四十八話 もう、寝なくてはいけない時間です
結婚式が終わり、あと少しで日付も変わるころ。だんだんと眠くなるのに抵抗しながら、夜空を眺めていました。周りにいるのはシルフさんだけで、他の人は誰もいません。フィーマさんはまだ結婚式のごたごたが終わってないでしょうから、仕方ありませんね。
「この世界って、月銀色なんですね……」
こうしてゆっくりと夜空を眺める機会なんて、これまでありませんでした。こうも鏡のような銀色をしていることを、初めて知りましたよ。
「ミーシャ様、そろそろお時間が……」
「そう……ですね」
わかってはいるんですけどね。でもやっぱり、名残り惜しいです。この世界に私しかいなかったころは、早く時間が経たないかなと思ったのですが。今は全く真逆のことを思っています。
「私がずっと起きていられたらいいんですけどね……」
「それはその、わたくしとしましても、ミーシャ様にずっといていただけると嬉しいのですが……」
「……すみません、シルフさん。ちょっとしたワガママです。気にしないでください」
わかってるんですよ。私がずっと起きていると、この世界の存続に関わるということは。休眠期がなくなれば、私の本体である世界樹は早いうちに枯れてしまいますから。
私は休眠期の間に大量のマナを地中から吸い上げ、根の中にため込みます。そして目が覚めると同時に葉から放出し、ゆっくりと世界全体に降り注ぐわけです。この世界で死んだ生物は全てマナとして土に還りますから、そうやって私がマナを循環させているんです。
つまり私が枯れてしまえば、この世界も遠くない未来に滅んでしまうということです。それはいくらなんでも、許容できません。
「シルフさんは次に私が目を覚ました時も、そばにいてくれますか?」
「もちろんですとも! それこそがわたくしの存在理由だと言っても過言ではありません!! わたくしがミーシャ様のおそばを離れるなど、この世界が滅んでもありえないことです!!」
「ふふ。なんか安心しました」
いつもだったら大げさ過ぎますとツッコミをいれているところなのですが、今日はなんだかとても和んだのでやめておきました。シルフさんはいつも通りで、どれだけ長い時間が経ってもそばにいてくれると確信できましたから。
「さて……そろそろ本当に寝ましょうかね」
あと十分もしないうちに日付が変わってしまいます。諦めて寝ようとした、その瞬間でした。
「ミーシャ様!!」
「フィーマさん?」
かなり遅い時間まで二次会的な宴会をしていたのでまだ抜け出せないと思っていたのですが、まさか来てくれるなんて……
相当急いで来たのか、かなり体力があるはずのフィーマが肩で息をしていました。ケホケホと少しの間むせていたフィーマさんでしたが、ようやく息を整えると私に向き直りました。
「み、ミーシャ様、そのこんな時間にご迷惑かとも思ったのですが……しばらく会えなくなると思ったら、いてもたってもいられなくなりまして……」
「迷惑だなんてこと、これっぽっちもないですよ。とっても嬉しいです」
来てくれるとは、思っていませんでしたから。
「ミーシャ様、今日までありがとうございました。それと色々ご迷惑おかけしまして、すみませんでした」
「いえいえ。私も楽しかったですから、迷惑だなんてこと全然ありませんよ」
これは事実です。フィーマさんがいたからこそ、色々な体験ができたわけですから。
「目が覚めたあとも、またわたしと会っていただけますか?」
「ええ、もちろんです。きっとまた、会えますよ」
「大丈夫です! わたしずっとフォストに住みますし、ピッタリ五十年経ったらまた来ますから! その時はきっと、子供と一緒に来ます!!」
「……約束ですよ? ちゃんと五十年後もいてくださいね?」
「ええもちろん! 五十年後どころか百年後だっていますとも! そのころはさすがに王なんて大役は次の者に譲っているでしょうが……」
「え?」
「え?」
な、なんでしょう、今のフィーマさんのセリフにあちこちに違和感があったんですが……
「あの、今五十年後の話をしているんですよね?」
「え、ええ」
「なんかこう、ずいぶん近い未来の話をしている気になって来るのですが……」
せいぜい十年後くらいの話をしているような気分になっているのですが。
「五十年なんて、あっという間ですから。それくらいでしたら、見た目もそれほど変わらないでしょうし……」
「……あ」
そこまで言われて、やっと気がつきました。フィーマさんの見た目が、初めて会った時からほとんど変わっていないことに。
「そうでした、エルフの寿命って千年単位のこともあるんでした……」
私としては本当にあっという間のことでしたので、五十年も経ってる気がしてなかったのも問題の一つです。そうですよね、普通出会ってから五十年経ってれば見た目全然違うものですよね。なんで気づかなかったんでしょうね……
でもこれで、すごく安心しました。五十年後もきっと、フィーマさんはいてくれるでしょうから。
「あ、あの、なにか問題が……?」
「大丈夫ですよ。もう本当に時間がないだけです。……それでは、また会いましょうね、フィーマさん」
「はい!!」
「シルフさん、私が寝ている間のこと、よろしくお願いしますね」
「はい、お任せあれ!!」
お二人の頼もしい姿を見ながら、私は眠りについたのでした。




