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二十八話 シルフさん回ってやつです 1

「平和ですねぇ……」


 ダンジョンを物理的にぶっ潰し、そしてナノさんたちにお説教をした、その翌日。私はのんびりと空を見上げていました。人間だった頃ならばここであくびのひとつも出ているんでしょうが、今の私は五十年単位でしか眠くならないのでそんなことにはならないのです。


 便利なこともありますが、やっぱり実体がないと不便なことの方が多いですね。どうにかして、実体を持つことはできないものでしょうか。


 あ、そうだ。今度フィーマさんになにか正式なお礼の品を用意しなくては。私の命の恩人と言っても過言ではないのです。あの攻撃が本当に私に効果があったかどうかなんて関係なく、やっぱり助けてもらったのですから。


 ちなみにノームちゃんは、またどこかへ旅に出てしまいました。残念です。もっともふりたかったのですが……


 そんなことをぼんやり思っていますと、そばで同じくぼんやりしていたシルフさんが妙な態度で声をかけて来ました。


「あ、あの、ミーシャ様。少々よろしいでしょうか」


「どうしました、シルフさん。あらたまって」


 まあ、シルフさんの場合、私に対してはある意味常にあらたまってますが。


「そ、その、本日行きたいところがございまして――出かけて来ても、よろしいでしょうか?」


 そう言うシルフさんは、なぜか挙動不審です。いつも堂々としているシルフさんがこんな態度なのは、とてもレアな事態です。


「珍しいですね、シルフさんがどこかに行きたいだなんて」


 冷静になって思い返してみれば、自分からどこかへ行きたいなんて言ったのは初めてのことです。いったい、どこになにをしに行くんでしょう?


「え、ええと、わたくしにも用事というものがございましてですね……!」


 目を泳がせて必死にそう言うシルフさんは、とてもかわいいです。抱きしめたくなるくらい。シルフさんが一人でどこに行くのか。私、すごく興味があります。つまり気になります。……なんでもないです、話進めましょう。


 内心で一人でボケて一人で突っ込んでいても生産的なことはなにもないので、とりあえず焦点をシルフさんに戻します。


「わかりました。と言うか、別にどこかに行くのに私の許可を取らなくてもいいんですよ? 本来、精霊さん達は自由なものですし。たまに協力をお願いすることはあるかもですが、基本的にそれも自由だと思っています」


「いえ、そんなわけには!! それにわたくしは好きでやっていますので!!」


 それならいいんですが……


 結局どこになにしに行くのかは言わず、シルフさんはなにやら真剣な顔でブツブツとつぶやきながらどこかへ行ってしまったのでした。


「……さて、遠見の魔法は、っと」


 いちいち追跡しなくても、魔法の目があるのです。魔法、便利。この調子で実体化もできれば、もっと便利なのですが……樹としての実体がある限り、人間の実体を持つのはムリなんですよね。世界樹がなくなってしまいますと、この世界滅ぶ可能性すらありますし。


 というわけで、魔法発動。空中に映し出されたどーんと大きな五十インチほどの真四角のフレームの中で、うんうんと悩むシルフさんが見えました。ついでに音声もオンにしましょう。この場合は、遠見ではなく遠聞ですかね?


『いったい、わたくしはどうすれば……とても今更と言うか、それにこれまでの扱いも……』


 ここまでシルフさんが頭を抱えるなんて、本当に珍しいです。というか初めて見ましたよ。なにをそんなに悩んでいるのでしょうね……?


 しばらく見守っていますと、なんとシルフさんが足を止めたのはどこかの村でした。森の中ではありませんので、フィーマさんが住む近所の集落ではありません。


 そこにいたのは、二足歩行をする様々な動物達でした。


「この世界の動物はみんな二足歩行を……いえ、違いますね、ここは――」


 昔々、人間っぽくなって来たと相談に来た、ダークウルフさん達の集落です。元は、ですが。今はどうも、二足歩行の動物――人語も操れるようなので、ここはシンプルに獣人と名付けておきましょう。


 獣人の集落へと辿り着いたシルフさんが向かったのは、一軒の小さな平屋でした。


『ミリーナはいるか?』


『はいはーい、いますよ、どちらさま、って、シーちゃんじゃない!』


「し、シーちゃん!?」


 驚きです。いやもうホント驚きですよ。シルフさんに獣人とはいえ人間の知り合いがいて、しかもシーちゃんだなんて呼ばれているとは……


 よく思い出してみると、シルフさんが邪険にしていたのって純粋な人間だけだったような……獣人はノーカンなのか、普通に話してます。


 シルフさんの呼びかけで出て来たのは、かわいらしい白ネコの獣人でした。ペルシャネコでしょうか、毛が長くてもふもふで……ものすっごく撫でまわしたいです。まあ、触れないんでできないですが。


 さて、ミリーナと呼ばれたネコ獣人さんは、いきなりやって来たシルフさんを歓迎しているみたいで抱き付こうとしていました。かわされましたが。


『んもう、いじわるー』


『抱きつくのはやめてくれと、何度も言っているだろう』


『だってー、シーちゃん抱きつくのにちょうどいいんだもん』


 不満そうに口をとがらせるミリーナさんは、とても愛嬌のある方のようです。シルフさんってば、いつどこで知り合ったんでしょう?


『自分は今忙しい。今日来たのは、ミリーナに訊きたいことがあったからだ』


『訊きたいこと? ミャーに?』


 ネコっぽい自称ですね。さすがネコ獣人。シルフさんはすでに知っているのでそこにリアクションはせず、普通に会話を続行しています。


『ああ。ミリーナは、なにをもらったらうれしい?』

『魚』


 鮮やかに即答ですか……いやまあネコなので、ある意味正しい欲求ですよね。


『……すまない、お前に訊いた自分がバカだった』


 欲しかった答えではなかったようで、深いため息とともにガックリと肩を落とすシルフさん。というかその質問の仕方では、今のミリーナさんの回答は正しいような気がするのですが……


 ミリーナさんも同じことを思ったようで、さっきよりも不満そうです。


『ミャーは訊かれたことに素直に答えただけなんだけども!! なんでそんなに怒るのか、ミャーには理解不能だよ!』


 あ、語尾はニャーじゃないんですね。自称はミャーなのに。


 そんな私の感想はさておいて、シルフさんも質問がよくなかったと思ったようです。少し考えてから、こう訊き直しました。


『一般的に、貰い物をするならどんなものが嬉しいんだ?』


『いっぱんてきぃ? ミャー、自分が一般的じゃない自覚の元暮らしてるんだけど?』


『なんかすまん……』


 え、一般的じゃないんですかミリーナさん。というかこの世界の一般人の基準、私にはよくわからないんですけど……


 そもそも、私に人間の知り合いはフィーマさんしかいません。


 やっぱりミリーナさんの回答はお気に召さなかったようで、シルフさんは困った顔をしたままトボトボとどこかへ歩いて行きました。次は、どこに行く気でしょうね?


 魔法を連続で使用するのはちょっぴり疲れるので、休憩してから再開することにしましょう。常に姿を変える魔法を使っているので、さらに別の魔法を長時間使うのは燃費悪いですから。


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