百二十一話 身代金を用意した方がいいんでしょうか
ルナちゃんが、得体の知れないやつに誘拐された。これは私至上最大の事件と言えるでしょう。誘拐って、完全に犯罪です。犯罪紛いではなく、まごうことなき犯罪です。
「とりあえずまずすべきは、この指定されている広場に行くことでしょう。ここに来いと書いてあるわけですから、ここになにかしらの手がかりがあるのは間違いありません」
「ですが、罠という恐れはないのでしょうか」
「仮に罠だったとしても、行くしかないでしょう。このままルナちゃんを放置する、という選択肢はこれまでも、そして未来永劫あり得ません。なにがなんでも、絶対に取り返します」
と、私とシルフさんがそんな会話をしていると、今はクロノスくんが持っていたあの紙を見た大佐が、なんだか首を傾げていました。
「どうしました? なにか手がかりでも?」
一応訊いてみましたが、大佐に期待は最初から――
「我、これによく似た文字を書く者を知っているなと思ってな」
「まさかの超重要手がかりですか!?」
た、大佐? あなたそんなこちらに得があるようなことをするキャラだったんですか!? てっきり、ひたすら私たちに嫌がらせをするような人だと思ってましたよ!!
そんな心の声が顔に出てしまったのか、なんだか大佐は不満そうな顔でした。
「なんだ、手がかりがあって嬉しくないのか」
「いえ嬉しいですが、大佐が協力してくれるとは思わず……」
「汝がこの件にかかりきりにでもなれば、それだけ我との対戦が遅れるではないか。我は早く汝と戦い、以前の自分よりも高みへ来たことを証明したいのだ」
とっても自分本位な理由ではありましたが、それでも協力してくれるのはありがたいです。性格はともかく、魔法の実力は私が保証するので。実際、向けられた魔法はかなり強力なものでしたもの。
「で、そのよく似た字の人とは?」
「ふむ、我の弟子なのだが」
「弟子までいたんですか!?」
えぇ……大佐、師匠とかって呼ばれてるわけですか? 悪くはないですけども、なんだか想像がつかな――いえつきますね。弟子に師匠とか呼ばれて、めっちゃふんぞり返ってるところが想像できました。割と容易に。
「我の二番弟子のティストアという者が、とても字がキレイでな。そこは逆立ちしても敵わんかったな」
「しかも弟子複数いるうえに、めっちゃ認めてるじゃないですか……」
認めてるところが強さ関係ないですが、大佐が強さの関係ないパラメータを覚えてる時点でかなり認められていると言っていいでしょう。
「その方って、どんな方ですか?」
「ふむ、魔法の才能がずば抜けていたな。この間、我を退治しようとやって来た時に出会ったのだが、なかなか見どころがある」
「なんで退治しに来て、弟子入りうんぬんって話になったんですか……化学反応ってレベルじゃないですよ、その変化。なにがあったんですか」
初めて理科の実験で、マグネシウムリボン燃やした時よりビックリな変化ですよ。数学の難しい問題で、式のあとに直接答えの数字だけ書かれた気分です。しかも答えは0、みたいな。途中式教えてくださいよ。
「なにと訊かれても、語るほどのことではないな。そもそも我を退治にしに来たのは、我を倒しその魔力を吸収せんとしたためであったからなぁ」
「倒して魔力吸収なんて、そんなことできるんですか?」
「正確に言えば、我を退治し残った石のカケラが相当強力な魔法補助のアイテムになる可能性が高い、という話だ」
「つまり、ブーストアイテムですか」
なるほど、それなら納得できます。私の認識だと、魔力を吸収するには大佐本体も吸収しなくてはなりませんでしたから。
「ティストアは生まれつき身体が弱く、それを魔法で治そうと思ったらしくてな。それで魔法を補助するアイテムを探していたところ、我に行き着いたらしい。けっきょく我を倒すことは叶わず、ならばせめてと弟子入りした次第だ」
「そうやって説明されると納得できますね」
要するに、健康体を手に入れるために手段を選ばなかった、という話なのでしょう。やはり健康って大事ですね。
ただここまで話を聞くと、一つの可能性が浮かび上がって来ます。
「もしやそのティストアという人は、ルナちゃんを生贄するとか、その肉を喰らって魔力を手に入れよう、みたいな考えで誘拐したとかじゃないですよね……?」
「ふむ……やつならあり得るな」
「めちゃくちゃ危険人物じゃないですか!!」
手段選ばないにもほどがありますよ!!
「ああでも、無益な殺生をするやつではないぞ。自然をとても愛する、か弱い半獣人だ」
「この場合その人に益ありまくりですし、自然愛されても人間愛してるかはまた別問題じゃないですかねぇ!?」
ていうか半獣人だったんですか!? 私、勝手に半獣人ってみんな身体丈夫だと思ってましたよ!! だって半獣人ですし!!
ちなみに半獣人と獣人の違いは、簡単に言えば獣度ですね。二足歩行する獣といった見た目なのが獣人、人間に獣の耳や尻尾なんかが生えているのが半獣人だそうです。
ルナちゃんが正しい意味で人間かどうかは意見が分かれるところでしょうが、どっちみち安心できる要素がガンガン減って行きます。もはや危険域です。
「一刻も早く広場にむか――おうにも、場所わかんないんでした!!」
だいたいの方角で進もうとしてましたからね!! でもこうなったら、本当に早く行かないとルナちゃんの身がドンドン危険に……!!
「おそらくであるが、この広場がどこだかに心当たりがあるぞ」
「ナイスです大佐、あとでちゃんと真面目に勝負してあげますから、ホント一秒でも早く案内してください!!」
「ふははは、ならば引き受けたぞ!! 我との約束は絶対であるからな!! その約束、違えるでないぞ!!」
嬉しそうにそう言うと、大佐は広場へ瞬間移動するために魔力を高め始めました。




