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ミッション33 『その後の人々』

 火星の大地に二隻の船が砂地へと埋もれている。一方の船は先端が無く、もう一方はその船を掴んでいた。

 ブリッジにいるマリーが明るい声を出す、その姿は包帯などをまいている。


「社長っ磁気場が晴れました。通信です、京子さんです」

「本当っ開いてっ」


 同じく腕や足に包帯を巻いているカグラ、直ぐにブリッジのモニターに京子の顔が映った。


「カグラ、大丈夫っ」

「京子さんっ」

「よかった……生きては居るみたいね。突然コースアウトして消息を絶ったって聞いてね心配して探しに来た」


 心配そうな顔をほっとして胸をなでおろす京子、ノーチラスで起こった事を手短に京子に説明する。一度席を外すねと画面から消えた京子は五分もしないで戻ってきた。

 そして次に京子達が此処に来た理由を教えてもらった。

 磁気嵐の為に救援が出せない中、周りの反対を押し切って救助に来た京子、もちろんレースは棄権扱いだ。

 説明を聞いたカグラは何とも声の出ない声をあげる。


「うわー……」

「そんな顔をしなくていい、アタシ達は好き出で棄権したんだ。こっちのメンバーの了解も取ってあるっ。ああ、そうそう。こらっカメラの前にくるな。そこでいい。それだよ寄越して」


 慌しい声で京子の顔がモニターから消えると作業着をきたゴウの顔が映りこむ。直ぐ京子の顔にもどった。


「ごめん、ゴウの馬鹿が軍や警察が来る前に沈んだ船を調べたいって効かなくてね、変な所にメカニック馬鹿というか。でさ通信帰ってきたよ。副会長カザミおよび数十名現在行方不明、数時間前に火星上空へと逃げた小型船は第二ドームの近くで乗り捨てられ乗務員も現在不明。ったく上は何やってるんだよ」


 報告書を読む京子の顔が怒っている、直ぐにカグラ達の顔をみて呆れた顔で話してくる。


「何笑ってるんだ、そんな怪我までおってるのに」

「ああ、これ軽い打ち身、念のためって所。それにいいじゃない、結局は誰も死ななかったし事件も起きなかった、それにアレを見ているとね」

「アレって?」

「これっ」


 京子が不思議そうに聞き返すと画面から消えるカグラ、直ぐに誰かを引っ張ってくる。

 全身ミイラ男のようになったヤマトであった、顔だけは出しており仏頂面である。

 モニター越しの京子がお腹を抱えて笑い出す。


「あっはっは、ヤマトなんだその格好は、それにその顔っキミの事だそんなに怪我はしてないんだろ?」

「まったくだ、特に傷も負ってないのにこうなった」



 火星の第一ドーム数あるドームの中で一番栄えていて活気があるドーム。

 いくつ物ホテルが並ぶ中一際目立つ高層ホテルの最上階で一人朝食を食べるカグラ。

 窓の外を眺めては、パスタの入った皿の上でフォークを動かす、 地球式の古い喫茶店をイメージした店は今時珍しく紙で出来たメニュー表が立て掛けてあった。



 あの事故から既に数ヶ月がたった。

 レースは結局の所、調停式であったフローレンが総合優勝を果たして幕を終え、事件のほうは表には一切でずノーチラスの船はレース主催のパトリック会長が自費で直す事になった。

 そうする事で反会長派などを押さえる事が出来ると喜んでいた。

 事件を表に出さない事に、その結果に京子は納得が行かずカグラ達へ事件をおおやけにしようと提案を続けていたが『死人が出てないんだから別にいいわよ』と断った。

 笑って答えるカグラに京子も折れて、それならと法外な修理費を要求して手助けをしてくれ、そのお掛けで火星でも一。二を争うホテルで優雅に休暇を過ごすカグラ達。

 

 公式ではノーチラスは制御不能となり火星裏側に緊急着陸という事で落ち着いた。なお交戦したはずのクラークはレースに開始直後にマシントラブルで棄権扱いになっている。


「で、話とはなんだ」


 カグラが指定した約束の時間ピッタリにカグラの席へ腰を下ろすヤマト。コーヒーを片手にして、その香りがカグラの鼻へと付く。

 小さい席に向かい合い座るとコーヒーを黙って飲んだ。

 カグラは黙って一枚のカードをヤマトの前へ差し出す。


「これ。一千万ルピ入っているわ、ヤマトの分。それとこれ雇用契約書」

「首か?」

「違うわよ、いやどうなのかな……」

「わたしから説明しましょう」


 突然の声に振り向く二人。相変わらずのメイド服でカグラの横に立つカルメン。

 口を開きかけたとたん、カルメンの手を引っ張る初老のお婆さんが居た。


「やー、ウエイトレスさん此処におったかのーこれどうやって注文するんだい? え? んったな事言ってもわからんの。席に孫が座ってまってるじゃ席に来ておしえんてんのー。何? 違うって、ほったら事いってもウエイトレスの服じゃんけ、ああっそっか。チップやな。なーんも心配せんでもん。わかっとつちゅうけん」


 ヤマトに説明する前に初老のお婆さんに連れて行かれるカルメン。呆気に取られた二人は顔を見合わせる、カグラのほうが小さく笑い出す。


「ぷっ。だから着替えたほうが良いって言ったのに」

「オレが知っているだけでもう十回以上だな、で何の話だ」

「説明するわよ、船の修理費などを抜いても結構な額が手に入ったのよね。そこでカルメンとも相談したんだけど当分先もわからないし危険手当ボーナスとして全員同じ金額よ。そして、もうこんな命を懸けるような事は無いとは思うんだけど船を降りたいって人が居たらそうしてもらおうかと」


 無言でコーヒーを一口飲むヤマト。


「こういう時は他のメンバーの事を聞くのは野暮なんだろうな」

「そうね。私はヤマトの意思を聞きたい」

「なら俺は答えはこれだな」


 紙とカードをもって席を立つヤマト、真っ直ぐとその後ろ姿を見送ったカグラ。

 お婆さんに丁寧に説明して戻ってきたカルメンが横に立つ。


「ヤマト。行っちゃった……しょうがないよね、元々社長と社員の関係だったし……うんっ」


 カグラが自分に言い聞かせるように喋る、その顔は何処かすっきりしたような顔だ。

 カルメンは黙ってテーブルの上を確認する。ヤマトが飲んでいたコーヒーがまだ湯気を立てて残っていた。


「さて。カルメン、これから忙しくなるけど宜しくね」

「はぁ」


 何故? と言いたげな顔をしているが口には出さないカルメン。察したのかカグラがカルメンへと言い続ける。


「えっ。だってヤマトが抜けた穴を埋めないと、今度はもう少し社会性を持った人が良いわね。求人も出さないとって、ちょっとカルメン何で笑っているのよ」


 力説するカグラの横でカルメンが吹き出しそうな顔をしている、カグラに問われテーブルの上にある伝票挿しを指差した。


「お嬢様、これを」

「え? 伝票がどうしたのよ。そんなに注文してないけど……」


 カグラが頼んでいた物を確認するようにみると、伝票ではなくヤマトの雇用契約書だった。


「なっ」


 短く大声をあげるカグラ。カルメンが横から補足してくれる。


「恐らく、ヤマト様なりの冗談でしょう」

「だーそれならそれで、ヤマトもちゃんと早く言いなさいよねっ私のこの気持ちは、怒りは何処にっ」

「お嬢様、良かったじゃありませんか。誰一人船を降りるって言わなくて」


 カルメンの明るい言葉で『そうなんだけど』とふてくされる。マリーは『この船に居ればまたクラークに会えるかも』と残り。向日葵は『何処で終わってもいい人生じゃがもう少し付き合おう』と言ってくれた。その二人は今は火星の観光である。

 気づいたように横を向くカグラ。カルメンと目が合った。


「そういえばカルメンは……」

「ご冗談をお嬢様。わたしはまだお嬢様に恩を返したと思ってませんので、とことん付いていきます」

「私について来ても何も無いわよ……将来はどーするのよ」


 答えは解かっていたが、何時までもカグラについて行く事はない。心配そうな顔でカルメンを見る。


「そっくりそのままお嬢様にお返しします。わたしとしてはお嬢様の子を世話するが将来の予定ですので」

「子って子供っ……誰も相手居ないわよっ」

「そうでしょうか、このまま行けばお嬢様とヤマト様の子が見れそうで楽しみです」

「なっないないないない」


 ホテル頂上の展望レストラン内で立ち上がり大きな声をあげるカグラ、全員の注目の的である。

 一方ヤマトは地上からホテルを眺めていた。名前を呼ばれて振り向くと買い物帰りのマリーと向日葵に会う。

 口元を少し緩めてヤマトも手を上げて返事を返した。

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