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九十二 服屋ではありますが……

 マネキンに出迎えられた私たちでしたが、少なくとも向こうにこちらを襲う意志はないようでした。


「あの、マネキンさん……でいいんですか? ここはどんなところなんです?」


 イチかバチかでマネキンに尋ねてみますと、不自然な笑みと共に回答がありました。


『エエ。ココハ、ハイッタガサイゴ。ジブンニニアウフクヲミツケルマデ、デラレマセン』


「はい? で、でも私たち、お金を持ってなくてでですね……」


『ナラ、モデルヲスルノデス』


「モデル?」


『ワタシノキテホシイフク、ゼンブキテクレタラ、ソトデテモイイデス』


「また面倒な……」


『キョヒケンハ、アリマセン』


 要するに、私たちを着せ替え人形にして満足したら解放してやる、ってことでしょう。ここでこのマネキンさんを倒しても、意味がなさそうですし、言うことを聞きましょう。


 だってこのマネキンさんの他にも、こちらを不気味な笑顔で見るマネキンが何体もいるんですもの。私たちが怪しい動きをしたが最後、襲いかかって来ると思ってよさそうです。


「はぁ……ルナちゃん、お願いですから勝手な行動しないでください。もうホントお願いします」


「ご、ごめんなさいッス……」


 ため息交じりにそう言うと、一応反省の色を見せるルナちゃん。ですがきっと、またやります。一度で言うこと聞いてくれたら、私はこんなに苦労してません。


 呆れつつも、仕方がないので着せ替え人形に甘んじることとしましょう。


 私が了承すると、さっそくマネキンさん――白い服を着ているので暫定的に白さんと呼びますが、白さんが服を持って来ました。


 十二単(じゅうにひとえ)を。


「ってこれいつの時代の服です!?」


 なぜに十二単。ていうか、なんでこんなところにあるんですか!! この世界にこんな服を着る文化、なかったはずなんですが……フィーマさんを含むエルフの方々もドワーフの方々も、全員洋服だったじゃないですか。


 そうツッコんだのですが、聞いているのかいないのか、白さんは反応しません。


「というかそもそもの話をしますが、私はには実体がないので服を着替えるのは……」


『ダイジョウブデス。コノフクハ、マホウノフクナノデ』


「とっても便利な言葉でごまかしましたよこの人……」


 魔法って言っときゃいいやみたいな感じですかそうですか。まあ実際、この世界そういう部分ありますけども。


 そんなこんなで、私も着せ替え人形からは逃れられそうにありません。


 諦めて白さんに渡された服を着ます。他の三人も、それぞれ別の服を渡されたようですね。


 特に意味はないのですが、一応試着室に入って着替えます。私が触れられた時点でわかっていましたが、本当に着替えられますねこれ。しかも、鏡の前でこの服を身体に当てただけで勝手に格好が変わりました。


「ていうか十二単って……重さは感じないからまだいいとしても、動きにくいですね……」


 私が着せられたのは、ひな人形が着るような赤系が一番上に来た十二単です。これは似合ってる……んでしょうか? 生前フォルムならいざ知らず、今の見た目だと微妙な気がします。生前フォルムだった場合、完全に日本人形と化しますけど。


 なんとも言えない気分になりながらも試着室を出ると、そこにはすでに三人が立っていました。もう着替え終えたようです。


 まず目に入ったのは、ルナちゃん。着ていたのは、なぜか、本当になぜかビキニアーマーとまではいかないものの、かなり露出度の高い鎧でした。それに合わせてか、髪型がポニーテールへと変わっています。


 似合うかどうかと訊かれたら、とても返答に困るんですが。元の姿ならいざ知らず、今のルナちゃんはお人形さんのような銀髪赤目の幼女です。なんと言いますかすごくミスマッチですね。


「センパイセンパイ、なんであたしこんな格好してるんッスかね……」


「すみません、それ私が訊きたいです」


「あのあの、ウィルもなんでか訊きたいですの……全然似合わないですの」


 困惑した声の方を見れば、そこには執事服を着たウィルちゃんの姿が。


 ウィルちゃんは小さいせいか、黒いかっちりした燕尾服のあっちこっちが、若干余っています。全体的にぶかっとしていて、これはこれでかわいらしいですが……なぜこの格好をチョイスしたんですか、白さん。


「な、なら、しょーせーはどうなるでありますか……」


 泣きそうな声を出すクロノスくんが着ているのは、フリフリのゴスロリでした。


 レースやフリルをふんだんに使い、ふわりと膨らんだスカートのゴスロリは、とてもかわいいものです。そしてある意味では、クロノスくんが一番似合っていたりするんです、これが。


 クロノスくんもまだ小さいですし、中性的な顔立ちをしています。元がかわいらしいですので、これがまたよく似合うんですよ。


 でもそれを言ったら本気で泣かれそうなので、黙っておきました。


「あの、マネキンさん。着替えてみましたが、この格好はいささかどうかと思うんですが――」


『いえいいんですこれが最高なんです、我が生涯にいっぺんの悔いもありませんひゃっほーいっ!!』


「「「「は?」」」」


 え、え? あれ? なんか明らかにさっきとキャラが、というかなんで興奮状態なんですが白さん方!?


 それまで不気味な営業スマイルしか浮かべなかった白さん方はひとしきりはしゃぎ終えると、とても満足そうな安らかな顔になりました。


『もうこれで、思い残すことはありません。ああ、コスプレ最高――』


 ニッコリと満面の笑みでそう言った白さんを含めたマネキンさんたちは、スゥッと薄くなって見えなくなって行きました。後に残されたのは、謎の格好をさせられた私たちだけ。


「ただコスプレさせたかっただけなんですか!?」


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