第8話 黒光りするアレを、震える手で触る女子高生メイド
それから俺は、何度か座間法律事務所に通った。
会社設立に関する相談だけでなく、アレクセイと夢花の雇用契約についても色々教わっている。
担当弁護士は、やっぱり律矢法子先生だ。
……というか法律事務所にいる他の弁護士は、俺に近づいてもこないんだよな。
金にならない案件を持ってきた、邪魔な客だと思われているみたいだ。
色々探りを入れてみてわかったんだが、律矢先生はとてつもなく優秀だ。
司法試験は1発合格。
公認会計士の資格まで持っているらしい。
優秀すぎるせいか、無茶な仕事の振られ方をしているようだ。
事務所にある彼女の机には、いつも山のような書類が積み上げられている。
それだけ頑張っているのに、先輩弁護士達の態度はひどい。
すぐ怒鳴る奴。
嫌味を言ってくる奴。
すれ違い様に、お尻を撫でていた奴までいた。
尻を撫でるのはもちろんセクハラだが、人前で怒鳴るのもパワハラになるんじゃないのか?
法律を扱う人間が、平気で法を犯すというのはどうなのか。
俺の応対中なのに自分達のお茶くみをさせるし、もうめちゃくちゃだ。
律矢先生は、こんな事務所にいるべき人物じゃない。
俺は決心した。
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ある日、アパートの自室にいた時のことだ。
「ご主人様、郵便がきたわよ。本人限定受取郵便だってさ」
今日も俺の部屋に、夢花がきている。
まだ正式に雇ったわけじゃないから、来なくていいと言ってあるんだがな。
しかも恰好がメイド服だ。
ご近所の目が痛い。
アレクセイも無駄に執事服を着たがるし、コスプレ大好きな遠藤親子には何を言っても無駄だろう。
郵便屋さんは戸惑っていた。
ボロアパートから、突然メイドさんが湧いてきたんだから当然だ。
彼から小さな箱を受け取った。
中身はなんだろう?
「ご主人様、何が届いたの? えっちなDVD?」
「お前は雇い主を、何だと思っているんだ? アレクセイに指導してもらうぞ? ……しかし、何だろうな? 通販とかは、何も注文していないんだが……」
箱に貼り付けてあるラベルを見ると、クレジットカード会社の名前が書いてあった。
嫌な予感がする。
そういえば俺は、無職になったことをクレジットカード会社に届け出ていない。
お怒りの書状でも届いたか?
とにかく、開けてみることにする。
ダンボールの中から出てきたのは、ちょっと高級感のある小箱。
そして何枚かの書類。
書類のうち1枚には、こう書いてあった。
レベルアップおめでとう!
毎日のログインボーナスが、1000万円から1億円になるよ★
それと今回のレベルアップでは、便利なカードも付きます★
ジャンジャン使ってね♪
――女神アメジストより――
相変わらず、★や♪が多い文章だ。
そういえば今日は、レベルアップの日だった。
どうやら今回のレベルアップでは、ログインボーナスの額が上がるだけでなくアイテムも付くらしい。
「ご……ご主人様……。これってまさか……。漫画とかでよくある、あのカードなんじゃ……」
夢花が震える手で、黒光りするカードを摘まみ上げている。
こいつ、勝手に小箱を開けやがったな。
「ブラックカード……ってやつか……」
付いてきた説明書によると、利用上限額は1億円。
飛行機の手配やレストランの予約を代行してくれる、コンシェルジュサービス付き。
その他色々な優遇を受けられる、とんでもクレジットカードだ。
しかし、どうやってカード会社の審査に通ったんだろう?
まだ会社設立までこぎつけていないから、俺の職業は無職だぞ?
「ぐふふふ……、ご主人様すごい。ブラックカードに、毎日のログインボーナスが1億円! 1ケ月で31億円! 1年で365億円!」
「おーい、夢花。顔が福沢諭吉になってるぞ」
もちろん冗談だが、変な顔になっているのは確かだ。
ちょっとヨダレまで垂れている。
年頃の女の子が、見せていい表情じゃない。
「ねえねえ! これだけ収入があるんだから、大きな家を買って引っ越そうよ! あたし、豪邸で住み込みメイドやりたい! お父さんも、大きなお屋敷で住み込み執事する方が燃えるはずよ!」
なんでこいつは、住み込みやる前提で話しているのか……。
まあ、アパートに住み続けられないというのは確かだな。
ここじゃ、夢花とアレクセイの仕事がないし。
「……そのことなんだが、ちょっと考えがある。もう少し、家を購入する資金を貯めたいんだ」
「えっ? 1日1億の収入があるご主人様が、貯めないと買えない家? どんな大豪邸なの?」
「それは……まだ秘密だ。アレクセイにも、黙っておいてくれよ。ビックリさせたいんだ」
庶民の俺は、お金をドカンと使うのにまだ抵抗がある。
だけど家に関しては、大金をつぎ込んででも欲しい物件があった。
「毎日1億円ももらえるようになったのは、ありがたいな。これで夢花やアレクセイに、充分な給料を払うことができる。……あの人にもな」
「ご主人様って、お金を他人に使ってばかりね。少しは自分の贅沢のために使っても、罰はあたらないと思うわよ?」
「そうか? それじゃ今夜はブラックカードもらった記念に、豪華な晩飯にするか」
その晩、俺達の夕食は焼肉だった。
5万円もするシャトーブリアンだ。
高級ステーキに使用されるそれを、しょぼいホットプレートで焼肉にするという暴挙。
火を通すと油がじゅわじゅわと溢れ出してきて、思わず唾を飲み込んだ。
焼ける匂いは、嗅ぐだけで鼻が幸せになる。
有能執事が完璧な加減で焼いてくれた肉を、口に入れた。
信じられない。
とろけるような柔らかさだ。
アレクセイは、「私は焼く係なので」と遠慮した。
だけど俺が、むりやり食わせた。
この美味しさを、共有したかったんだ。
ちなみに夢花の奴は、俺がすすめる前にモリモリ食べている。
「『自分の贅沢のために』ってあたしは言ったのに、結局は高級焼肉もみんなで食べてる。ご主人様は、お人好しよね」
「夢花、口を慎みなさい。旦那様は、器が大きいのだ」
お人好しでも何でもいい。
贅沢をするなら、誰かと一緒にやる方が楽しい。
そう思っただけだ。
俺の贅沢は、留まることを知らない。
焼肉を食べたあとは、デザートだ。
コンビニで買ってきた、ハーゲンダッツだ。
こんなお高いアイスクリーム、初めて買ったぜ。
ログインボーナス増額とブラックカードで気が大きくなっていた俺は、冷凍庫いっぱいのハーゲンダッツを購入していた。
そしていっぺんに2個も食べて、腹を下した。
やはり慣れない贅沢をするもんじゃない。
3個食べた夢花がケロっとしているのが、納得いかなかった。
お読みくださり、ありがとうございます。
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