百八十七話 ダイスさんの問題があります
食料問題が一旦落ち着き、残る問題はダイスさんの件だけです。地味にルナちゃん向けの魔導書問題もありますが……あれは帰ってからでもどうにかなりますので保留で。帰ってすぐやらないとルナちゃんがまた騒ぎ出しそうなので、忘れないようにしないとですが。
なので早急に片づけなくてはいけない問題である、ダイスさんの件をどうするか考えなくてはなりません。
畑の復活を見届けたのでこのまま帰ってもいいのですが、それだとあとになって困るんですよね。私本体の元にワービスさんがやって来たりなんてした日には、色々大変なことになりますから。そもそも、ただの人間には来るのが厳しいようですが……万が一があります。
ここでぼんやりしていてもどうにもならないので、とりあえずダイスさんに近づきます。木の形態ではなく人型になったドリアードさんと話してたようですね。
「あらまあ、それはたいへんですわね」
「ええもう、まさかこんなことになると思っていなくて……」
「わたくしであれば、最悪記憶を飛ばす薬を調合できますが……あれは副作用もありますわ。あまり人相手に使いたいものではないですわね。本来は暴れ出した動物を落ち着けるために作ったものですから」
い、いつの間にかそんなもの作ってるんですかドリアードさん……超危険な薬じゃないですか! 元の使用目的としては、しょうがないのかもしれませんが……聞こえたかぎりだと、鎮静剤の一種みたいですし。
「あの、ドリアードさん」
「どうかいたしまして?」
「今聞こえて来た話の中の薬って、誰でもできるような簡単なものだったりしますか?」
「いえ、不可能ですわ。その薬にはわたくし本体の樹液、それもわたくしの魂が入った時のものが必要不可欠なのです。それをその後、数百種類の植物をかけ合わせ、さらに一度わたくしの身体に取り込まなくてはなりませんの」
「なるほど、それなら安心ですね」
少なくとも、悪用される心配はなさそうで安心しました。
「あ、すみません。ダイスさんの件を考えなくてはいけないんでしたね」
「すみません、僕なんかのために……」
「いえ、それに関しては私にも責任があるので……もうちょっと目立たない容姿にしておけば、こんなことにはならなかったですから」
「でもそれは、僕が普通の人間と馴染めるようにとおもんぱかってくださったからで……ホント、気にしないでください」
「そうは言われましても……」
ぶっちゃけてしまえば、この世界の問題ってたいてい私に原因がありますからね……それだけでも申し訳ないのに、直接目に見える形で問題が起きてしまえば、放っておくわけにもいきません。
ある意味、壮大なマッチポンプなわけですし。うーん、でもあまり因果をたどりすぎるのも、よくないんでしょうか? 私が余計なことをしたせい、というのであれば、私が死んだこととか生まれたこととか、ヘタをすれば地球の存在までさかのぼっちゃいますし。
となると、やはり目に見えて私の責任であることくらいはキッチリ片づけたいです。今回の場合、ダイスさんの容姿。それから私の浅慮が原因でこんなことになってるわけですから、最低でも安心して私本体のところへ連れて行けるくらいにはならないとです。
「とにかく、穏便にワービスさんに別れを、って言うのも変ですが、波風立てない感じにお断りしましょう」
「わかりました」
そんな風に話していると、意を決した様子のワービスさんがこちらへ歩いて来るのが見えました。
「では、私は近くにいます。断るのが難しそうであれば、合図してください」
「わ、わかりました」
緊張した面持ちのダイスさんをその場に残し、私とドリアードさんは近くに隠れることにしました。元が幽霊みたいな存在なので、実体は持てなくても逆に消えるのは簡単です。
「だ、ダイスさんっ! お話がありますっ!!」
カチコチに緊張しているらしく、ワービスさんは思い切り声を裏返らせていました。この様子だと、やはりもう一度告白するつもりなのでしょう。
「どうかしましたか?」
わかっていても先に言うわけにもいかないダイスさんがそう訊くと、ワービスさんは何度もつばを飲み込んでから、顔を真っ赤にして口を開きました。
「お、俺はこの通りただの村人です。取り柄という取り柄もないですし、苦労をさせないとも言えません。でも! きっとあなたを幸せにします!! だ、だから、その……お、俺、俺と……俺と、夫婦になってくださいっ!!」
だ、段階すっ飛ばしたですって!?
いえもう、なんと言うか……まさかここまではっちゃけるとは、思っていませんでした。付き合ってくださいと言って断られたのに、さらに上の結婚してくださいって……トチ狂ったんですかと訊きたくなるような、とっても勇者なプロポーズです。
私個人の意見としましては、ドン引きです。段階踏みましょうよって言いたくなります。いやでも、世の中にはこれでうまく行く恋愛もあるのかもしれませんが……
私よりも、求婚された本人であるダイスさんの方が困惑していました。そりゃそうだって感じです。
「そ、その……先日もお伝えしましたが、僕はそのようなことを考える余裕は――」
「返事は今でなくても、俺いつまでも待ちますから!!」
どうしよう、という目を向けられました。ええもう、私もそれ訊きたいですよ。
このままなあなあの返事をしてしまえば、ワービスさんはいつまでもダイスさんを待ち続けてしまいます。それはさすがにかわいそうですし……
どう言えば、ワービスさんは諦めてくれるのでしょうか?




