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AM ‐ アンミとミーシー ‐  作者: きそくななつそ
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十話④


 嫌な夢を見そうな気がして、すんなりとは眠れなかった。嫌な夢など見ないはずだと言い聞かせて貰っても、どうも悪いイメージが拭いきれない。


 そのまま俺は、朝を迎えた。眠ったのか、眠らなかったのかすら分からない。ただ、昨日寝過ぎた分と帳尻が合ったのか、起き上がるのに苦労はしなかった。


「ミーコ、……おはよう」


「健介おはようニャ」


「起きてたか?」


「起きてたニャ。健介昨日はご苦労さまだったニャけど、こんな早起きして大丈夫なのかニャ」


「割と、なんか知らんが大丈夫だな。いやまあ、元から一日くらいちょっと夜更かししたって大丈夫なもんなんだろう」


「大丈夫だと思ってても無理は良くないニャ。深呼吸をしてちゃんと元気があるか確かめてみるニャ」


「すぅー、ふぅー、はぁ、あると思うぞ、問題ない。さて、まあ俺の体調はどうでもいい。誰か起きてるかな。それこそアンミが体調崩してないかは心配してるんだが」


「健介、時計見たかニャ?起きてるのミーシーくらいニャ。アンミもまあ、いつもだったら起きてるかも知れないニャけど、今日はまだ下で寝てるニャ」


「アンミが寝ててくれる分にはむしろありがたいな。そうだ。俺が折角早起きしてるだろう。少ししたら誰か起きてくるかも知れん。俺が、……料理を作るというのはどうだ。アンミの代わりといってはなんだが、一応アンミも、『余計なことするな』とかそういうことは言わないだろうし」


「…………。そうニャ。アンミは、それは嬉しいと思うニャけど」


「けど、なんだ?ミーシーが嫌がるか?ハジメは別にレトルトでも文句なさそうだったし、料理もできないはずだから俺を貶めに掛かることもないだろう。ナナは、一つくらいは何か良いところを見つけてくれるかも知れない。俺が罪滅ぼしのつもりで行動してるということは分かってくれる」


「まあ、ミーシーは気に入らないと思うニャ。アンミが喜ぶ分で相殺するつもりならやると良いニャ」


「ミーシーは難しいな。でも、料理以外の仕事を手伝う分には文句は言わないだろう?一回分料理のクオリティが下がるくらいは許してくれるとは思ってるし、あいつこそ、アンミのためならやむなしと考えそうなものだ」


 ミーシーは確かに、俺が料理することに不満を抱くのかも知れない。ただ、実際に反対するかどうかは試してみないとなんともいえないなとは思っている。我が家の序列を考慮してのことなのかミーコの歯切れは悪かった。


「健介の気持ちは分かるニャけど、ミーシーを優先してあげた方が良いかも知れないニャ。健介もナナからミーシーの幸福度が下がってるって聞いてるニャ?」


「ん、まあ、しかしな、ご機嫌の取り方が分からん。そりゃ、チャンスさえあれば貢献したいが、ミーシーの場合はそういうことも訪れづらいだろう。優先度を下げてるというわけじゃないし、アンミを優遇してるというわけでもない。今回の場合は、どちらかといえば埋め合わせみたいなものだ」


「それはミーシーも分かるはずニャけど……」


「?心配し過ぎじゃないか?本気で嫌なら止められるだろうし、最悪食わないと言われても俺は別に落ち込んだりもしない。まさかと思うが俺の料理スキルを心配してるのか?大惨事にはならんぞ?ケガもしないし、食中毒も起こらない」


「まあまあ、……じゃあ気をつけてやってくるニャ」


「ん、ああ。じゃあ、ちょっとまあ、機嫌は窺ってみる」


 ミーコが心配してるのは俺だったりするんだろうか。ただ、今回単なる代打の打診をするだけだ。まあ、料理の出来不出来には、厳しい文句が出るかも知れないが、そこで俺が辛辣な評価を突き付けられたとして、特段気落ちすることもない。


 俺は元々の力量を正しく認識しているし、同じ水準で料理を作ろうとも思っていない。


 居間や仏間はまだ暗いまま、台所だけは明かりが灯っていた。ミーシーが静かに椅子に座っている、のかも知れないが、ただし、物音一つしない。


 とりあえず洗面所で顔を洗って歯を磨いて寝癖の確認をする。一度伸びをしてから、台所へ顔を覗かせると、やはりミーシーが一人ぽつんと、椅子に腰掛けていた。頬杖をついた状態から少し首を持ち上げてこちらへ目線を向けている。


「おはよう、ミーシー」


「おはよう」


「昨日はありがとな。付き合ってくれて助かった。ナナも満足してくれたみたいだ」


「どういたしまして」


「…………。ええと、お前からも例えばなんか要求をしてくれて良いんだぞ。ほら、折角の機会だ。トランプに付き合ってくれた礼に、なんかあれば言ってくれ」


「そんな細々したことで一々お礼を寄越せなんて言わないわ。商売して生きてるわけじゃないのよ」


「そりゃそうだが。じゃあ言葉が悪かったな。単にお前が喜んでいる様子を見たいというだけだ。ヒントをくれたら方向性くらいは決められるだろう」


「満足よ。満足してるわ。……でも、……ところで健介。そういうことを言われるとかえってやりづらいわ。……質問しても良いかしら?」


「質問?……ああ、なんだ?改まって聞くようなことか?」


「まあ何気なく聞くようなことじゃないと思うわ。私に、隠し事をしている自覚はある?」


「…………」


「そう。あるのね」


 ミーシーは無表情のまま、目だけ見開いて、俺のことをまっすぐに捉えている。あまりにも突然だった。まるで予期していなかった。


 俺は目線すら自由に動かすことができない、言い訳を考える準備すら整わない。足元の床が急に崩れて空中に放り出された。


 ああ、ただ、まずは呼吸を始めなくてはならない。呼吸をして、ミーシーの質問を理解して、答えを用意しなくてはならない。その答えは、ミーシーを落胆させるものであってはならない。不信感を生み出すものになってはならない。


 隠し事を、している、『自覚があるかどうか』?つまり、ミーシーは隠し事をしているかどうかの問答をするつもりはない。隠し事をしていることはもはや分かりきって、その上で、隠し事について良心の呵責はあるかと俺を問い質している。


 俺の中に真っ先に思い浮かんだのは市倉絵里のことだった。俺は愚かなことに、今この瞬間まで、ミーシーが納得し得る理屈の組み立てを、試みたことがなかった。


 隠せ、と言われている。隠さなくてはならない理由を具体的にまでは知らないが、隠した方が良いことに俺も納得はしていた。


「あの、な、ミーシー。俺はその」


「いいのよ、別に。質問をするから、私が質問をしたことに答えてちょうだい。別に他のことはどうだっていいのよ」


「……もしかして、それが原因か?お前が、例えば俺に対して笑顔を見せない理由は」


「?一旦黙って、質問を聞いてから答えなさい。嘘をついたりトボけたりしないでちょうだい。……正直、あなたが犯人だとは思ってないわ。私が予知した通りにしてても、実際にはそうならなかった時があるでしょう?その時のことよ」


「……?ああ、えっと、服を買いに行った時か?」


「ええ。そのすぐ後にアンミを探した時もそうだったわ。でも、他の時はともかく、私がうっかりしてたはずがないのよ、少なくともその時は。だから当然あなたにも話は聞いたわ。どうして私の予知と違う行動をすることになったのか、当然あなたにも確認はしてるのよ」


「確認された覚えはないが……」


「……険悪になるから予知の中でやるでしょう、そういうのは。やったのよ、予知の中では、その時に。でも、何も知らなかったでしょう?無自覚で何かできてたとも思えなかったわ。今、もう一度、あなたの感想を聞きたいのよ。どうして私の予知が狂ったか、知ってるかしら?」


 聞かれるはずがないから、説明に向けての努力を怠っていた。ミーシーは俺の裏切りを察知すれば、アンミを連れて家を出るに決まっていると考えていた。


 だがそれは必ずしも、一かゼロかで決まるものじゃない。話を聞いてくれるはずだったんだ、たとえ予知の中だったとしても。


 俺は自ら解説を始めないと固く決めていながらも、いざという時のためには備えてなければならなかった。


 ミーシーはもしかして、俺が隠そうとしたことを、全部知っていておかしくないんじゃないだろうか。予知の中で、何度も何度も俺を問い質していたりしないだろうか。


 俺の身の回りに起こるいくつかを、偶然と必然とに分けて十分な推理を持っていたりしないだろうか。


 仮にそうなっていたとして、俺はその局面でさえも、知っていることを知らないと言い通せるだろうか。


 ……いいや、……危うい。


 だから、市倉絵里は冴えた方法を俺に知らせない。夢の女は名前すら明かさない。正直に、答えることが、せめてもの誠実さだと、そう思わされてしまうことを、俺は誰からも見透かされていた。


 誠実でなければ、『信じてくれ』なんてことを言えない。だから、俺は、隠すべきことは知らされていない。


「……知らない。いや、……、それはもしかすると、言って良いのか、分からないが」


「ええ。言って良いわ」


「他の魔法使いがいた、可能性がある。確か、おっさんとお前で競合して実際とは違う予知になることがあるって話だったろう。おっさんは多分影響する範囲にはいなかっただろうが……。それか、お前が言ってた電波妨害の影響で不完全な予知になった、ということも考えられなくはない」


「電波妨害の場合だったら予知は薄くなって消えるわ。消えたとしても妨害されてる外に出たら外でのことは確実に分かるのよ。予知ができなかったわけじゃなくて、予知ができていたのに、その通りにならなかったわ。お父さんの可能性は確かにゼロとはいえないでしょうけど、ただ競合というよりお父さんの分の予知の更新が遅れるだけだから、その場でお父さんが見つからないのは不自然だし、こちらが予知し直して何度も結果が変わることなんて普通あり得ないのよ。『他にも魔法使いがいた』わけよね。どうして、言って良いか分からないの?」


「…………。分からん。それすらも分からん。そもそもそれに関係してるかも分からない」


「知ってることだけ教えてくれたら良いわ。もうこれを聞くのは最後にしましょう。ただ、大事なことだから、少しでもちゃんと、確認はしておきたいのよ」


「俺は、お前やアンミの、味方のつもりでいる……。アンミの味方についている、もう一人、誰か魔法使いがいるはずだ。隠したい、ようだと思った。口止めをされたわけじゃないが、姿を現さずに名前も名乗らないのは、お前やアンミに気づかれないようにするためだと、そう考えていた」


「そう。どんなことができる魔法使いなのか言いなさい?」


「どんな。多分、姿を消すことができる。あと……、声を出しても俺にしか聞こえないようにできる。瞬間移動のようなこともできるのかも知れない。ふっと気配が消えたりする。そうだ、完全じゃない感じだったが、人の考えを変える、ような、こともできたりするかも分からん。心を読み取る力がある。夢の中で俺に語り掛けてきて、で、最近というか、昨日からだが、普通に俺が起きてる時でも会話できることがある。名前は教えて貰えなかったが、女性の、結構若くて美人な感じの人だ。これもちょっとぼんやりしてるんだが。良い機会だから俺も知りたい。心当たりがあるなら教えてくれ。あいつは一体、誰なんだろう。名前だけでも知りたい」


「…………。…………。怪しい奴として認識しておきなさい。全然心当たりがないわ。私が知らないということは当然アンミもハジメもナナも知らないでしょうし、そんな知らない人間がアンミの味方についているのはおかしいでしょう?」


「知らない?……そんな馬鹿な。いや、少なくともその、夢の女はお前たちのことを知ってる様子だった。下手をすると、……これは俺の考え過ぎかも知れないが、俺とすら事前に会っていたとかいう、そんな話し方だった。それにアンミの味方のふりをしているなんて、正直考えられない」


「でも、名前も分からないし、身元不詳でしょう」


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