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ミッション21 『社員旅行・後』

 水着の二人と迷彩服のヤマトとアンバランスな組み合わせの三人は他のメンバーと合流する。船医もかねているマリーが心配そうにカグラに駆け寄った。


「社長怪我はなかったですかっ」

「大丈夫っ! ちょっと髪が焦げたぐらいだけど……」


 カグラの言葉に、怒りを込めた声でヤマトを呼びつけるマリー。


「ヤ、ヤマトさんっ」

「なんだ?」


 呼ばれて真っ直ぐにマリーを見つめるヤマト、余りに真っ直ぐに見つめのでマリーの顔が赤くなっていく。


「そんなに見つめられると……照れちゃいます」

「なるほど、肉が欲しかったのか」


 ヤマトは静かに頷くと鉄板の上にある肉を小さく切ると取り皿に並べていく。黙ってマリーの前に差し出した。


「食べやすいように細かく切っといた」

「あ、ありがとうございます。じゃなくて……、近いっ近いですから、あのもう少し離れて下さい」

 

 なんなんだ? という顔をしながら数歩下がるヤマト、深呼吸を数回したのちようやく喋った。


「髪は女性の命でもあるんですから、余り無茶な事につき合わせたらダメですよっ」

「そうか、二人ともすまなかった」


 素直に謝るヤマトを見て周りが驚く、直ぐにカグラが笑顔で答えた。カグラの焦げた髪を器用に手入れしているカルメンも頷く。


「べ、別にそんなに怒ってないから大丈夫よマリーちゃん。ちょーっと、いや。かなり驚いたけど幸い命はあるから」

「そうですね、ヤマトさんとご一緒なら恐らく命の保障だけは安全な気がします」

「そうだ、悪いと思っているなら私にも肉切り分けてよっ」


 それぐらいの事ならと一口代に肉を切り分けていくヤマト、カグラの分だけな筈なのに京子とカルメンも皿を出して待っている。特に文句もいう事もなく淡々とこなす。

 モテポイントを稼ぐ為にゴウも細かく肉を切るのだがゴウの切った肉は余っていく、向日葵がゴウの腰を軽く叩くと首を左右に振った。


「ちょっと食べるのには形が良くないのー……しょうがないゴウ坊のはワシが食べてあげようじゃの」

「お子様に慰めてもらってもなぁ」

「あっそうか、ゴウ坊はワシの事知らないんだ。エンジン買い付けに来た時も顔合わせしなかったもんじゃの。残念じゃのマックスの若い時そっくりなのに」

「ん? マックスってマックス技師の事か? えーっと、ひまっちって孫が何か?」

「さてのー」


 答をはぐらかす向日葵、それを不思議そうに見るゴウであった。


 食事の後は寝る場所の準備である。折角のキャンプという事で大きなテントを用意してきた京子、実に十人は入れるぐらいの大きさを用意してきた。

 もちろん組み立ては男二人である、軽々と作るヤマトに必死に作るゴウ。女性陣が夕食の片付けを終えた頃にテントも完成した。


「ふー出来た……」

「お、出来たみたいだね、おつかれさん」

「いやーこれで可愛い子と一緒に寝れるなら問題ないっ」


 京子が鞄を背負い近くによってきた、労いの言葉に力強く説明するゴウ。その言葉を聞いては溜息を付く。


「あんた。他のチームと、それも女性と一緒のテントに寝かせるわけ行かないだろう、あんたはコレ、船から取ってきてあげたよ」


 鞄から簡易寝袋を投げて渡す京子、その数は一個である。京子はもう一人の男、ヤマトの手を握ってテントへと連れて行こうとする。


「まてまてまてまて、オレっちがダメでヤマっちがオーケーとか無いっ」

「ちっ。冗談だって」

「舌打ち、舌打ち聞えたからっ」

「何々ー? 何の騒ぎー、おっ、二人ともお疲れ様ー、間近で見ると大きいねわね、十数人は中で寝れそう……」


 騒ぎを聞きつけカグラが京子の側に寄ってくる。その姿を確認したゴウはカグラの足元に座り込むと両手を握り懇願し始める。


「聞いてくださいよ。カグラっち。俺たちが一生懸命作ったテントなのに、俺だけが入れてもらえなく、ヤマっちだけが皆と一緒に寝るって」

「本当っヤマトっ!」

「俺は何も言っていない、京子の冗談だろう。大型テントとは言え男と一緒にいるとカグラやマリーの気が休まらないだろう」

「んー私はヤマトを信頼してるから平気だしマリーちゃんも最近は男性慣れて来てるし、ヤマトなら案外うーん」


 腕を組んで悩んでいるカグラを見て溜息を付くヤマト。


「個人的観念に文句を言うつもりはないが、あまり男を信用するのも良く無いぞ」

「あーのーねー。私はヤマトだからって言ったのよ。ゴウ君みたいな子だったら拒否するわよっ」


 ゴウに指を挿して喋るカグラ、指されたゴウは『そりゃないぜっ』て顔をし始める。


「カグラっち、オレっちの何処が信用出来ないっていうんだ。絶対変な事はしないから、寝返り打つ序に触るとか、抱きマクラと間違えて抱き着くとか絶対なからっ」

「そーいうー所よ……ゴウ君には悪いけど手首だして」


 言われた通りに手首を前に出すゴウ。その手首に銀色のブレスレットを装着したカグラ。


「カグっちこれってっ」

「うん。囚人用センサー。んでこっちが親機、寝る時にスイッチオンにするから、このようにと」


 親機のボタンをオンにするカグラ。強力な目覚まし音がなり森林に居た鳥が一斉に飛んだ。直ぐにオフにする。


「びっくりした、鼓膜破けるかとおもった。こ、このように音がなるから半径三十メートル以上はなれてね、鍵は明日の朝って事で、カルメンに相談したら用意してくれたのよ」

「よかったな、コレでゴウも信頼される男になるだろう」

「ヤマっち、オレっちは後で信頼されるより今信頼されたいのっ」


 砂浜に座りぐったりと肩を落すゴウ。

 鼻をスンスンと鳴らすカグラ、自分の腕や服の匂いを確かめるとしかめっ面になった。

 

「京子さん、もうそろそろ行きましょうか」

「ん? 何処にいくんっすか」

「お風呂よ、間違っても覗かないでよ? 念のためにコレもっていくからっ」


 手には発信機を持ちゴウに見せ付ける。


「い、いやだなー。そんな発信機あったら覗こうにも覗けないじゃないっすか。いや元から覗く気はないっすよ?」

「それじゃ、私達はちょっと居なくなるけど大丈夫?」


 ゴウの言葉を無視してカグラはヤマトに確認すると、ヤマトも大きく頷く。


「子供じゃないんだ行って来るといい」

「あんたも、何か保護者みたいな言い方ね」


 カグラ、京子、マリーにカルメン、それに向日葵が雑談しながら森へと入っていく。京子の話ではこの島には複数の温泉が沸いていて美容にもいいと皆に話していた。

 残ったヤマトは手ごろな岩に腰を落ち着けると星空に変わりつつ空をみながら飲料缶のフタを開けた。

 一度視界から消えたゴウが戻ってくると砂浜の上で必死にリングを調べていた。

 ヤマトは中身の無くなった飲料缶を捨てるとゴウに聞く。 


「何をしている?」

「みりゃわかるっしょ。発信機の解除、腐ってもオレっちはエンジニアだぜっ。調べればコレぐらいの事は……」

「外してどーするんだ?」

「どうって……」


 作業をとめて驚いた顔をするゴウ。ヤマトのほうをみて言葉を続けた。


「覗きにきまってるじゃん。『覗かないでよ』ってのは、『どうぞ覗いてください』ってフリなのフリ、なら男としては当然よ。カルメンっちもマリーっちも中々のナイスバディじゃないのよ。ヤマッちも行く?」

「断る、面倒ごとはゴメンだ。それに俺も少し汗を流したい反対側のほうにも温泉が沸いてたのを昼間確認した」

「そっ。んじゃ楽園の扉は俺一人ってねー、よし発信機の方が切れたっ。じゃっそういう事で」


 ゴウはそそくさのカグラ達が消えた森へ入った。


「物好きな……」


 独り言を言うヤマトも着替えを片手に反対の森へと入っていった。


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