トコ18話 十手。
トコ18話 十手。
体育館の床を踏み砕きながら、トコは一直線にロキへ突っ込んだ。
パワードスーツの補助動力が、腕と脚をしなやかに加速させる。
空気を裂くほどの拳――だが、ロキはステージ上で腰をわずかにひねっただけで避けた。
「――ただの女子高生を兵器に変える。最新兵器というのは瀟洒だね」
愉快そうに息を吐き、ロキは懐から銀に光る武器を取り出す。
それは、時代劇でしか見ないような古風な武器。十手だった。
――キンッ。
トコの拳が振り下ろされた瞬間、十手の枝が鋭く差し込まれ、軌道をずらされた。
フローリングが砕け、木片が飛び散る。
「なっ……」
「面白いだろう。こんな化石みたいな武器でも、時代の最先端と向き合うことができる。人というのは、凄いと思わないか?」
「くっ」
続けて攻撃をしかけるトコ。
踏み込みを変え、拳を横に、肘を縦に、連撃を繰り出す。
スーツの補助動力を最大限に使った攻撃……だが、ロキはひらひらと受け流していく。
十手で最小限に弾きながらするりと抜け出し、
「猫に小判という言葉を、お前に送ろう」
十手の枝先がスーツの関節に突き込み、トコの動きが一瞬止まる。
「その気になれば、これだけでお前を制圧することも可能だが……」
わざとらしく肩をすくめ、ロキはポケットから黒い小型リモコンを取り出した。
「――センエース戦を前に体力を消耗したくないのでね」
ピッ、と軽い電子音。
その瞬間、パワードスーツ全体に鈍い痺れが走った。
HUDが一斉に赤く染まり、システム音声が冷たく告げる。
〈REMOTE SHUTDOWN〉
〈MOTION LOCK〉
「……っ、動かへん……!」
膝が床に沈み、腕は鉛のように重くなる。
最新鋭のスーツは、一転してただの拘束具に変わった。
「鹵獲を考えないやつは三流だろう? 最新武器ってのは、『相手に奪われた時にどうするか』ってのが一番大事なんだ」
ロキは愉快そうに十手を回したあと、ぽいと投げ捨てる。
「スーツを着ていない女の子を相手に武器を持つのは無粋だね」
冷たい声に、体育館に張り詰めた空気がさらに重くなる。
生徒の中から小さな悲鳴が漏れた。
トコは舌打ちし、すぐにバックルを外してスーツを脱ぎ捨てた。
顔を汗で濡らしながらも、目は死んでいない。
床に転がっていた敵の銃を拾い上げる。
〈STUN〉に切り替え、引き金を引いた。
――ロキは冷静だった。
撃ち込まれる電気弾を、ほんの紙一重でかわし続ける。
肩を傾ける、足を半歩ずらす、それだけ。
余分な力も、焦りもない。
すべての弾丸は空を裂き、背後の壁や床に虚しい火花を散らした。
体育館に響く銃声と反響音だけが、現実の惨さを際立たせる。
「素人の銃に当たるほどバカじゃない」
軽く笑みを浮かべ、ロキは続ける。
「銃口の向きと指の動きに注視すれば、弾がどこを通るか予測するのは簡単なこと」
「ちっ……!」
トコは銃を手放し、最後の選択肢を取った。
足さばきを切り替え、相手の腕をとらえる。
道場で半年だけ叩き込まれた合気道の型。
「……せいやっ!」
ロキの手首を極め、体重を乗せて投げ飛ばそうとする。
しかし――ロキは笑った。
「ああ、合気か。なるほどな」
力を抜き、体をわずかに傾けるだけで、トコの崩しは不発に終わった。
重心の扱い方を理解している相手を投げるのは至難の業。
――次の瞬間、トコは背中を押さえつけられ、床に叩きつけられる。
視界が揺れ、呼吸が詰まる。
ロキの笑い声が頭上で響いた。
「悪いが、たいていの武術は経験済みなんでね」
体育館の空気が凍りついた。
生徒たちが絶望的な表情をみせる。
大きな落胆が広がった。
ユズは緊張の限界を迎えたようで、小さな悲鳴とともに、その場にへたりこむ。
そして、制服の裾を濡らしてしまった。
女王様の仮面が完全に剥がれ落ちた瞬間。
今の彼女に、体裁を整える余裕はなかった。




