幕間(四十九話) ものすごーく久しぶりの再会です
「お久しぶりです、松木様。その後いかがお過ごしでしょうか」
「こんにちは……って、本当に久しぶりですね。私が転生する前ですから、数千年ぶりになるでしょうか。吉田さんも、お変わりないようで」
眠ったはずの私の元に突如として現れたのは、生まれ変わる時にお世話になった吉田さんでした。数千年経っているはずなのですが、吉田さんの外見が変わりません。スーツは新しくなっていますが、どことなくあか抜けないんですよねぇ。
「というか吉田さん、本気で年を取ったように見えないのですが。あなた、不老不死かなにかなのですか?」
「あ、いえそういうことではありません。現在あなたが住んでいらっしゃる世界では数千年経っているかもしれませんが、天国ではまだ一年も経っていないのですよ。天国の時間は、どの世界よりもゆっくりな設定なので」
「そうなんですか?」
「ええ。そうでもしないと、転生先の空きが出ないんですよ。人間への転生待ちの人だけやたら増えてしまうので……」
なるほど、合理的な理由です。ただ恐ろしいのは、その状態にも関わらず数千年クラスの転生待ちがいることですよ。どれだけみんな人間になりたいんですか。
「それで、わざわざ私に夢にまで現れたのはどういう理由でしょう?」
本当に突然現れたので失念していましたが、よくよく考えればおかしいです。天国の方でキリがいいから来たとか、そんな感じでもなさそうですし。ということは、なにか用があって来たと考えるのが妥当でしょう。
私の質問に、吉田さんはどこか気まずそうな顔をしました。
「え、えとその、ちょっとお願いがありまして……」
どうやら、若干以上に問題があるお願いのようです。吉田さんの目が、あからさまに泳いでいるんですもの。
イヤな予感がしつつも視線で先をうながしますと、吉田さんは困った顔でぼそぼそと答えました。
「あの、別に強制というわけではなくてですね、断っていただいてもいいにはいいのですが、こちらとしましては少々困ると言いますか――」
って、答えるのかと思ったのに答えないですよこの人。なんと言うか、ホント気が弱いですよね。優柔不断と言うか。
「端的に言ってもらえますか? 内容を聞いてから、受けるかどうか考えるので」
そう言われてようやく言い訳するのを諦めたのか、吉田さんは今度こそちゃんと答えました。
「今度そちらに新たな転生者を送る予定なのですが、転生していただく存在が人ではなく神霊の類でして……」
「心霊とは、幽霊的な?」
「あ、いえそちらではなく、神の霊で神霊の方です。要するに神レベルの力を持った、松木様と同じような存在というわけですね。ただ神格は松木様に劣るので、どちらかと言えば精霊の方たちに近いかと思われます」
「それどういう基準なんです? いまいちよくわからないのですけど」
「生前の行いや境遇、死因なんかも加味されたうえで決定されています。詳しいことは規則で教えられないのですが……」
ふむ、わからないならわからないで仕方ありません。ただここまで言われれば、吉田さんの言いたいことがだいたいわかりました。
「もしや、私にその転生者の面倒を見ろと言うわけ――みたいですね、その反応からするに」
私が途中まで言った瞬間、サッと目をそらされました。自分が面倒事を持ち込んでいる自覚はあるようです。
「……一応お聞きしますが、どんな方ですか?」
「え、ええと、松木様と同世代の女の子です。同世代と言いましても少々年下でして、享年が十三歳となっております」
「十三歳ですか……」
なんというか、お気の毒です。十三歳ですと、まだ中学生ですよ。私も若い方でしたが、更に年下の子が転生して来るとなるとかなり心中複雑です。
「できればその、新しい転生者には便宜を図ってもらいたいなぁと、いえ正確に言うと、新人教育をお願いしたく」
「新人教育ってなにをすればいいんですか? 私は他人に教えられるほど、偉い人間ではないのですが……」
というか今、私人間ですらありませんが。
私の断りたいオーラを察したのか、吉田さんが盛大に慌てた様子で言って来ました。
「そ、そんな難しいことをお願いするわけではありません! なんと言いますか、一人で生きていけると言うか、一つ世界を治めても大丈夫なくらいの知識を身につける手伝い程度で充分ですから!! ええ!!」
「それ、子育てのレベルすら超越してるんですが」
ふわっと言っても騙されませんよ。一人で生きていけるところまでってほぼ子育てですし、世界を一つ治められるくらいにって、どんなムリゲーですか。本気で神様にしろってことなんですかねぇ……
そもそも、私も誰かに教わったわけじゃないんですけど。
私のツッコミにひるんだのか、吉田さん半泣きでした。そんなに私怖い顔だったのかと思ったのですが、よく見たら今の私生前フォルムなので、威圧感ゼロに等しいのですけど。気ぃ弱すぎやしませんか。
「いやでもあの、申し訳ないとは思っているのですが、他にちょうどいい転生先がなくてですね、色々問題がありまして……」
……気は弱いみたいですが、言うことはキッチリ言いますよこの人。これは恐らく、RPGのキャラと同じです。はいを選ぶまで選択肢がループする系の。あれ、なんであるんでしょうね? 最終的に選択の余地がないのであれば、最初から訊かなければいいだけの話のだと思うのですが。今の状況含めて。
「わかりました、わかりましたよ。引き受けます。ただし、その新しい子がちゃんとしたレベルにならなくても、私に責任は負えません。よろしいですか?」
「もちろんですとも!! 引き受けてくださるだけでもう充分です!! あ、詳しいプロフィールなどは、後で松木様の本体の元へ送らせていただきます! ちゃんと実体のない霊体状態でも触れるようにいたしますので、そこはご安心を!!」
「私が不安を覚えているのは、そんな点に関してじゃまったくないのですけどね……」
大喜びする吉田さんに押し切られ、結局私は新人教育を引き受けることになったのでした。相手も神の仲間のようですし、ここは新神の方が適切ですかね? なんにせよ、目覚めるのがほんのちょっとだけ憂鬱になりましたよ……




