる。
「……人様の耳元で叫ぶんじゃねぇよ。マナーがなってねぇなぁ」
鬱陶しそうにつぶやくセンエース。
その視線の先で、ただ一人――ロキだけが立ち尽くしている。
ロキの肩は震えていた。
だが、奥歯をかみしめ、目の奥だけは鋭く光っている。
「これでも……ダメなのか……」
ギリっと奥歯をかみしめたロキは、センを睨んだまま、
「神……か。なるほど……遠い存在だ。この俺に、憧憬すら抱かせた……その奇跡は確かに神業」
センは鼻で笑った。
「俺に言わせれば、お前の厨二力こそ神業だけどな。俺も相当な厨二なんだが、お前には負けるぜ。……それで、どうする? まだやるか? それとも土下座でもしてみる?」
その時だった。
轟音が空を切り裂く。
交差点の上空に現れたのは、一機の軽ジェット――旧式訓練機を無理やり改造した小型機だ。
翼下に即席の爆装。IFFは偽装、渋谷上空は依然ジャミングで飽和している。
短距離突入で迎撃網を振り切り、広域ジャミングで対空システムの反応を数十秒遅らせていた。
咆哮するエンジン音とともに、機体はビル群を縫うように降下する。
弾薬も、回避も、帰還も考えていない――神風特攻。
「サルバトーレ・ロキこそが、真なる世界の救世主ぅううううううううううう!!! ばんざぁあああああい!!」
爆炎。
瓦礫の街をさらに抉る轟音。
その隙に、ロキは闇へと身を投げ、姿を消した。
爆煙が晴れた時、交差点の中央に――センはまだ立っていた。
衣の裾が焦げ、灰が舞っている。
それなりのダメージを受けている様子だが、致命傷には見えない。
彼は肩を竦めて、短くつぶやく。
「……子分に神風やらせるとは、なかなかの器だぜ。少なくとも、ただの厨二じゃねぇ」
そして、砕けた舗道に腰を下ろし、そのまま背をあずける。
まるで人ごとのように、静かに目を閉じた。
(忠誠心で神風を実行できるヤツが、この時代にいるとは驚きだぜ。その精神性は、かなり使える。特別訓練施設送り決定。徹底的に鍛え上げてやる)
都市の血戦は、こうして幕を閉じた。
【SNS】
〈渋谷やばい、軽ジェット落ちたぞ!?〉
〈それでも死んでねぇ…バケモン〉
〈今度こそ死んだと思ったのに〉
〈#謎の傭兵部隊 vs #渋谷の神〉
★
――ロキは、焼け跡の都市を背にして、闇の中へ消えた。
神に挑んだ牙は折れ、子分は灰に変わった。だが、彼の瞳はまだ死んでいない。
「……化け物め」
唇を噛みながら、
「だが――無敵ってわけじゃなさそうだ。今回のアタックで、多少はダメージは与えることに成功した。刺激は通る。ならば増幅すれば、貫ける。問題は火力だ。現状の武器じゃ、話にならねぇ。もっと、なにか……もっと……」
つぶやきながら、ロキは夜空を仰いだ。
と、そのとき、ジャケットの内ポケットで細い端末が震えた。
液晶に赤い三角形のアイコン。
表向きは冷戦後に廃止された金融用の光ファイバー網だが、地下の支配者たちはそれを「影の国連回線」と呼び、密かに使い続けていた。
ジャミングで市街の通信は死んでいるがこの暗黒インフラは量子鍵配送で守られており、傍受も妨害も不可能。国家すら割り込めない、真の闇回線。
そこから低い声が漏れた。
「……よくぞ生き延びたな。さすがだ、ロキ」
符丁の響き。古い時代の残り香。
それは、知り合いのフィクサーからの招集だった。




