十話⑥
「テレビゲームみたいな感じよ。予知の中の私を、今の私がどう動かすか決めて、予知の中で失敗したらリセットしてまた新しく今からの予知を始める、そういう感じなのよ。例えば、……三つ箱があるとするでしょう。その中の一つが正解だとするでしょう?一回目の予知は適当に何も考えずに箱を開けるわ。ハズレだったら次の予知で他を開ける。それでもハズレだったら残った一つを開けるわ」
「まあ、想像通りだ。だから福引やミーコ探しの時はお前は相当苦労していたはずだ」
「まあそうね。まず福引の場合は、ちゃんとアタリが入ってるかどうか確かめるために抽選器をブチ割るでしょう?で、ちゃんと入ってたから他の玉と重さとかが違わないか惣菜コーナーの計量器使って確かめるのよ。アタリの方が重いから普通に回しても中々出ないでしょう。半回転くらいで止めて落としてちょうど出口に引っかかるまで何回かやるのよ。出してみて違う玉が入ってた場合は逆に回して引っ込めさせるわ」
「ブチ割ってたとは……。予知の中ではやりたい放題だな」
「あの店はいちゃもんつけられた時のためにわざわざ出づらいだけのアタリは常に入れておいて、夜な夜なハズレ玉を足すようにしてるんでしょう。入ってたハズレも大した数じゃないから、私からすればそう難しいものじゃなかったわ。玉の重さが同じだったら成功するまで回し方変えないとならなかったでしょうけど」
「なるほど。工夫……、してるな。さすがに試行回数減らすことは考えてるわけだ。闇雲というわけじゃなく」
「猫もまあそうなのよ。追い掛けたら逃げるでしょう?逃げたら探す範囲広がるでしょう。とりあえず放っておいて逃げ場がない木の上で一晩体力使って暴れなくなってからアンミが躾をした方が効率良いでしょう?悪気はないのよ、直近を予知するとそれが一番良い方法だったわ」
「確定結果オーライなら、そうなるだろうな」
「いくつも、弱点があるのよ、予知も。例えば、予知できない状況があるわ。妨害電波みたいな、予知が消される場所がいくつかあって、その範囲にいると予知をそもそも始められない、というのがまず一個でしょう。それにもし予知が始められたとして、三つの箱や福引の抽選器に鍵が掛かっていたり、アタリが一つも入ってない場合、予知して役に立つことなんてないでしょう」
「まあ、……そうだな」
「あと、予知した私が、予知した内容と違った動きをしたら、……少しでも違う行動をしたら、予知通りの結果にはならないわ。人とか動物の場合はちょっと一言余計なことを言うだけで真逆に動いたりするのよ。当然、予知した内容を私が明言してたら、人の行動も変わってしまうから、明言した場合の、予知をし直さないと、結果がどうなるかも分からなくなるわ。長い予知の場合、私がうっかり、予知外の行動をして、予知を台無しにすることもあり得るのよ。まあまずあり得ないけど福引を例にして極論するなら、私が予知にない余計なことを言ったら抽選器の中身を入れ換えたり、福引自体を中止しようとする人が出てくる可能性はあるでしょう。だから重要な予知の場合は、余計なことをしないように注意もするし、やり直しだと時間が減って可能性が狭まるわ。早い段階で結果が出たら基本的にやり直しもしないようにしてるのよ」
「予知の通りに、行動するのは難しいのか?ここまで三つは特に弱点のように思えない。なんというか、今までお前は無難にこなしてる」
「特に難しいと思ったことはないわ。でも、くしゃみをしそうでも我慢しないとならない予知をしていたとしたら、どうでもいい結果の場合はくしゃみする方選んでも良いでしょう。そういう油断をして良い時と悪い時があるでしょう。普段は油断してないわ」
「じゃあ、大概は一応、予知の通りにできるということだな」
「そう思ってるわ。次にお父さんの件もあるでしょう。私が予知して木の上の猫を回収しにいこうと実際行動に移した後に、お父さんが予知を始めて予知の中で猫をその場から移動させたとしましょう。私が予知し直したら、猫はいなくなってるわ。実際にお父さんが移動させたかどうかは別として。お父さんが予知の行動から外れて猫を回収しないことが確定してから私が予知し直さないと、古い予知のまま猫は移動したことになるのよ。そこまで真剣に色々試してたりしないから、この辺りはもう正直、お父さんが邪魔するとその時の予知が外れることもあるとしか言い様がないわ」
「おっさんは普段は予知しないのか?もしおっさんが普段からよく予知をしていて、で、その影響する範囲が広いなら常に予知が滅茶苦茶になっていておかしくない」
「言いたいことは分かるわ。多分お父さんも予知してるでしょう。だから本当なら色々連鎖して滅茶苦茶になっていておかしくないとも思うけど、実際には大抵二人で直接関係したことだけの問題になることが多いのよ。予知上書きしながらジャンケンで一週間の当番決めたとするでしょう。そうすると私の予知ともお父さんの予知とも違う結果になるわけだけど、私が予知し直さなくても、他の人の動きは全く同じかほとんど誤差にしかならないわ。不思議なことに、見て分かるほど周りの人の行動が変わったことないのよ、そういうのでは。まあ、なんだかすごい微妙なことを言うと、どっちかに完全に合わせると矛盾するけど、どういうわけか勝手に間を取るような感じになるし、その部分が誤魔化し終わったら後は予知通りに戻るのよ多分。だからちょっと距離が離れてるだけで誤差もなくて、距離が近くても長い予知にはそう大した影響にはならなかったわ。アンミが予知の通りに戻り始めるからそうだと思ってたし、例えば、お父さんが突然来た後のあなたの話し方とか行動とかも結局誤差が広がるようにはなってないと思うのよ。けど、ただまあ、二人とも予知し直せば済むと思ってすぐ予知し直してたから、あんまり例がないのは認めるわ。あと、遠い未来とか地球の裏側で何か出来事変わってても私もお父さんもそういうのに疎いわ」
「……アンミを探した時の件は、おっさんのせいという可能性は低い、ということなんだよな?」
「…………。私が、足を捻ったでしょう。確かに頭に血が上ってたかも知れないわ。でも、予知した通りの行動を取り始めて、私が迷うことなんて今まで一回もなかったのよ。もし、誰かが私狙ったなら、見事に弱点を突かれたわ、急に、気が変わったわけだから、それも、跳んでから……」
「夢の女が、邪魔をした?」
「可能性はあるでしょう?聞こえないはずの声が聞こえて、私の邪魔をした可能性はないことないでしょう」
「いや……。だが……。夢の女は何の目的でそんなことをするんだ?」
「目的は置いときましょう。あと、心を読めるということだったでしょう?私がアンミの居場所を予知するでしょう?その女が私の心を読むでしょう?アンミのところへ先回りして、アンミを別のところへ誘導するでしょう?私が予知をし直すとアンミがそこからいなくなってるわ。そしたら私がまた予知し直して探すでしょう。心を読むでしょう。アンミを操って別のところへ行かせるでしょう?で、また私のところへ戻ってくるのよ、透明な状態で」
「……まあ、できるかも知れん。ものすごく走り回って相当息が上がってそうだが」
「まあ、別に走らなくても遠くにいてできるならそうするでしょう。だから私が近づく度にアンミが出たり消えたりして辿り着けなかった可能性はあるでしょう?」
少なくともミーシーは自分の推理に破綻はないと信じているようだった。おっさんとの予知の競合よりも夢の女の能力の方がぴったりとあの場にはまり込む。
そうなると夢の女は……、一体何がしたかったんだ?交番で俺を引き止める警官の挙動は、……いや、それ以前に、下着泥棒が『神の御告げ』に操られていなかったか?
俺が、本屋に行かなかった理由も正直なところ自分でもよく分からない。その場に立ち止まらなくてはならないように感じた、本当の理由はなんだったろう。
下着泥棒が二人を狙った理由は?それらが夢の女の仕業だとするなら、どういう意図が絡んでくるんだろうか。
「あと、二つあるのよ、予知の弱点は。五つ目を教えてあげましょう。健介、重要なことよ。例えば、ナナのトランプを借りてきて、あなたが一枚、私から見えないようにカードを引いたとしましょう。私はカードを当てるために、五十二回、予知すれば良いはずでしょう?ねえ、たった、それだけのことのはずでしょう?」
「…………。俺がスパイだと、疑ってるということか?お前が」
「いいえ?今、予知の弱点の話をしているのよ。私が何度か予知をし直して、ようやくあなたが『正解』と言った。言ったとしましょう。カードを、そのまま片付けられたら、私は本当にそれが正解だったか分からないわ。あなたが、笑顔で、『正解』ってそう言ったら、ああ、そうだったのと、思うしかないのよ。いくら予知しても、人の心なんて分からないわ。本当がどうだったかなんて」
「お前に……、カードを見せたいのはやまやまだが……、信じてくれとしか言えない」
「信じてるわ。信じてるのよずっと。……百円で買った置物の中身が純金だったら、純金だと知ってて買ったはずでも、ちょっと不安になって鑑定したくなるでしょう。良く、され過ぎてるわ。そんな値打ち物、百円で買えるはずないって、そんなふうに思うこともあるのよ」
「…………あと一個は?」
「あと一個は、…………。まあやめましょう。あり得ないこと考えても仕方なかったわ。私が疑り深い人間だと思っているでしょう、健介。違うのよ。元々が信じやすい性質だから、普段から疑うように気をつけてるのよ」
「……それはあれだ。普段から疑ってたら結果的には疑り深い人だ。あり得ないこと……?まあいい。予知の話で、俺が役に立てることはない、もし、……もし俺が役に立てる時が来たら、チャンスを逃さないようには尽くそう。それまで、一応信じるに足る男であるよう努めよう、できる範囲でな。……俺が純金の置物だというのはさすがにお前の物差しがおかしい。それはな、俺発信じゃない誇大広告だ。俺は結果もなしに評価されるのは好きじゃない」
「ハジメが胸キュンしてるでしょう?そういう良い結果を出しているのに自己評価額が百円くらいの低いままでしょう。そうするとハジメはもう、恋心がうまい棒単位で変動する安い子になってしまうでしょう?まあそれはいいとしても、アンミもナナも楽しそうにしてるでしょう。私はそれ以外で得点つけるつもりないわ。ハジメはともかくとして」
「ハジメ側のレートの問題は知らない。……ああそうだな。そんなことないと言った方が良いのか?良いところだろう。スマイルゼロ円なんだ、きっとハジメは。俺の支払いに関わらず気分で機嫌が良かったり悪かったりする。俺も自然体でいられる」
話している途中、居間方面で仏間の戸が開かれた音が聞こえてきた。ナナである可能性もまあゼロではないが、戸の開けた時の音からすらなんとなくのハジメらしさが感じられた。
最初ガタ、と戸に手を掛けて、気を使ってかすぅーと静かに少し開け、何を察してなのか途中いきなり気を使うのを止めて平常のドア開けモーションに移ったようだった。
『アンミまだ寝てんのかなあ?まだ熟睡してる。じゃあ大丈夫』という感じだったんだろうか。それともナナが一緒に起きていて、気を使って静かにしようとしたのに、ハジメが後ろから『何やってんの?』みたいに戸を押し開けたのかも知れない。
ともあれ、このヘンテコな音の具合はハジメが原因のように思われた。布団に包まって昼まででも寝てて良いハジメがこの時間に起きてこられることには感心する。
そしてよく、考えると、今平然と茶を注ぎ足しているミーシーの睡眠時間に至ってはそれより更に短いはずだ。あまりに普通にいるものだから気に留められることすらない。
「うわぁ、おはよ。なんかご飯の匂いしたからアンミ起きてんのかと思ったわ。何?二人で作ったの?」
「おはようハジメ。お前はさぞがっかりするだろうが、俺が担当する。ご飯食べる元気はあるか?」
「え、あるけど。ああ、へぇー、あんたもしかして、アンミが眠いかもとかって早起きして料理してやってんの?」
「まあ……、そういうことでも、ある。いや、そんな……、『やるじゃん』みたいな顔をするな。料理が用意できた時点でお前の感想が変わるかも知れん」
「ナナとアンミまだ寝てんだけど、あたしも待ってたら作ってくれるわけ?って、ん?……あ、もしかしてもうない?」
ハジメは机の上の皿を見て、くるりと首を回して時計を見て、少し気まずそうに自分の分があるかを確認した。
「いや、二人だけ先に作って食べた。で、他はいつ起きてくるか分からんから、起きてきた都度作った方が良いという話になって。な、ミーシーが、作りたての方が少しはマシだと」
「マシって……。あんた作って貰ったんでしょ?ちょっと言葉選んだら?」
「すまんすまん。マシって、ああ言ったっけか?単に都度作ってあげた方が喜ばれるだろうというようなことをミーシーが教えてくれた。まあ確かにその方がマシだろうと思ったのは俺だ」
「んー。まあなら良いんだけど。めんどくない?それ」
「あらまあ。私を悪者にして、いやに健介の心配をするのね、ハジメは」
「……ん、ごめんって。言いそうじゃん、だって」




