百十四話 はっきり言うことなんでしょうか
なぜか派手な黄色のスーツに身を包み、シルクハットとモノクルをどこかへやったカーネル大佐がジュースを売っていました。
どういう状況ですかこれ? ていうかなぜ大佐はそんな派手な服着てるんですか、いえそうではなく、それはそれで気になりますが……こんなところでのんきにジュース売ってるんですか。
「あなた、なぜここに? いったいなにをたくらんでいるのですか?」
固まる大佐に単刀直入に訊いてみますと、それまで不自然な営業スマイルを浮かべていた大佐が、突如としてクツクツと不気味に笑い始めたではないですか。
「よく我の居場所がわかったなミーシャよ!! 褒めて遣わす!!」
「あ、なんでしょう。久々にとてもイラッとしましたよ?」
呼び捨てなのは別にまあいいです。褒めて遣わすって。とてつもなくイラッとしますね。まったく褒められた気がしませんし、むしろバカにされてますよねこれ。というか、私この方好きじゃないみたいです。なんかこう、すごくイライラさせられるんですよ、なぜか。
私のリアクションなぞ気にも留めず、ハイテンションな大佐はどこからかこれまた目立つ黄色のシルクハットを取り出し頭に被りました。
「ふふふ、さすがは我の好敵手。今度こそ我を打ち負かしに来たのだな!!」
「いえ普通にヤバイ魔法を修得したんじゃないかと探していただけです。そして今度こそとか言ってますが、前回私勝ってますよね?」
魔法を使う敵なんて初めてでしたので少々戸惑いましたが、最終的にはキッチリ勝ちました。
それを指摘しても、大佐はめげずにペラペラとしゃべりまくります。
「あれ以降、我も精進に精進を重ねた。その結果、より上位の存在に近づき、ついにはただの石コロだった当初よりも柔軟に動く術を身につけた!!」
そう言われて、少し気づくことがありました。以前会った時の大佐はどこか不自然と言うか、どことなく虚空から響いて来るような声をしていました。ですが今は、
普通に目の前にいる大佐の口から声が聞こえて来ます。これが成長ということなのでしょうか。
そして精進に精進を重ねとか言ってますけど、前回会ったの一昨日でしたよね? 精進重ねる時間あったんですか?
そんなツッコミが喉まで出かかりましたが、たぶん大佐の耳には入らないと思われるので、言うのはやめておきました。
「とりあえず頑張ったのはわかりましたが、あなたの目的はなんなんですか? ヴォルトさんに怪しげなお酒を渡したり、ドリアードさんにおかしな肥料渡したり、挙げ句の果てにこんなところでジュースを売っていたり」
最後のが一番意味不明です。いつから露天商にクラスチェンジしたんですか。
答えが返って来るかどうか微妙な質問でしたが、今回は大佐に都合がよかったのかしっかりと返答がありました。
「ふふ、聞いて驚け! これは我の魔法研究の成果である魔法薬、名付けて『戦いたがり症候群発症薬』、またの名を『バーサクシンドローム薬』だ!!」
なんで二つも名前があるのかわかりませんが、とてもわかりやすく名が体を表していました。
要するに、飲むと攻撃性が増す薬なのでしょう。
「センパイセンパイ、よくわかんないんスけど、なんで二つ目薬も英訳しなかったんでしょうね?」
「なぜあなたはそんな視点でツッコむんですか……」
語感じゃないですか、たぶん。なんかこう、バーサクシンドロームドラッグという響きが、なんかしっくり来なかったんでしょう。私もしっくり来ませんし、その名前。
ネーミングはどうでもいいとして、問題は効果の方です。
「それをヴォルトさんとドリアードさんに飲ませてイライラさせて、なにがしたかったんですか?」
下手をすれば、二人の間で戦争が起こっていた恐れすらある事態です。いくらなんでも見過ごせません。まさかとは思いますが、その間にあの森を乗っ取ろうとかしてないですよね?
「ふふ、そんなのは明白であろう!!」
バサァッと、いつの間にか装備していたマントを自力ではためかせた大佐は、とてもイラッとするドヤ顔で高らかに言いました。
「世界中の者たちを戦好きにし、我の敵とするためだ!!」
「えぇ……」
なんかもう決まった! みたいな顔で言ってますけど、それ要約するととてもヤバイこと言ってますよ? バトルジャンキーとかバーサーカーとか、そう次元じゃありません。全世界を敵に回したいって、もはや魔王越えの変態ですよ? ドMの領域ですよ?
「我は常々思っている。より強い者と戦いたいと。だがこの世界の者たちは、我と戦ってはくれぬ。なぜかは知らんが腰抜けばかりで、戦いたがる者なぞめったにおらんのだ!!」
まあ、確かにこの世界の人たちに戦いたがりは少ないかもですね。私が知る限りだと……以前のクロコさんくらいですかね? 基本のんびりしているというか戦うのが好きではない方たちが多く、おかげで戦争なんかも起こっていません。
私はそんな平和なこの世界が好きなのですが、どうやら大佐はそうではなかったみたいです。
「カーネル大佐、あのですね……」
「今の我はドゥーム、神の審判者たる裁きと破滅の使徒だ!!」
「……えー、つまりあなたは、この世界の魔王になりたいと?」
「いや、最終的には神になるつもりだが?」
「えぇ……」
ええと、うん、あのですね? 正直ドン引きですよ? まさか真顔で神になるとか……完全にマジです。えと、どうしましょう?
急募、カーネル大佐を説得する方法。もしくは、せめて他人様に迷惑をかけない方向性に転向させる方法求む、ですよ……




