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百七十四話 実体がある方を選びました

 サッと瞬間移動で私本体まで戻り、持って来たのは一度だけ着たことのある服。十二単、でした。


「な、なんか……重そうな服ですね?」


「ええまあ、重いでしょうね……」


 実体がなくても着ることができる、魔法の服です。ちなみに、防御力も上がるという優れもの。まあ、見た目や動きやすさに難点があるんですが……


 服そのものは、これ以外にはもあります。ですがダイスさんの身長は、私より少々高く他の三人が着ていた服ではサイズが合わないんですよ。あの三人、かなり小さいですから。


 ルナちゃんのビキニアーマーもどきは論外ですし、クロノスくんのゴスロリは持って帰って来てすらいません。唯一男性物のウィルちゃんが着ていた執事服は、どうガンバッたところでダイスさんが着るのは不可能です。


「これはたしか、以前ミーシャ様がお召しになったという、特殊な服では!? いいんですか、ミーシャ様」


 ああそういえば、後でシルフさんにあの服の効果について話したんでしたっけ。あの服を着た当時、シルフさんはUFOキャッチャーの中に捕まってましたから。すべて終わったあと、自分がいない間になにかお変わりは!? って訊かれたんでした。


「私の場合、服ってあまり必要ないんですよ。実体がないので服を着る意味そのものが薄いですし、なんなら魔法でどうにかできますし」


 今着ている服だって、魔法で作ったものです。幻ですけど。それを言ったら今のこの姿そのものが幻なので、当然と言えば当然です。


「ですがその服は、とても貴重なものなのでは……」


「そうですけど、あの服が必要になる場面がないですよ。私が着ないのであれば、あとは精霊の方たちの誰かが着ることになりますが……サイズ的に、シルフさんとウンディーネさんくらいしか着られませんし。あれを着て得られる防御力よりも、それによって落ちる機動力の方が問題になると思います」


「それは……そうですね。さすがミーシャ様、わたくしでは思いもつかないようなことを思い付くとは……」


「そ、そこまですごいことは言ってないですから」


 とにかくこれでシルフさんも服の譲渡に納得してくれたので、話が進められます。


「じゃあそれでよければ、好きに使ってください」


「それはありがたいんですが……これ、どうやって着るんですか?」


 あー、初見じゃわかりませんよね。私もマネキンの白さんたちに着せられる形で、ようやく着ましたし。


「なんでしたら、中身だけ着ます? それならそこまで動きにくくはならないないでしょうから」


「な、中身? え、これいったいどんな構造に……?」


 ダイスさんが困惑するのもムリありません。和服って着にくいですし。


 というわけで十二単の一番中の部分――巫女さんが着ている服に近い、(はかま)姿が完成しました。ついでにそのままだと動きにくい以前に裾を地面に引きずって大変なことになるので、あちこち改造することになりました。


 裾を短くしたり動きやすいようにと色々変えていった結果、最終的には大学生が卒業式で着ているようなあんな感じになりました。着付けが合ってないかもしれませんが、正しい着付けの本なんてこの世界ないですし……す、少なくとも左前だけは合ってます。だからセーフ、だと、思うんですけど……


 え、えと、日常生活が送りにくいおそれはありますが、全裸よりマシだと思ってガマンしていただくことにしましょう。ちなみに足元は草履で、これも付属品でした。私個人だとブーツの方が好みなのですが、元が十二単なので仕方がありません。


 それにダイスさんは骨だけで肉がないので、帯というかウエストも特殊ですけど。中に余ってる布巻いたり、結び方変えたり。もしこれを着つけの先生とかが見たら、卒倒するかもしれません。


「ど、どうですか?」


 おそるおそる本人に訊いてみたところ、しばらく不思議そうにその場でクルクルと回っていました。はたから見ると骸骨が袴着て回っている姿はかなりシュールというかホラーでしたが、そこには触れないでおきます。


「なんだか変わった服ですけど、面白いですねこれ。なるほど、世の中には不可思議な着方の服を思い付く人もいるんですねー」


 なんかごめんなさい。それ思い付いたの、昔の日本人なんですよ。この世界の世の中じゃないんです。


「でも服って楽しいですね! 着るとずいぶん気持ちが引き締まりますし、なんだかうれしくなります」


「たしかにカワイイ服を着たりすると、ウキウキしますね」


 まあ、生前はチビだったので着たい服が全然似合わず、諦めて子供服ばっかり着てましたけどね……私に合うようなサイズの服って、なかなか見つからないんですよ。そもそも、まともな服屋に行くと「お父さんかお母さんは?」って訊かれましたしね。


 こほん、それはさておき。ダイスさんが気に入ってくれたのならなによりです。あとは見た目を人間にすれば、人間に混ざってもやっていけるでしょう。


「ではこれから姿を変えますけど、なにか希望ってありますか?」


「じゃあ、この服が似合う感じでお願いします!」


 そ、それかなり難易度高いんですけど……?


「ちなみに、ダイスさん的には性別どっちなんですか?」


「え? あー、どっちでもいいんじゃないですか?」


 テキトー!! 適当、ではなくテキトーですよこの人!! いいんですか性別どっちでも!! そこ割と重要な気がするんですけど……


 ですが本人がどっちでもいいというのであれば、こちらでどうにかするしかありません。ここは袴に合わせて女性に……でも私の勝手なイメージだと、ダイスさんは男性ですし……だったら十二単なんて着せようとすんなよ、って話ですが、他にすぐ用意できるものはなかったですし……


 ええい、こうなったら――


 覚悟を決めて魔法を使いました。ぼふん、と音を立てると、すぐにダイスさんは私のイメージ通りの姿へ変わったのです。


 漆を塗ったような黒い長髪と瞳。百人中百人が振り返るような美貌――なのですが、背の高さ的にもパッと見も、性別はわかりません。


 それもそのはず。結局どっちにするか決められず、性別未設定なので……


 年齢性別ともに不祥な、美人爆誕の瞬間でした。


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