サブ出題③『水楽アンミはどのようにしてペットの名前を決めるのか』
作中の不親切描写を解説するコーナーのテスト投稿です。
(このコーナーは宣言なく削除するかもしれません。ご了承ください。)
本編の出題とはあまり関係がありませんが
ネタバレが嫌な人は、『水楽アンミが何故猫にクマと名付けようとしたか』分かった後に読んでください。
難易度:★★★★★(解けるわけない)
正確に解く必要はありません。
Q『アンミはどうして猫にクマ?』
一度考えてみて読んでいただくとより楽しめるかもしれません。
第二話『星のない空を見つめて』
She looked up at the starless sky and pondered.And...
~
第八話『私が、全部探すよ』
I'll look for them all. But maybe you could find your flowers in another place.
『実験監督者の気まぐれな提案』
この少女を実験に連れ出す時の付き添い係は、どうやら私に固定されてしまったようだ。『いいえ、私が行きますよ』と申し出る若者ももういない。
ただまあ、……日に何度か、こうして研究棟を往復するのが、良い運動習慣にはなっているのかもしれない。
それに加えて、どうなんだろう。私のところやおそらく開発室もそうだと思うが、冷却ファンの音を子守歌にしないと寝られない所員ばかりだ。
『臨床で患者に向き合う医者『ならば』人間性を失わないで済む』などという迷信を、私も信じるのなら、果たしてこうして小さな女の子の手を握り通路を歩くこともまた、羨望を集めるような振る舞いだったのかもしれない。当初、事情を知らぬ者からそんなやっかみを聞いたような気もする。
少女を隣に連れ立って、扉を開いて、部屋の様子をぼうと眺める。
人間性……、なるほど、考えてみれば、ここは人を連れ込むようにできていないのだな。
せめて、椅子か何かを置くように指示しておこうか。ラットのケージがずらりと並んだ部屋に少女を待たせることを、……なんとも思わないものか。それとももしかして、『実験動物管理部屋』なんて札が貼ってあったのを、慌てて外した気の利く所員もいたのかもしれない。
ただ、機械は動かせんにせよ、ラットを外に出してソファを置くくらいのことは、できたろうに。
「じゃあ、ここでしばらく待とうか」
「この子はどういう名前?知ってる?」
当の少女は別段この扱いに不満があるようには見せず、私が何か椅子になりそうなものを探そうと歩きだしたのを引っ張りそんなことを聞いた。
「ん?ラットというんだ。ねずみの仲間だね」
「らっと?うん。ええっと、じゃあこの子は?」
「……?その子もラットだよ?」
目が、しっかりと見えていないのだろう。そういう症状だというのを先に聞いていたからなおのこと、少女には白っぽいものが動いているという程度にしか分からないのだと思った。あまりに無遠慮に近づいたからか、指をさされたラットは落ち着きなく動き回っていた。
「ラット?同じ名前?」
「ああ。この部屋にはラットしかいないよ」
「?…………この子と、じゃあこの子は?」
「?全部、ラットだよ」
「全部?全部がラット?偶然に名前が一緒?」
「なるほど、ああ、そういうことか。名前を、聞いてたんだね。種類じゃなくて」
名前などないと言っても、それをまた不思議がるんじゃないだろうか。どうしてと言われても、どう説明をすれば良いものか。少女が求めているのはもちろん系統名でも個体記号でも群名でもない。
呼び名なんてもの、誰一人考えたりはしなかったし、それは当たり前なんだ、生きてはいるけど、名前なんてないんだよ。どうせ誰もそんな名前で呼んだりしないんだから、……と、私も普段ならそう話しただろう。
「どうしておんなじ名前?」
「名前をつけると、逆にちょっと不便なんだよなあ。じゃあ特別に、ここの一匹だけ名前を付けさせてあげるよ。それで良いかい?」
「えっ、私が?名前を決める?」
『どうせ私も彼女も、ラットの見分けなどつきはしないだろう』
『きっと数日もすればどのラットか分からなくなってしまうはずだ』
『だから、私は、分かりやすい場所に置いてあって、持ち出し予定のないラットを指さした』
『そのラットは、おそらくすぐに死んでしまうだろうけどそれでも、彼女が飽きるまでくらいは生きるだろうと思った』
なによりも、彼女がじっと眺めても目を逸らさなかったラットは、私が見ていた限りで、その一匹だけだった。おそらくそれは、彼女を恐れていないわけではなく単に、重病で、動くのが、億劫だっただけだろうけど。
「一匹だけだよ。一応、他のは呼び方が決まってるというか……、まだこれから他で名前を考える予定だろうから。良い名前はあるかい?」
「えっと、ええっと、ええっと、じゃあ『クマ』」
「……ラットなのに?まあ、良いけど」
その……、『クマ』は、なんて……、幸運だったんだろう。
◆
『トロイマンの名を知らなかったアンミ』
「今日はぬいぐるみを持ってきました。これは小児病棟でとても人気のあるもののようです。これをあげます」
「……?ありがとう。名前は?」
「名前?クマですっ」
「クマさん、ありがとう」
「どういたしまして」
◆
『市倉絵里の感想』
「研究所で、一番愛されたラットだった。まあ、変な名前だったけど」
◆
『所員の観察記録、最後の一枚』
『クマ』はまるで観察する人々の気持ちを知っているかのようにこちらを眺めていた。まるで私たちそれぞれの顔を覚えているように振る舞った。
なるほど、人が見ている時だけ、簡単そうに迷路を解くわけだ。人懐こく振る舞って私たちを喜ばせるわけだ。
非器質性空間記銘は、無限の記憶。
電位共振性限定呼応は、心の伝送路。
『クマ』は私たちの想うことも、見える景色も何もかも、既に学び終えていただろう。
どのようにして心を通わせるのかも、私たちの嘘も思いやりもすべて、見透かしていただろう。
なんならラットながら、こちらへ要望を伝えることだって、できたはずだ。
でも、『分かっていたから』、何も、何一つ、私に、話し掛けることはなかった。それは『クマ』の、優しさだったのかもしれないし、諦観の果ての当てつけだったのかもしれない。
高医研実験棟で、一番愛されたラット。
私が一番乗りだったようだ。冷たくなった君に、花束を贈ろう。
『クマに花束を』
- Flowers for Kuma -
◆
峰岸ミナコ
『ん?私はクマではありません。トロイマンです。』
‐‐‐‐‐‐‐‐‐
トロイマンの謀略?……いいえ、早川忠道は指先から血を滴らせながらなお、『待っててね』と言った。
それが果たせる約束だったかはさておくとして、アンミと約束したのは、『彼だった』。
トロイマンはただ、アンミを喜ばせるために病室へオモチャを持ち込んだだけのこと。
アンミがトロイマンの名前を知るのはそれよりも後にはなったけれど、アンミの知る一人に、架空の『クマ』がカウントされてしまったけれど、『外に出してあげる』『家族ができる』……、そう約束したのは早川だった。
『それは確かに、叶えられていた?』
『クマ』。
大層に愛された一匹のラット。
賢くて人懐こかったラット。
研究室を出られないことを『知っていた』でしょうね。
話し掛ける意味がないことも『知っていた』でしょうね。
ただ単に幸運だったラット。
重粒子線治療の実験体のラット。
ガンに侵され、身動きができず、ただ、アンミから目線を逸らさなかっただけのラット。
けれど、そのラットは愛を知る。
アンミが限定呼応症と、空間記銘症を与えたから。
けれど、最後まで、クマは『所員に言葉を伝えることをしなかった』。
『果たしてそれは、大切なことだったのだと思う』
『それが後悔を生まない、唯一の方法だった』
ねえ、こんなことはでも……、あなたを混乱させるだけなのでは?
知ったところで、意味がない。
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不親切もなにもない難問。
クマのぬいぐるみがトロイマンからアンミへの贈り物であろう事情から推理してください。
市倉絵里がラットの名前を変だと思った辺りから推理してください。
正確に解く必要はありません。
Q『アンミはどうして猫にクマ?』
A『そのラットが、愛されていたから』




