百五十九話 どちらでもあまり変わりません
木の精霊、ドリアードさん。見た目は異世界ファンタジーなんかに出て来る、中世のお姫様そのもの。ですがその正体は、どちらかと言えば姫ではなく王子だったりします。
「わたくしとしては、騙すつもりはなかったのですが。結果的にそうなってしまったようで、少々心苦しいですわ」
困った笑みを浮かべるドリアードさん。その姿は、どこからどう見ても美少女にしか見えません。ですが実際のところは、美少女ではなく男の娘なのです。
私とシルフさん、それとドリアードさん当人以外があ然とする中で、真っ先に正気に戻ったヴェークアさんがおそるおそると言った調子で手を上げながら、こんな質問をして来ました。
「あ、あの。な、なぜ木の精霊様は、そのようなお姿を……?」
「趣味ですわ」
ズバッとドリアードさんが即答した結果、再びヴェークアさんがフリーズしました。
「いえあのドリアードさん、別にそれだけが理由ではなかったと記憶しているのですが。もう少しやむをえない理由、ありましたよね?」
「ですけど、この方が手っ取り早いと思いましたの」
「それはたしかにそうですが……たぶん、まだコスプレとか男の娘とか、この世界の人には早すぎる概念だと思うんですよ……」
そこでふとメイド喫茶を作っちゃったことを思い出しましたが……あ、あれは一応、産業的な方向に進むのでセーフ的な感じで。こ、コスプレじゃないですよ、出発点は! 本当にメイドだったわけですから本職と言って差し支えないんですよきっと!!
コホン。それはさておき。ドリアードさんもさすがにそれで押し通すものあれだと思ったのか、ちゃんと説明する気になってくれたようです。
「先ほどの趣味というのは否定しませんが、最初は必要に駆られてでしたわ」
「女装の必要に駆られるって、ドリアさんの人生どんなミラクル起こったんスか?」
ツッコミたい気持ちはわかります。わかりますが、話が進まないので後にしてもらいましょう。
「その説明はあるのでルナちゃんは黙っていましょうか。あとその呼び方だとチーズとホワイトソース作りたくなるので、呼び方変えましょう」
前になんて呼んでたか忘れたのか、またおかしな呼び方をしていました。私も覚えてませんが。たしか、ドリアさんではなかったと思うんですよ。たぶん、きっとおそらく……
ドリアードさんの呼び方はいいとして、今は格好の問題です。
「そうですわね、まずはわたくしの身体のことから話した方がわかりやすいでしょう。現在わたくしのこの体は、本当のものではないのですわ。わたくしの本体は、フェイルー湖のほとりの森に植わっている、一本の樹ですの。そこから魂だけをこの場に飛ばしているのですわ」
要するに、私と同じような感じですね。樹が本体で、精神体だけがここにいるという形です。ただし私とは、大きく異なる部分があります。
「ですが魂だけですと、わたくしは活動することができませんの。その点ミーシャ様は常に魂だけで活動できるのですから、さすがですわ」
「私の場合、デフォルト設定の問題なのであまり誇れないですけどね」
そして私としては、ドリアードさんの方がうらやましいんですよね……私より便利ですし。
「魂だけで活動することのできないわたくしは、他の植物に魂だけ移して移動しておりますの。ですのでこの身体は、たまたま近くにあった木をそれっぽく加工しているのですわ。ただこの方法ですと、問題がありまして」
そう言いながら、ドリアードさんはおもむろに足元まである綿毛ドレスの裾を膝の辺りまでまくりました。村人たちはその行動そのものにぎょっとしたあと、ドレスの下を見て更にぎょっとしていました。
ドレスの下。そこにあったのは二本の足ではなく、何本にも分かれた木の根っこでした。そしてその根っこは、先が地面に埋まっています。
「このように、どうしても地面に接続していないと行動できないのですわ。それでも、二本に分かれていれば普通の足に擬態もできたのですけれどね。これ以上はどうにもならないということで、こんな格好ですの」
ちなみにドリアードさんが生まれた直後、初対面の時はドレスではなくローブを着ていた記憶があります。その頃は小さな木だったせいかそのまま歩けたのですが、いつの間にか成長し動けなくなってしまったようで。
さすがにずっと同じ場所でじっとしているのはつまらないと開発したのが、今のあの姿なのです。ついでに言うと最初の頃、今みたいにお嬢様口調でもなかったんですよ。格好に合わせていって悪ノリした結果、ああなったみたいです。
「と言っても、今は仕方がなくこんな格好をしているわけではありませんわ。いつの間にかドレスを作ることにハマっておりまして、たとえ二本の足を手に入れてもわたくしはこの格好をし続けますわ」
そんな話を聞いてリアクションに困ったのか顔を見合わせる村人たちでしたが、例外な一人がそんなことお構いなしに元気な声を上げました。
「ドリさん似合うッスしね!! 今度自分にもドレス作ってほしいッス!! こう、とびっきりフリフリのやつがいいッス!!」
「ええ、いいですわ。ルナ様のご期待に添えるよう、精いっぱい作らせていただきます」
「やったッス、楽しみにしてるッス!!」
テンション高くそう言っているルナちゃんを見て困惑がどこかへ行ったのか、村人たちもドリアードさんと色々話し始めました。
ここで気付きました。ドリアードさんの格好とか色々説明していたため、本来の目的である野菜の件を一切話していないことに。これは……まあ、もうちょっとドリアードさんと村人たちが打ち解けてからでいいですかね。
というわけで、話がひと段落するまで待ったのでした。そのひと段落するまでに、一時間以上かかりましたけどねー……




