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AM ‐ アンミとミーシー ‐  作者: きそくななつそ
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十一話⑫


「それを誰も、秘密にしろなんて言わない」


「質問が漠然としていて意図を掴みかねました。仕方ないのでまず私が何者であるかについて説明をします。私は高田総合医科学研究所の遺伝子研究分野のチームに所属している。組織や研究内容などについて詳しく明かすことはできませんが、君が知っての通り、今現在はアンミちゃんの保護に取り組んでいます。これは、どうしたいのか、というと、かなりぼかした言い方にはなりますが、アンミちゃんの特異体質を研究することによって、基礎医学の開拓、臨床医学の発展を目指している。おそらくその部分は間違いない」


「…………なるほど。それでまあ、お前が前に言った通り、アンミをずっと閉じ込めておくつもりだということなら、俺はその取り組みとやらを邪魔しなくちゃならないな。でもな、その話は後でしよう。そんなこととは別に、俺やお前の気持ちがあるはずだ。お前は今、俺のことをどう思ってるんだ?今までのことを、どう思っている」


「君のことを……?どう思っているも何も、それによって何かが変わると考えていますか?それによっては私や所員にアンミちゃんを諦めさせられると思っていますか?」


「アンミのことを持ち出す必要はない。今は俺とお前の話をしてるんだ」


「アンミちゃんを抜きに語ることなどできない。これはそもそもそういうお話です。今までのことなどまさにそういうことなのでは?私はもうずっとずっと前からアンミちゃんのことを保護するための準備をしていて、そうしている間に君と出会っています。その時点で、……君がアンミちゃんを受け入れる候補となることを知っていました。私と君とが関係を保つことができたのは、健介が魔法使いを恐れない例外だったからに他ならない。私の立場も意見もずっとずっと以前から変わることはない。これを健介は騙されていたと思うのは自由です。客観的に考えてそう判断するのが妥当です。それについて不服であったとしても、私が罪悪感によって意見を翻すことはありません」


「何があったかなんて聞いてない。客観的に見てどうかなんて重要じゃない。俺はお前の、気持ちを聞いてるんだミナコ」


「普通、友達のふりをしていただけだと思うのでは?騙していたと考えるのが当たり前なのでは?」


「普通どうであるかの話なんてしてない。世界標準がどうであるかなんて興味はない。俺と、お前の、二人がどうかを話してる。お前はそれにまるで答えてない」


「…………。君はまるで、いまだに私と君とが良い関係に戻れるのだと考えているように聞こえます」


「少なくとも、お前はその余地を残している。突き付けて見せろ、もしあるのなら。俺がお前と今後一切関わりたくないと言わせるくらいのお前の気持ちを」


 まず、ミナコが今までのことを、『良い関係』だと表現したことを嬉しくは思った。だが同時にミナコは、もうああした関係に戻れるはずがないのだと、半ば呆れたように俺を諭している。


 俺の言うことは、道理に合っていないかも知れない。都合の悪い部分だけを塗りつぶして欲しい答えに近づけようとしているだけかも知れない。


「アンミちゃんを引き渡したくないと考えているはずなのでは?」


「ああ、その通りだ」


「ならばアンミちゃんをこちらで保護したいという私の意見と健介のその意見とは……、中間を取ることなどできませんので、どちらかが諦めない限りお互い対極的立場です。確執があり反目しているわけです。健介はそのことを理解していますか?」


「もちろんおおよそ理解している。ただし、お前の言うようにどちらかが諦める結果じゃなく、どちらにとっても譲歩可能で納得できる妥協案もあるはずだと信じている」


「いいえこれは、どちらかが諦める結果になります。というよりも、健介が諦めることになります。そういったことを、健介は理解している?それもおかしい。研究所は、職員はともかく自由に出入りできるものではありません。そして高田院長の考えは先に伝えている通り、アンミちゃんを村へ戻したり、健介の家に置くことを想定していたりなどしません。これはつまり、アンミちゃんは今の家族と離れて暮らすことになるという、そういう結果になります。であるから、その考えに共感できない健介などはこちらと敵対関係にあります。ここまでの説明で納得できない部分はありましたか?」


「じゃあ、そういう前提だったとしてだ。仮に俺がアンミを諦めたら、その後、俺とお前は敵対関係でもなんでもない。また、元に戻りたいと思ってくれるか?」


「そんなことができるとは到底思えません。健介は何を言っている?それはつまり、既に健介の家にアンミちゃんがいないということなのでしょうか?」


「何故答えない?ミナコ。俺か、お前が、アンミを諦めたら、この件での対立はない。その後、俺とお前は元通り良い関係に戻ることはできるか?」


「……健介は戻りたいと考えているのですか?」


「もちろんそう思っている」


「どうしてでしょうか?」


「お前といた時間を大切に思ってる。あれを……」


 あれを、嘘だったとか、打算だったとか、そんなふうに思いたくなかった。俺の本心はそんなところだろう。隙間を埋めるように詰め込んできた出来事が、黒く変わり果ててしまうことが怖い。


 心地よい、時間だった。互いに循環しているはずだった。それを簡単には捨てられない。


「俺は、今までの、こうなる前の、お前と一緒にいたい。そりゃ、少しは、お前の振る舞いに演技や嘘があったかも知れない。打算的なことがあったのかも知れない。アンミを受け入れる候補を見張るのが最優先だったのかも知れない。だが根本的な部分にそんなことは関係ないだろう。一緒にいて心地よいかどうかは、事情によって変わったりなどしない」


「……分からない。騙し返そうとしていますか?今話すべきことを、どうしてそれだと決めるのでしょうか」


「俺とお前が、どうしてそれ以外を話さなくちゃならないんだ。俺は今それを確かめなくちゃならない」


「…………。仮に私が今なんと答えたとしても、それが信用される答えになるとも思えません。それは意味のない問答です。アンミちゃんはまだいるのでしょうか。それを答えたくないがために話題を逸らしているのでしょうか」


「話題を逸らしているのはお前の方だ」


「このままでは話は平行線です。要するにアンミちゃんがいるかいないかを明かすつもりはないということで良いですねっ」


「こっちの台詞だ。お前は俺の質問に答えたくないか答えられないということで良いんだな」


「アンミちゃんの話をしましょうと言っているのにそれに対応する答えが返ってこない。用件がアンミちゃんの件でないのならもう切ります」


 話してみて、……もう十分なようにも感じる。言葉を抜き出して都合の良いように繋ぎ合わせる必要もないくらいに、ミナコの、……トロイマンの本質はこうも明らかだった。


 どう考えても、俺が知っている側に寄ってきている。作った冷たい声が焦りで崩れている。


 そうであれば本当なら、俺はミナコの気持ちを確かめる意味などもないのかも知れない。ミナコがどう思っていようと、何を考えていたとしても、やはり『俺が』、ミナコと一緒にいたいと思っていられるわけなんだから。



『感情的直感タイプで、論理の組み立てはいつも後付けだった。でも人から奪ったり、人を傷つけたり、そんなことを望む人間じゃなかった』


『なあもちろん、気に入らないところなど山ほどあっただろう。ミナコのダメなところなど挙げきれないだろう。俺などには正せない部分もある。なのにどうしてこうまで、諦めがたいんだろう。何故諦めさせてくれないんだろう』



「お前は、アンミを家族から引き離して、研究所に閉じ込めておくことに、疑問はないのか?」


「私個人の考えを聞いているのでしょうか?」


「ああもちろん。研究所の方針とやらは、……というより高田の方針ではアンミを外に出すつもりはないと聞いた。お前はそれに異議を立てたりしないのか?」


「…………。このことについて、重要な部分は説明をできない上に説明をしたところで健介には理解できないわけなのですが、結論から言って、……私は高田院長のやり方に反対はしません。組織の構成員として従うわけではなく、個人として支持します。というのもですね、勘違いされがちですが、人道に反するような研究を行う予定などはありません。アンミちゃんには良い待遇が与えられます。安全を担保するために外出などは制限されますが他の要望については十分に応じられる用意があります。そしてそもそもそれとは別に、今回に限っては至極人間的な、道徳的感情による部分も大きい。健介は先程アンミちゃんを家族から引き離すことに疑問はないのかと私に聞きましたが、本心からそんな疑問が湧きますか?健介は気づかなかったかも知れませんが、あれは血の繋がった家族関係ではありません。あれは園児と、保育施設の関係です。こちらの研究所ではより厚くアンミちゃんを保護できる。アンミちゃんに世界から求められる役割を与えることができる。逆に聞きたいのですが、健介はそこにどんな疑問があるのでしょうか」


「血の繋がった家族だったら諦めたのか?」


「その可能性はあります。ただし、そういった事実と異なる条件で議論する価値はありません。アンミちゃんは実際の家族と同居していない」


「じゃあ仮にアンミの実際の両親がアンミを引き取ると言ったらどうする?」


「詳しいことまで話せませんが、そんなことにはなりません。もしそうなれば私は僅かばかり意見を変えるかも知れませんが、それが偶然に起こる可能性が非常に低い上に、誰かが簡単に手配できるものではありません。加えて、実際に血の繋がっていると確認できる人物がアンミちゃんを迎え入れたいと申し出た場合であっても、なかなかそれを本心からのことだと受け取りがたい背景があります。健介の疑問はそういった部分ですか?では答えますが、『血の繋がった家族と同居していません。実際の両親がアンミちゃんを引き取ることはありません』。であれば、研究所がアンミちゃんを引き取るのに不自然な部分などない」


「血の繋がりがそこまで重要だとは思えない。アンミは、何年も家族と仲良く暮らしていた」


「それを言うなら研究所であっても同じことです。アンミちゃんには世話係が用意されていました。アンミちゃんが彼ら彼女らにマイナスの感情を持っているなどということは考えづらい。健介の中で『今、一緒に住んでいる人が』『家族と呼ばれるのなら』『研究所の一部所員は、過去アンミちゃんの家族でした』」


「一緒に暮らしているから家族だと言ってるんじゃない。お互いに支えあって想い合って、だから家族なんだと言ってる。今の家族は研究所のようなお為ごかしな関係じゃない。アンミを利用しようとしているような人間はいない。仕事でアンミと関わる人間と、一緒にいたくて一緒にいる人間とは根本的に違う」


「…………。まあ、言いたいことは分かりますが、それは健介や私が決めることではありません。アンミちゃん本人に最終的にどうしたいのか問うつもりでいます」


「?アンミに?そんなの、研究所は嫌だと言うに決まってるだろう。研究所がこちらに圧力を掛け続けて、アンミの周りの人間に危害を加える危険性を仄めかしてるのはそのための布石か?」


「こちらの見解としては全く逆である。アンミちゃんが研究所に戻りたいと言うから、ミーシーちゃんやスイラさんがそれを懸念してアンミちゃんを村から移動させました。これは明らかにこちらとそちらで穏便に話し合いを進めるつもりがないことの表れである。話し合いをした結果アンミちゃんがどうするかを、ミーシーちゃんもスイラさんも知らないとは考えづらい。であるから逃げ隠れているのでは?こちらとしては所員の安全にも十分に気を使わなくてはならない。もしミーシーちゃんやスイラさんを見掛けたら逃げろとまで勧告しています。圧力を掛け、危険を仄めかしているのはそちら側です」


「……?ちょっと待て、それは誤解だろう。ミーシーとアンミが村から出たのは村が研究所に包囲されていたからで、予知したかしてないかは別として……、ミーシーは研究所の人間がアンミを強引に連れ去ろうとしてるんだと考えてるはずだ。じゃなきゃ辻褄が合わない。というより、ミーシーやおっさんがわざわざアンミに研究所に戻りたいかなんて聞くはずがない」


「何故聞きませんか?」


「アンミが、ミーシーやおっさんと、一緒にいたいと答えるに決まってるからだ」


「こちらがアンミちゃんを受け入れる準備をしていなかったらそうかも知れない。これははっきりと断言できることですが、研究所にとってアンミちゃん保護の障害になっているのはミーシーちゃんとスイラさんの二人です。この二人はアンミちゃんがどうしたいかに関わらずこちらの行動を妨害することが予想されます。アンミちゃんがこちらへ来たいと言ったとしても妨害します。違いますか?」


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