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AM ‐ アンミとミーシー ‐  作者: きそくななつそ
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十一話㉖


「十一時少し前くらいに、俺はちょっと、今回の件の話し合いをしてくる予定でいる。で、その間ミーコと一緒に、適当に、外を散歩してきてくれないか?というのもな、まあ、相手にアンミの居場所が分かってる状態で一人にしておくと万が一のこともなくはないから、そこを万全に備えておきたい」


「外の散歩?ミーちゃんと一緒に?うん。分かった」


「まあミーコの行く方についていってくれたら良い。ミーコに案内を任せて、しばらく歩いててくれたら良い。それで、……これを渡しておくから、俺が戻ってきてくれと言ったら家に戻ってきてくれたら良い。あるいは、何かあれば俺に知らせてくれたら良い」


「え、うん。携帯電話?健介のは?」


「俺のは俺で別で持ってるから、こう、電話帳を開いてこれが今俺の持ってる携帯の電話番号だ。で、受話器の方を押してくれたら俺に電話が掛かる。ただ今回は、俺のもう一個の携帯電話と通話状態のまま持っててくれ。繋がってる状態で何かあれば話してくれたら良い。もしなんか触って切れちゃったらもう一回さっきの手順で電話してくれ」


「うん、分かった。繋がってる、状態で持っておいて、切れたら掛けて、何かあったら知らせる?」


「そうだ。まあ、ミーコがいるからそんな心配することはないはずだ」


 で、俺はアンミ、ミーコ組の連絡をイヤホンで聞きながら異常事態が起こってないことを確認しつつ、市倉絵里に電話をしてテレビ電話で様子を窺う。


 携帯電話が三台あってようやく成り立つ方法だし、さすがに支給電話を使うとはいえ、通話相手の居場所までは特定できたりしないだろう。


 俺が元々持っていた携帯電話をアンミに渡して、アンミとの連絡用に使うのは最初に受け取った携帯電話の方だ。一応操作してこちらからもアンミからも通話ができることは確認できた。


「まあ、通常時はポケットにでも入れておいてくれたら良い。何かあった時に取り出して知らせてくれ。大丈夫か?」


「うん、大丈夫」


「気休めじゃなくて、これで良い方法が手に入る。だから安心して待っててくれたら良い。ミーシーもおっさんも戻ってくる。ハジメとナナにまた会える。なんならハジメの家族もこっちに移住して貰ったって良いんだ。まあ、それはさすがにそういう話になるか分からんが、とにかくこの件はこれで落着する。約束するから。安心しててくれて良い」


「うん」


 まさしくアンミのそれは、もう解決したかのような笑顔だった。期待した通り、いや期待以上に、疑念も不安もない笑顔だった。時に悩むことだってあるだろうに。時につらいことだってあるだろうに。今がそれだったろうに。


 アンミは、柔らかく、温かく微笑んだ。


「こうして、こうすると、健介に電話が掛かる」


 アンミが受け取った携帯電話を操作して、俺のポケットの中の携帯が着信を知らせる。予行練習までしてくれて、手順も問題なく把握している。


 俺が携帯を操作するよりも前に「もしもし」と言っていたのはまあともかく、アンミの声がしっかりと前からも携帯電話からも届くことがチェックできた。


「ああ、俺だ健介だ。ちゃんと携帯から聞こえてるか?」


「へぇ、これは遠くの方でも聞こえる?」


「試すか?」


「ええっと、私ちょっと台所に行く」


「ああ」


 アンミ側からも機能確認要求が出た。距離としては全然変わらんが要するに障害物があっても通話できるのかが気になっているようだ。ソファから立ち上がって台所へ移動して壁に隠れたりしながらまた「もしもし」とやった。


「ああ、全然問題ないだろう?これはな?よほど山奥だったり電波妨害されない限りちゃんと話ができる便利な道具だ。まあ気が済むまで試してくれて良い」


「すごい。セラ村でも使える?」


「使えるんじゃないか?おっさんが携帯持ってハジメの親と……、多分、ここで使う時のためだけに携帯買わないだろうしな」


「ハジメやナナも使える?」


「ああ、そりゃもちろん使える」


「すごいなあこれすごく高い?」


「まあそうでもないだろう。今どんどん安くなってきてるし、そうだ。例えば、バイトして買うと良い。それまでは貸してやるから使い方を勉強しておくと良い。文章だけの、手紙みたいなのも送ることができるし、お前らが好きかどうかは知らんがかわいいキャラクターが動いてこう、気持ちを伝える絵文字というかそういうのもあったりする。楽しんで使ってたら勝手に身につくとは思うけどな」


「へぇ、どれくらい高い?」


「いや、ううん……。全部使い放題で月に三千円とかくらいじゃないのか?たまにしか使わないなら契約によってはもっと安いと思うし、端末の種類とか気にしないなら本体はほとんどタダみたいなものだ」


「三千円くらいを、へぇー。すごい。買える?六千円がいる」


 六千円というのが誰と誰の分なのかはよく分からなかった。今遠方地にいるハジメとナナの分だろうとは思うんだが、取り急ぎアンミとミーシーの二人分なのかも知れない。


 今行方不明のミーシーが携帯電話を持っていれば話せると考えていてもおかしくはない。強制通話させる機能というのはないが、まあ、……電源が入っていればコールすることはできる。


「九千円?九千円がいるかなあ……?健介とスイラお父さんは持ってる」


「まあバイトしてればそれぐらいは店長出してくれるし、お前が人の分まで用意してやらなくても良いだろう。ハジメなんかは普通にお父さんが買ってくれそうだし、ナナの歳では持ってないことが普通だ。結局、ハジメと一緒にいることが多いだろうし、勝手にどっか行くこともないだろう」


「それもね、考えてみる」


 アンミがものを欲しがる様子を俺は初めて見た。そりゃアンミと同年代の子の要求としては妥当だろうが、まさかアンミが携帯電話を欲しがるとは。それは多分、離ればなれになっていることの心細さからなんだろう。


 店が黒字化すれば店長も喜ぶし給料も出し渋る必要もなくなりそうだが、まあ、なんかしら理由をつけて買ってやっても良い気がする。


 俺自身は金の掛かる趣味なんかもないし、なんなら迷子になりそうな人間には持っていて貰った方が助かったりしそうなものだ。


 俺にだけ連絡をくれなかったりすると寂しいから、その辺りは少し条件を交渉しておけば疎外感に苛まれることもないだろう。


 ないと不便……、というのは、割とミナコでも痛感していた。あいつは家の電話で一番に出る性質……、固定電話での対応でなんとかなっていたわけだが。もしかするとミナコの場合、家のじゃなかったのかも知れんな。


 あいつ専用の電話だったんだろうか。他の人が出たことがない。大抵一秒で通話状態になる。その辺の不自然さはミナコの不思議さに隠れて気にならなかったが、固定電話番号ふうの転送サービスなんかを利用してたという可能性もないことはないのか。


「わあ、すごい。すごかった。これ借りてても良いの?」


「ああ、しばらく持っててくれ。それと今日の十一時からは使う。まあその後も持っててくれて良い」


「ありがとう」


「まあ今日は電話だけで大丈夫だが、充電器とか説明書とかも探して渡そう。それは明日で良いか?」


「ううん?今日欲しい」


「お、おう。そうか。じゃあ、ちょっと待っててくれ」


 充電器だけならすぐ見つかるだろうが、説明書はちょっと探さないと見つからないだろう、と思っていたが、意外と当時の俺が几帳面だったのか、単に新しいものなど滅多に買わないからなのか、いつも説明書を入れておく引き出しの中からあっさりと見つけることができた。


 携帯電話程度でこの分厚さなもんだから俺もこんなの読んだ覚えもないしどこにしまったのかは曖昧だった。良かった、整理整頓は大切だな。捨てたかもと思いながら部屋中漁り回るところだった。


「ほれ、これだ。コンセント指してここに置くとここのな?ランプが光る。ランプが光ってる間は充電中だ。で、画面の方でこれが残りの電池の残量だ。もう充電してあるからほとんど満タンだが、電池の残量が減るとここが少しずつ減っていく。まあ寝る前とかにここにセットしておけば良い」


「ありがとう健介。うん。大切に使うことにする」


 そう言ってアンミはすぐにコンセントを挿して携帯電話を充電器にセットした。ほぼ満充電だが、ちょっと減ってたのが気になったのかも分からん。


「ミーコ。出る時な、アンミが携帯忘れてないかだけは一応確認してくれ」


「ニャー。まあ、大丈夫ニャ。なんなら外に出るタイミングは健介と一緒でも良いニャし」


「そうだな。操作についてもアンミが躓いたら助けてやってくれ」


「問題ないニャ」


 あと、一時間半か。公園までの時間を見積もるともう少し短い。


「光ってるの消えちゃった……」


「ああ、じゃあ満タンということだ」


「良かった」


「ミーコから何かあるか?俺がした説明以外で、注意事項みたいなのは」


「…………」


 ミーコは何も答えなかったが、携帯電話を見つめているアンミの元へと擦り寄っていって、ちょうど左手の甲に頬を擦り上げた。


 ミーコは特質症相手が苦手なはずだが、どうなんだろう。一緒に出掛ける前に少しでも親交を深めておこうと思ったのか、それとも少しずつ慣れて、アンミのことが好きになって、場の空気もあって触れ合うようになったのか、正直なところよく分からん。


 ただアンミはそれを、大層喜んでいた。


「ミーちゃんが懐いた?お腹あったかい。ふわふわ」


 すりすりと、猫が飼い主によく懐いた時にやるように、撫でられるのを嫌がらず怖がらず、頭や頬を擦りつけている。ミーコにしたって、本能的な恐怖を覆すくらいに、アンミのことを分かってはいるだろう。


 それが怖がっていない演技だったとしても、そうするに足ることを頭では分かっているだろう。『嫌いではない』『だが恐ろしい』その感覚を俺は味わったことはない。


 それと近いのが、俺が市倉絵里に抱く想いだったりするだろうか。『そうすることが正しい』。ミーコの振る舞いが正しい。アンミはそれを、大層喜んでいた。


 一通りアンミとミーコの交流が終わって、アンミが満足そうにしていたところでミーコはソファの下へと入っていった。若干無理をしたかも分からん。


 泣きごとを言ったりあからさまに逃げたりということはなかったが、一休みが欲しいということだろう。時間は少しずつ、少しずつ進んでいて、ふと目を離すと十分などはあっという間に過ぎてしまう。


 アンミは眠たそうにしていないし、ミーコも休憩が済んだら動けるだろう。俺も問題ない。あと、一時間で始まる。


 待ち遠しいんだろうか俺は。一刻も早く方法は聞きたい。一刻も早く解決に導きたい。解決方法によっては多少時間は掛かることになるんだろうが、それに取り組むための気力はある。


 目を瞑って何度も手順を確認して、ポケットに手を当てて携帯電話とイヤホンの感触を探る。深呼吸をして極力心拍を下げて冷静な判断ができるようにしておく。


 首筋に手を当てて体温が平常を保っていることに安心する。問題ない。市倉絵里からどんな質問がきても、俺が致命的に動揺することはない。


 イメージトレーニングを繰り返しているとミーコが再びもぞもぞとソファから出てきて、またアンミの側へと擦り寄っていった。


 ミーコの休憩は終わりみたいだ。まだ時間よりは早い気もする。どうだろうか。外に出てから電話をして市倉絵里が到着するまで待ってるという方法でも構わない気もする。


「どうだろうミーコ。ちょっと早いが外出て待機でも良いか?」


「健介が思い立った時の方が良いのニャ。じゃあ、アンミにも準備するように言ってあげて、行ってくるって言うニャ」


「?ああ、うん。いや、お前らも一緒に外出るってことだぞ?アンミ?じゃあ、携帯持って外出れるか?」


「うん。大丈夫」


「じゃあ、行こうか。途中まで一緒に行こう」


 アンミが携帯電話を手に取ってから立ち上がって、ミーコはそのすぐ横について、俺もそれに続く。念には念を入れて玄関のスコープを覗いてまずミーコを先に外に出して近場の安全を確認して貰った。


 俺はここでも深呼吸をして心の落ち着きを保とうと頑張っていた。


「大丈夫ニャ」


「ありがとう。ちなみにどっち方面に行くつもりだ?」


「公園通り過ぎるニャから、公園までは一緒に行動することになるニャ」


「公園方面な。まあ逆方面は見通し良過ぎるからな。それで良いか。じゃあそこで、通話状態にしてしばらく繋がることを確認して、そんで繋げたままで別行動に移る。そこからは俺がしっかりやる。行こう」


 歩き出しもスムーズで、しっかりと地面を踏みしめる感触がある。一応暗闇に紛れて移動したかったから、アンミに携帯をポケットにしまうようにだけ告げて二人と一匹で歩き始めた。


 ミーコが先頭で歩いて、俺とアンミが二人並んでそれについていくという形だが、本当に先導役すら必要ないと感じるほどに辺りは静まり返っていて、せいぜい点々と住宅の明かりが見えるくらいだった。


 こんな状況で誰か一人でも歩いていたらそれこそ不審者に違いないが、そんなあからさまな配置というのは現段階では見つけられないし、そういう配置をしそうだとも思わない。


 電柱の上にカメラとかを設置していればまあ追えるかも知れないが、これは……、逃げようと思えば逃げられるんじゃないかと思うくらいの包囲具合に感じられた。


 主要道路で監視してるんだろうか。その迂回路を全て監視するなんて可能か?高総医科研のやり方が不透明だ。このまま逃げてしまうことを想定してないなんてことはないだろうに。


 不審な車も、見て分かるようなカメラもない。そうこうきょろきょろしている間に公園へ辿り着いてしまった。


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