九十四話 次のお店はどこでしょう?
特殊効果、ネトゲ風に言えばバフが近いでしょうか。そんな特殊な装備を手に入れた私たち、というか主にルナちゃんが、ビックリするくらいの強くなっていました。
「ヤバイッスよこれ!! めちゃめちゃ切れ味いいッス!!」
回転しながら十体近くいる敵を斬り刻むルナちゃんは、とても楽しそうでした。というか、ハイになってます。
服屋を出てから遭遇した、観葉植物のような風体の魔物は全てルナちゃんが倒してくれています。私が出る幕もなく、アッサリと敵は無力化されていくのです。
「いつも以上にテンション高いですねルナちゃん。油断さえしなければ、この辺の魔物は相手にならないです」
「しょーせーもすごいとおもうであります。ルナ様、ずっとからだの芯がブレないでありますよ」
「言われてみれば……」
元々の運動神経がいいらしく、バーサク状態のルナちゃんは完璧に剣を使いこなしています。名前がアレですけど。
「ウィルも、すごいと思うですの。ウィルだったらあんなに大きな剣、地面に引っかけずに振り回せないですの。あの剣、ルナ様と同じくらいの長さがあるのにすごいですの」
身体の制御が上手いようで、みるみるうちに上達しましたし。あの子には魔法の才能は皆無のようですが、代わりに剣の才能があったみたいです。
「あの様子だと、近接はルナちゃんに任せて、私たちはサポートに回るのがいいでしょう。もっとも、普通の敵相手じゃそれも必要なさそうですが」
ルナちゃんが近接を担当してくれることによって、私の負担が激減したのはありがたいです。最近ずっと私一人で戦闘をしていましたから、他に戦力が増えてくれるのは実にいいことだと思います。
「ルナちゃーん、あまりムリはしないでくださいねー?」
「大丈夫ッスよセンパイ!! 今ならあたし、神サマもナマズ斬りにできそうッス!!」
「ナマズじゃなくてなます斬りですよールナちゃん」
ナマズっておいしいんですかね? 食べられるのかどうかからして疑問ですが。
それはさておき。ルナちゃんの活躍により進むのがだいぶ楽になった私たちは、進むスピードがずいぶんと上がっていました。もう七つもエスカレーターに乗りましたよ。
八つ目のエスカレーターを降りた先に待ち構えていたのは、ここが地球であれば大喜びで突撃したであろう店が立ち並ぶエリア。すなわち、本屋エリアでした。
案の定、それに気づいたルナちゃんがこれまで以上のハイテンションであちこちきょろきょろし始めました。
「せ、センパイセンパイ! 本ッス、本があるッスよ!? はっ、まさかあの青い看板は、アニメショップでは!? あ、あっちには中古らしき本屋も、ていうかグッズ専門のショップまであるッスー!!」
「ルナちゃん、ですからここには私たちが知っているような話の本はないんですってば」
「でもでも、ガンバって探したら一冊くらい知ってる本あるかもしれないじゃないッスかー!!」
「本そのものは見覚えがあったとしても、中身がそうとは限らないんですって」
「ううぅ、こんなにたくさん本があるのに読めるのがないとか、いじめすぎるッス……」
「それに関しては激しく同意です」
これが地球の本屋であれば、狂喜乱舞しますよ私だって。最後まで読めずに死んだ本、何冊あると思ってるんですか。
注意深く近づいて見れば、やはり知らないタイトルの本だらけでした。ああでも、似たようなタイトルの本はありますね。表紙はほぼ前衛アートですが。
『わんちーず』、『ぶりーき』、『ぎんたら』、やらなんやら、ガンバればなんと書こうとしていたかわかるものから、『さいりうむおのさいはん』、『すえっとぱんつ』、『かんばつこうじつ』などなど、意味不明のものまで様々です。
「これまでナノさんたちの書いた言葉を考えてみると、どうも四文字以上の言葉を正しく書けないみたいですね。三文字なら、割と合ってる場合ありますし」
あと、二つ以上の単語が合わさってできていても、ナノさんたちはひとかたまり認識のものが多いようで、ミスってることが多いです。母音は割と合ってるみたいですが。あと、最初の一文字も。そして日本語よりも、英語の方がミス率高いような気がします。
「本って、不思議なものが多いですの。見たことないですの」
「この世界、まだあんまり書物が広まってませんからね」
「ていうか、なんか少年マンガの中でもおんなじ雑誌のばっかッスね」
「ああ、それはたぶん一応コーナー作ってるからだと思いますよ。あっちには、少年マンガじゃないと思われるものもありますから」
奥の方に見えるコーナーには、『すごしゃら』とか『きびにとどめ』とか書いてありますし。『とうひょうぶーむ』はマンガっぽいですが、あっちのラノベっぽいのはホントなんでしょう? 『そーろさんとこんばいん』とか『ぼむはものさしがぬくたい』とかは、もはや元ネタの想像すらつきません。
母音が似たのを総当たりすればいずれわかるかもしれませんけど、ナノさんたちのやることですからねぇ……全然違うものをイメージして作っている可能性も高いんですよね。
その証拠に、『ぶりーき』の表紙に描かれているのはどう見てもロボットですし。
「でもまあ、これでわかりましたよね? ナノさんたちが作るものは似て非なるどころか、完全に別物だということが。なので、諦めた方がいいです」
「そんなぁッス……うう、パチモンでもなんでもいいッスから、面白い本が読みたいッス! なんなら、本の世界に行きたいくらいッス!!」
『了解しました。四名様、ごあんなーい』
「へっ!?」
今、なんか声が……!?
声の主を発見する前に、電源でも落としたみたいに視界が真っ暗になってしまい――




