トコ17話 体育館。
トコ17話 体育館。
――体育館。
ロキは静かにたたずんでいた。
タブレットには、兵士たちの通信ログが赤く点滅している。
雑音だけが残り、まともな反応は一つもない。
「……おっと」
わざとらしい声色で呟く。
ロキの口元には、退屈を紛らわせるような笑みが浮かんでいた。
「もう俺以外、全滅したのか? やるじゃないか。どこのエージェントだ……まさかセンエースじゃあるまいな」
生徒たちは一斉にざわめいた。
恐怖と緊張で泣き声が漏れ始め、体育館全体に張り詰めた空気が広がる。
ロキはその声を愉快そうに聞き流しながら、前列の一人を乱暴に掴み上げた。
肩をねじり、銃口を後頭部に押しつけ、無理やり跪かせる。
「念のため、人質を装備しておこうか」
捕まったのは、クラスの女王――葛葉柚子だった。
「お前は今から俺の盾だ」
「や、やめて……」
「もちろんだとも。俺はレディファーストだからな。ところで俺は何をやめればいいんだ?」
「ら、乱暴しないで……」
「ははは。面白いジョークだ。お前のような程度の低い女に興味はない。犯すことも殴ることもしない。なぜか、わかるか? その価値がないからだ」
「……」
「分かったら、黙って盾に徹しろ。お前を殺すとしたら俺じゃない。センエース……もしくは、このB級映画の主人公だ」
ロキの圧力を前に、ユズは青ざめて小さく震えることしかできない。
いつもの女王様オーラは皆無だった。
――その時。
体育館の天井が、不自然に軋んだ。
数百の視線が一斉に上を向く。
カンッ。
金属を蹴る音と共に、暗がりから黒い影が落下する。
補助動力をまとった足が木のフローリングを叩き、鈍い衝撃音が広がった。
床板がわずかにきしみ、埃がふわりと舞い上がる。
――薬宮トコ。
パワードスーツに身を包み、無音に近い着地を決めていた。
そのまま一直線にロキへ突進。
拳に宿った加速は、空気を裂く轟音を生む。
「おっと……」
ロキは軽く半歩退く。
拳は空を切り、床に亀裂を走らせた。
「っ?! ウソやろ?! 避けんの?! マジ?!」
驚いているトコの顔を見て、ロキはニタリと笑う。
「おやおや、ずいぶんとお若いエージェントさんだ……所属はどちらかな?」
と、そこで、トコの顔を視認したユズが、反射的に叫んだ。
「……く、薬宮……っ」
その声にロキは片眉を上げ、興味深そうに視線をトコへ移した。
「? もしかして、彼女はお前の同級生か?」
「ぇ、あ……はい……」
ユズがか細い声で答えると、ロキは腹の底から笑った。
「はっはっは! どこのタフなエージェントかと思えば……ただの女子高生とはな。センエースの件といい、世の中は面白いねぇ。どうやら、この世界は、俺が想像していたよりもはるかに『大いなる奇抜さ』であふれているらしい」
芝居がかったその声が、体育館全体に響いた。
トコは無言のまま、冷ややかな瞳でその笑みを射抜いていた。




