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AM ‐ アンミとミーシー ‐  作者: きそくななつそ
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五話㉖


「見て分かるか?お前の服装は別に似合ってないわけじゃないと思ってるが」


「アンミの服よ。私もアンミも似合うかどうかで服買ってないことくらい分かると思うわ。ちなみに今アンミが着てる服も私が選んだのよ。妥協を重ねて選んだのよ。あなたが今アンミの着てる服を気に入らないというのならもうそれ以上は残念だけど私には無理よ」


「私は気に入ってる、今この服」


「そう、だったな。お気に入りだという話は聞いた。……これは、ありがた迷惑だったりするか?俺は厚意で服を買ったらどうかと勧めてるつもりであって、別に今着ている服がダサイとか言ってるわけじゃない」


「私はアンミの服はダサイと思ってるわ。でも、結局、アンミが気に入るかどうかでしょう、重要なのは。で、先に言っておくと、私の服は今着てるので十分間に合ってるわ。アンミがもし新しい服がいらないのなら、買い物になんて行く必要もないのよ」


「なあ、センスというのは別に妥協してくれても良いし、お互い服を選ぶんじゃなくてもな、自分の好きな服を買ってくれるのだって良い。普段お気に入りを着ててくれたら良いし、単に予備を買ってくれたらそれで構わない。折角だからほら、俺の感謝の行き場をくれ」


「アンミはどうなのよ、そんなに感謝されたくもないでしょう」


「健介から感謝?もし?感謝されることあったらとっとく。健介にはお世話になるからその時感謝されてないと困るかもでも、でもね、ミーシーの服は買って欲しい」


「……アンミにお世話になってるからアンミの服を買ってあげると、言ってるのよ。そこら辺はっきりしてちょうだい。別にあなたも私の服買うことが目的だったりしないでしょう。だから、こっそり測って勝手に買えば良いと言ってるのよ」


「ループさせるな。お前にも感謝してるぞ。なあ、これは家事がどうこうという目に見える部分だけじゃない。お前も、役に立っている。俺の精神賦活的な意味合いで……。なんだろう、俺も割合気兼ねなくお前と話せてる。楽しいなと思うこともある。新鮮なタイプだから」


「精神的な部分は精神的なお返しをしてくれると良いわ。念でも送ってなさい」


「嫌がるような部分あるか?俺の依頼は割とシンプルで、買い物に一緒に出掛けて、服か何かを買ってくれというだけだぞ?」


「それが難航するのよ。アンミの服を私に選べと注文したでしょう。もうその時点で難易度が高いのよ。せめて予知でどうにかなるお願いならあなたの満足するようにしてあげられるわ。でもアンミの気に入る服なんて私には分からないわ」


 言葉が増えると、その下地になっている感情というのも少し見え隠れする。ミーシーは積極的に、絶対反対だとは明言していないながら、お出掛け反対派らしい。


 加えて言葉の意味を少し咀嚼して考えてみる。アンミが気に入る服を選ぶことは、予知をしても難しいんだろうか。商店街に良い服がなくて、妥協を重ねるような未来が見えてるということだろうか。


 俺がミーシーの顔で視線を止めると、ミーシーは少しの間だけこちらを見つめ返した後、食事に戻るでもなくただバツが悪そうに視線を横へと向けた。アンミの、気に入る服なんて、私には分からない。それだけを言葉通りに受け取ると、その表情の意味するところも分かる。


 少しばかり……、どうやら二人の間に溝があるようだ。ならなおのこと、そのわだかまりをどうにかして解消してしまいたい。実際のところ、ミーシーは別にアンミが気に入るものが分からないわけじゃないだろう。アンミがミーシーに選んで貰った服を、気に入らないなんて言うこともないだろう。そんなことは傍目に明らかなんだから、俺の立場では背を押す以外の選択はない。


「でも……、例えば今、着てる服もお前が選んでやったんだろう。アンミはそれを気に入ってるんだろう?」


「うん、気に入ってる。その時、大きめの買って良かった。これずっと着てる」


「…………。はあ、アンミはその時のこと覚えてるの?雨合羽を買おうとしてたのよ。さすがにそれは服じゃないでしょうと言ってせめてそれにしなさいと言ったのよ」


 なるほど、ちょっと、話が分かってきた。そうなると似合う似合わないも機能性云々も関係ないんじゃないだろうか。少しばかりミーシーの方が常識的な判断力を持っていて、いつかは知らんが当時、アンミが、雨合羽を所望したところをすんででミーシーがこれを代替案として提案した。


 ミーシーはアンミの今着ている服を正直、ダサイと思っている。一方でアンミはこの服を大層気に入っている。ポケットが破れようが、何年経とうが気に入っている。となった時に、ミーシーがアンミの服を選ぶ時の基準は少しぼやけてしまうものだろう。


「私あの時、雨合羽買ってたら、今もずっと雨合羽だったかも」


「オシャレドレスのモデル写真を撮りたいと言ってるわけじゃない。似合うかどうかより気に入るのを選んでくれ。ポケット広いのでもいいし、あったかいのでもいいし、防水性能を気にするなら別に雨合羽でも良い」


 通常、雨合羽など買ってしまっていたら、何歳かの時点でその異様さには気がつきそうなものだ。だがそれでも多分、もしもその時、ミーシーが雨合羽を選んでいたら、それを何年も着続けていたんじゃないだろうか。


「ほら見なさい。センスが壊滅的でしょう」


「だがまあ、一つ解決されたとは思わないか。俺が聞く限りでは、アンミがこの服を気に入ってる理由は、なあ、お前が選んでくれたからだろう。色合いとかは確かにちょっとダサイかも知れん。当時は雨合羽を妥協してこうなったのかも知れない。だが、今なお大事にしてる理由は、お前が、アンミの服を選んでやったからだ」


「色合い、ダサイ?」


 偽らざる本心を述べれば、そうなる。もっときらきらな服を着てても許されるアンミが作業着のような色合いの服を着ている違和感に苦言を呈するファッションリーダーなんかはいそうなものだ。


 多少酷評しても、アンミはさほどショックを受けている様子ではなかった。重要なことに、アンミがこの服を気に入っている理由の根本には、ミーシーが選んでくれたからというのが含まれている。少なくとも俺の見立てではそうだったし、ちょっと頭を巡らせてみたところで逆にそれ以外の理由というのは見つからない。


「これ、スイラさんが」


「アンミ」


 ピシリと、ひび割れるように一瞬だけ、その「アンミ」への呼び掛けは……。


「どうだったかしら。買ったの結構前でしょう。アンミはずっとそれ気に入ってたし、最近はそうサイズ合わなくなるわけでもないし」


 気のせいか。空気が凍ったような気がした。それを無理やり持ち直したように感じた。アンミは特にそれを感じてたりしないみたいだから、……考え過ぎかも分からんが、俺は本当に大丈夫なのかを疑って十秒くらいは黙った。


「サイズも、うん。大丈夫」


「まあポケット両方が破れるくらいには前に買ったんだろう。であれば、そろそろ新しいのを買っても良い。でだ……、その、ここではミーシーのセンスも別に大した問題じゃない。お前の選んだ服を気に入ってくれるなら、そんなに気負わなくてもな、お前の主観で、変じゃないのを選んでやれば良い」


「…………」


「アンミ。ミーシーが選んでくれたからお気に入りなんだろう、それは」


「うん、そう」


 たったそれだけが分かれば、ミーシーは服を買いに行きたくなるはずだ。


「服を買うとは限らないわ。でも、じゃあ買い物には一応行きましょう。結局あなたもそこは譲るつもりがないんでしょう」


 まあ、ここまで来ると反論しようがない反対意見がなければ連れ出すつもりではいた。反論しようがない反対意見など出るはずがないと思っている。そもそも譲る譲らないではなく、二人にとって良いイベントだとも思う。


「じゃあ、一応三人で出掛けることには賛成してくれたということで良いんだよな」


「ゴネても仕方ない時はもう意見は伏せるわ。あなたとアンミが行きたいと言うんでしょう?ならもう実際多数決で決まっているようなものでしょう。止めても行くなら私もついていかざるを得ないわ」


「じゃあ、三人で出掛けてミーシーの服を買う」


 これでようやく当初の予定通り動けるようにはなった。


「予算はとりあえず一万円ずつな。相場が分からんから足りなさそうならまた俺に相談してくれ」


「多分使わないと思うわ。お買い物券のお釣り分があるから、変に高いもの選ばなかったら十分足りるでしょう」


「じゃあ、そのお買い物券のお釣り分を超えるよう買ってくれ。じゃないと、俺からのプレゼントにもならんだろう。……まあ、というか。買い物は自由に任せる。好きな物を買ってくれて構わない。安かろうが高かろうが、俺が渡す一万円をどうしようが、好きにしてくれて良い。が、一万円は取っておけ。お釣りが出た場合も取っておけ。お小遣いということにしよう。最悪服じゃなくても良いが、似合う服を買って着てるところを見せてくれることを期待しておく」


「そんなところは期待されても困るわ。現状、アンミ見てれば良いでしょう。気に入らない服なら脱がせれば良いでしょう。なんなら私も今着てるのが気に食わないのなら脱ぐわ。実際のところそれはそれで満足でしょう」


「あのなあ。俺は二人で仲良く買い物をしてくれたら満足だ。この際、服はあんまり関係ないとしても、一緒に出掛けて楽しげに買い物しててくれ。俺が提供したいのはそういう部分だ」


「こんなことになるならもっと普段から満足そうにしてれば良かったわ。ねえ、家に置いて貰えるだけでも私たちはありがたいと思ってるのよ。なんなら家でおしゃべりしてるだけでも十分に楽しい時間を提供してくれてるのよ?」


「…………。そりゃ良かった。楽しいおしゃべりにも混ぜてくれ。いつでも歓迎だ」


「おしゃべりならいくらでもしてあげるわ。それでも買い物の予定は撤回するつもりはないでしょう?」


「まあ、な。俺の用事もあるから。いや、遠回しな言い方が悪かったのかな。お前ら二人はどうなんだ?俺はこの家で二人が仲良くしてくれるのが一番大切だと思ってる。家事の分担だってな、絶対にこうじゃなきゃならないという決まりがあるわけじゃないだろう。なんならお前らが仲良く二人で料理してれば俺はそれで安心した。なにも、そうしろと強要するわけじゃないし、料理に限ったことじゃないが、そうだったら、良いなと思ってる。今回のこの買い物プランというのは……。なあ俺は、要するにだ、この家の中で、良好な人間関係を望んでいる。誰もがそれが心地よいと思う。わざわざ悪い空気にしようと思う人間などいるはずがないからな。良い空気を吸って生きたいと思うはずだからだ。で、考えた末、二人に服を買ってやったらどうかと思った。それがもし迷惑なら、迷惑だと言ってくれたら良い」


 それをわざわざ言うべきか悩みながら、一応二人の顔色を窺いながら、そう言っておいた。


「ここでそれを迷惑だと言うと空気悪くなるでしょう。私のセンスも一日そこらでどうにかなったりしないでしょうけど……、まあ細かいところは明日のアンミの気分に任せておくわ」


「じゃあ、良い服買ってくれ。遠慮されても意味がないから念のため言っておく」


「今見てる感じだと似合う服とかないわ。あなたは栄一二人を生贄にして何も召還できないわ」


「お前らで満足してくれたらそれだけで良いんだ」


 俺も別に、服を買わせるのが目的だったわけじゃない。ミーシーにとってこのテコ入れは余計なお世話だったろうし、アンミにとっては、俺がミーシーにプレゼントという部分以外どうでもいいものだったろう。


「健介は、ミーシーと仲良くしたいってこと?だったら私もミーシーの服を買った方が良いと思う」


「アンミへのお礼で服を買いたいと言ってるのよ」


「まあそのどちらも別に間違ってない。というか、買い物に行ってくれるなら、とりあえずはそれだけで良い」


「良かったねミーシー、プレゼントだって」


 呼び掛けられたミーシーは全然良かったと思ってないだろうな。ため息とすら受け取れるような深呼吸を、目を瞑って繰り返していた。


 アンミも、自分がプレゼントの当事者であることをあまり自覚していないかのような喜び方だ。ミーシーが俺からプレゼントを貰うのを、喜んでいるのであって、当初より自分が受け取る分への期待は薄い。


 実物を見て少しでも気が変わってくれるなら良いが、俺の想定していたような感情の動きは感じられない。


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