最終話 ロキは死なない。
最終話 ロキは死なない。
ロキは肩で息をしながら、血走った目でセンを睨みつけた。
だが、もはや勝敗は明らかだった。
「……ちっ……!」
彼は懐から小型カプセルを取り出し、床に叩きつける。
――パシュンッ!
白熱の閃光が体育館を焼き、同時に電子音が悲鳴のように弾けた。
天井の照明が一斉に火花を散らして沈黙し、スピーカーも途絶える。
次の瞬間、体育館は真っ暗闇に閉ざされた。
「ぎゃあっ! 目が、目がぁ!」
「くら……暗いっ!」
「な、何も見えへん!」
生徒たちが恐慌に陥る。
泣き叫ぶ声、椅子の転倒、足音が錯乱する。
EMPによる電子機器の停止。
ロキは、それすらも用意していたのだ。
センは闇に包まれても微動だにせず、ただ静かに目を細める。
対応しようと思えばいくらでも出来た。
しかし、センは、あえて、静かに目を閉じる。
闇の奥から、ロキの声だけが響いた。
「神よ……次に会う時は、必ず、貴様を地に叩き落としてやる! 人の世に神はいらない!」
足音が遠ざかり、やがて完全に気配が消えた。
数十秒後。
非常灯が点滅を繰り返し、ようやく体育館が薄明かりに照らされる。
煙と焦げ臭さが残る中で、トコがセンに駆け寄った。
「な、なんで逃がすん? あんたなら、あの程度、どうとでもなるやろ! あいつは捕まえるなり、例の黒い渦で殺すなりした方がええと思うで!」
センは、肩をすくめて答える。
「そう思うなら、自分でやれよ。なんでもかんでも他人任せってのは感心できないぜ」
「……ぃや、他『人』任せって……あんた、『人』ちゃうやん……」
トコの目は疑念を帯びる。
追及の視線に対し、センは淡々と笑みを浮かべ、
「俺が本当に、全知全能の神だったらねぇ……よかったんだけどねぇ」
その曖昧な言葉は、ロキをわざと泳がせているのではないか――そんな疑念を残す。
やがて生徒たちが次々と安堵の息をついた。
歓声と涙が入り混じり、混乱の中にも「守られた」という実感が広がっていく。
その輪の中で――ユズは黙ってセンを見つめていた。
自分のために血を流し、何も言わずに守り切ってくれた男。
赤く濡れた袖口を隠そうともしない姿。
(……忘れられへん。あの血も、あの声も……)
だが――。
「てか、その肩……撃たれとるけど、痛くないん?」
「痛みは置いてきた。修行はしたが、ハッキリいって、この闘いにはついてこれない」
センが話しかけるのは隣に立つトコばかり。
彼女とだけ軽口を交わし、自然に会話を続けている。
その光景を見て、ユズの胸に黒い影が落ちた。
(なんで……あんたばっかり……全部をもっていくんだ……小説も男も……私の欲しいものは、ぜんぶ、あんたの所有物か……ふざけるな……)
歯を食いしばる音が、自分にしか聞こえないほど強く響いた。
燃え上がる恋と同時進行で、強烈な嫉妬の炎が燃え上がる。




