百八十三話 方法は一つです
「ど、どうかしたのですか、ダイスさん? なにやら顔色がすぐれませんが……」
事情がわからないワービスさんまでもオロオロし始めました。それもこれも、私のうっかりミスが原因と言えるでしょう。他に骨の知り合いがいれば別ですが……って、一人いるだけでも充分すぎますよね、骨の知り合い。
そう、ダイスさんは骨です。骨しかありません。肉も皮も、臓器も存在していません。なので、本来食事はとれませんしする必要もありません。というわけで、ワービスさんと食事だなんて元からムリなわけで。最初から断ることができれていれば、話は別だったんですが……
夕食の誘いを受けたのにも関わらず、一口も食べずに済ますのは不自然ですし何より失礼です。明日で私本体のところに来るとはいえ、敵を作るのは好ましくありません。
となると、どうにかして食事をしているように見せないといけないわけですが……いっそ口の中に入ったものを、瞬間移動で外に出すとか。いえでも、私のコントロールって精密性に欠けるので、どこに跳ぶか微妙にわかりません。私も一緒に跳んでいれば大丈夫なのですが……
あとは幻覚で、食べ物が消えているように見せるという手もあります。ですがこれだと、けっきょく残った食べ物の始末に困ります。そうすると、あとは……
「ちょっといいですか、ワービスさん。ダイスさんが忘れ物をしたみたいなのですよ。なのでこれから、二人で取りに行って来ます。すぐに戻って来ますから、心配しなくて大丈夫です」
「え、え? 今から、ですか? ですがもう、外は陽が傾いていますし……明日にするというのは」
「私が一緒であれば、灯りを点けることができますので問題ありません」
「な、なら、俺も一緒に探します!! こういう時、人手が多い方がいいですから!!」
ぐ、粘りますねワービスさん……ですがワービスさんについて来られると、今思いついた案は成立しないんですよ。しかも、一応前例があるとはいえ成功するとは限らない案ですし。
「その、ええと……あ、あれです! あまり人に見せられないものなんです」
強引に言い訳を捻り出すと、ワービスさんは少し残念そうではありましたが諦めてくれたようでした。
「そ、そうですか……」
「心配しなくても、必ず戻って来ますから。少しだけ待っていてください。あ、ダイスさん好き嫌いはとくにないそうですよ」
それだけ言い残し、私とダイスさんは慌てて一度外へと出ました。
「どうかされましたか、ミーシャ様」
「ええ、少々失念していたことがありまして」
シルフさんに軽く事情を説明すると、言われてみれば、という顔をしていました。シルフさんもダイスさんが骨だということを、忘れていたようです。
「それで、どうなさるのですか? まさか、替え玉に幻術をかけるとか……」
シルフさん、頭の回転早いですね。話をざっくり聞いただけでそんな案が出るなんて、すごいです。
感心しましたが、今回は別の手段を取るのが心苦しいです。場合によっては、その案でもいいんですが。
「その手もありましたね。ですがそれだとダイスさんをハブることになってしまいますから、あとの会話に困るかもしれません。なので、あくまで本人にガンバってもらわないと」
「あ、あの、僕どうすれば……!?」
話を聞いていて不安になったのか、オロオロ度の増したダイスさんは涙目になっていました。ぶっつけ本番よりも、こうやって事前に考えている方が不安になるのかもしれません。本番が強いのは私的にはうらやましいのですが、ダイスさんを見る限りそれには気付いてないみたいです。
「長々と話しているとワービスさんに疑われてしまうかもしれないので手短に話しますと、ダイスさんの身体、私が入ってもいいですか?」
「え、あ、はい?」
端的過ぎて逆に混乱させてしまったらしく、頭上にハテナマークが乱舞しているのが見えそうです。
要するに今回の案は、一度私がダイスさんの身体に入り、そこから変身魔法を使う、というものです。
「す、すごいですねミーシャさん!! そんなことまでできるんですか!?」
「できると言えばできますが、問題はさほど長い期間もたないこと、それと変身中はずっと私が中にいないといけないことです」
先ほど見たダイスさんのデータからするに、私との相性がいいとは決して言えません。最大限ガンバったところで、一時間が限度かと。それに一度かけたら、丸一日はかけ直せないのも欠点です。
「ですがこれを使えば、おおよそ問題は解決します。ただまあ、私がいなくなったことについてつじつまを合わせる必要が出て来ますが」
最悪、私がいなくなったように見えたところでワービスさんは気にしないという可能性に賭けることになるでしょう。おそらくワービスさんは、私がいない方が喜ぶでしょうし。ここはそこまで問題視していません。
「どこまでやれるかはわかりませんが、やってみますか?」
少なくとも、この場をしのぐことはできるでしょう。
ダイスさんは少し考える素振りを見せたあと、真剣な顔でうなずきました。
「お願いします、ミーシャさん」
ダイスさんの了解を得た私は、ダイスさんへと同化し変身魔法を使いました。変身内容は、幻覚で作った張りぼてに実体を持たせること。かなり難しい作業ではありましたが、どうにか完成し――
ダイスさん完全体が、ここに誕生しました。




