ミッション29 『特訓開始いざゆかん』
宇宙空間に一人用の小型船舶が浮いている。時速数百キロというスピードで直進する船、小さな物体が甲板を弾いていき、そのたびに小さなモニターには被弾箇所が映し出されている。
舵を握るカグラはその度に身体がビクっとなる。後ろにいるヤマトが直立不動のまま指示を出す。
「被弾箇所の確認」
「ひ、被弾箇所。B.Eブロック」
「レーダーの確認」
「れ、レーダーね。真下から大きっ」
カグラが最後まで言い終える前に船体に衝撃が走る、立っていられない揺れで転ぶカグラに、それでも立っているヤマト。
前方の小型モニターには『試験失敗』という文字が映し出されていた。
怒る事も無く励ます事も無く、倒れるカグラの脇を通りスタートボタンを押すヤマト。
画面には『一級操縦士訓練をスタートします』と書かれた文字が映し出された。
「あーーーもーーーーやだーーー」
尻餅を付いたまま手をバタバタさせるカグラ。スイッチをいれるヤマトを睨みつける。
「もうやだっ」
「そうか、では立て、始まるぞ」
小型モニターにカウントされる文字、シュミレーション開始まで十秒を切り出した。
涙目になりながらも立ち上がり旧型の舵を握るカグラ。
カウントがゼロになったとたんにモニターには宇宙空間が映し出されていた。やけっぱちでアクセルを踏み込むカグラ。直ぐに背後からヤマトの声が飛ぶ。
「ロケットスタートと言われる踏み込みであるがレースや緊急時意外では使わない、原点三だ」
背後を見てヤマトを睨みつけるカグラ、再び前を向きアクセルを踏み込む。黙ってその光景を見つめるヤマト。数十分後画面には再び『試験失敗』の文字がでかでかと映し出されていた。
ミニブリッジのドアが開く、カルメンが人数分のケーキを飲み物を持って入ってきた。
「御疲れ様です。どうでしょうか」
ヤマトが首をクイっと向けると、身体を縮ませ三角に足を立てたカグラが座っている。
「お嬢様……休憩しましょう、糖分を取れば疲れも取れますので」
カルメンの言葉で立ち上がると飲み物を取り一気に飲む、一息ついたカグラは口を開いた。
「もーやだっ。なんで突然八方から隕石がくるのよっ! それに、突如現れた異性人から逃げる操作ってなんなのよ。極めつけは外壁の掃除の仕方って、もう操縦と何も関係ないじゃないっ」
「お嬢様少し落ち着いてください、しかし試験ですので」
「二人ともよくこんなのをクリア出来たわね……」
少し考え事をし始めたカルメンがヤマトに向き直る。
「そういえばヤマトさん」
「なんだ?」
「先日京子さんよりデートのお誘いがあったとか」
それまで飲んでいた飲み物を拭き出すカグラ、咳き込みカルメンに背中をさすられる。
「な、ななななっ本当っ!」
「何だ、そんな大げさな事ではない。今回の事で骨を追った分、孫娘と一緒に食事でもと。パトリック会長殿からお誘いを受けただけだ」
「受けたの……?」
「もちろん断った、先にカグラに免許を取らせないとダメなのでな」
「そ、そう」
ほっと胸を下ろすカグラに、コホンと咳払いをするカルメン。
「で、今回お嬢様の免許が取れたら。お二人で取って来てもらいたい物があるんです」
「命令か?」
「命令です」
溜息を付いて『了解した』というヤマト。カルメンはカグラの耳元に口を寄せると耳打ちし始める。
「さ、お嬢様も頑張ってください、最近は京子さんに一歩遅れを取ってますよ、無事に取れたらデートですよ」
「ななな、何のことかなっ」
「なんだ、何を騒いでいる」
騒いでいるカグラを見ると仏頂面のまま質問をするヤマト。相変わらず機嫌が良いのか悪いのかわからない。
「な、何でもないわよっ、練習よ練習っ」
「ふむ、やる気が戻ったか、次は船員が全部ゾンビウイルスにやられて艦内を逃げる練習だ」
「本当にこれ、意味あるの?」
疑問の声を他所に練習は夜遅くまで続いた。




