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AM ‐ アンミとミーシー ‐  作者: きそくななつそ
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八話㉙


「あとなあ、なんか不義理な感じがして申し訳ないんだが、……そして、客もいないしホスト側に誰も文句言う人間がいないことも分かりきってはいるんだが、なんというのか、人間の不合理な慣習に付き合ってくれ。一応、形だけは飲食店の体裁があるから、人間以外の動物が入れないというルールが適用されそうだ。お前は本来特別扱いされるべきなんだが、実際お前が特別だとしても特別扱いをすると普通のペットやそのオーナーから不平が出る。俺と一緒に外で食べよう」


「……まあそこは逆に入れと言われても困るところニャ。健介が思春期過ぎても女湯に案内されるみたいなもんニャし、仮に入れても多分変に気を使うことになるニャ」


「そうかも知れんな。お前が変に人間的なせいでというのは皮肉な話だが、そのシチュエーションなら俺も風呂は諦めるに違いない」


「人間だったらどうかはともかく、逆に健介もたまには都合良く猫にでもなってみたら良いニャ、きっと。飼い猫の気分も少しは分かるようになるニャから」


「まあ普段なら猫を羨ましく思うこともあるんだがな」


「気分だけの問題ニャ。眠くて寝てお腹空いてご飯を食べて、なんとなく出掛けて面倒くさくなったら家に帰る、というくらいはたまにやって頭休めてて良いニャ」


「ああ。なあ、ミーコ。自由にそうしているお前を見ているのは微笑ましいのかも知れない。飼い猫は不自由か?自分にとって都合が良いようにあって欲しい俺は、よほどお前よりわがままなんだろう。俺は猫になりたくてもなりきれない人間だ。お前はどう思うんだろうな。お前と約束したいことがある」


 こうして一緒に歩くことができるのなら、俺にとっても程よい運動習慣になるだろう。ミーコが話し相手になってくれるなら、散歩も楽しいに違いない。


「お家ルールかニャ?別に不自由なところも思い浮かばないニャけど」


「首輪を買ってやっただろう。お前はよっぽど散歩が好きなようだ。交通ルールは守ってるか?……餌に釣られて悪い人についていくなよ」


「……?まあ?そこら辺は、確かに私も普通の猫より考えてる方ニャ。まるきり普通の猫になりきって損得考えなくなる必要もないところニャ」


「俺はな、お前が自由にしていることに文句があるわけじゃない。あんまり遠くへ行くなとか、危ないからここら辺は行くなとか、……おそらくこの先ずっとそういうことを言い続けるだろうが、これまでにそういうことを言ったっけか。元はといえばお前が帰ってこないんじゃないかと不安になるからだ。約束してくれれば少しは口うるさくなくなるかも知れない。どっか遠くへ行っても、悪い人についていっても、結局は元気で家に帰ってくる。いない間は心配掛けるが、絶対戻るから大丈夫だと、そういう約束をしてくれれば、お前のことをとやかく言うのが、少しは減るかも知れない。多分、まあ……、減るのはほんの少しだけだろうが」


「健介のそういう心配事も、私が約束と言って気が済むならいくらでも。何の心配もないニャ?まあただ、呼吸するみたいに自然にそうするに決まっていることをお互い約束なんて気負うこともないニャ」


「……俺には必要だ。人は猫と違って嘘をつくからな。そして猫はなんとなく気ままなイメージがあるからな」


 店に辿り着くまでの間、あれこれ家ルールを決めようとミーコにこうしてくれああしてくれと注文を出した。だが、まあ、どうなんだろう。


 ミーコは今までだって俺が聞けば予定を教えてくれたりしただろうし、昼までに戻ってきてくれと言えば戻ってきてくれただろう。今日は出掛けないでくれと言えば側にいてくれただろう。寂しいから布団に入ってくれとか話し相手になってくれとか、そういうことについては実際に応えてくれている。


 ミーコは何の不満もなさそうに、確かに呼吸でもするかのように、今までそうしてくれていた通りのことを、今までと変わらずしてくれると約束した。俺の側も、別に大した注文が思い浮かぶことがなかった。



 さて、店まで着くとミーコはお行儀良く入り口の前で外側を向いて座り込み、「裏口の方が良いかニャ」と言って一度首だけこちらへと向けた。「どっちでもいいがそうかも知れんな」と曖昧な返事だけして中へと入り、一応店長に今ようやく戻ったことだけ伝える。


「あれっ、健ちゃんまだ戻ってなかったの?健ちゃん何で出掛けたんだっけ?」


「ああいや、……何だったんだろう。なんか用事があって呼び出されたと思うんですけど、……結局、正直なところ自分でも何のために出掛けたかは微妙ですね……。すみませんでした」


「健ちゃんいつまで経っても戻らないから心配してたよ。なんかこう、酔っぱらってさ、あらぬところに行っちゃってたらどうしようみたいなさ」


「『戻ってなかったの?』って気づいてなかったじゃないですか、店長」


「いやあ、今。今心配したの」


「そうですか、すみません。心配掛けました。料理ってまだ残ってますか?ちょっと飼い猫の晩御飯のことも考えてやらないとならなくて、猫にあげても大丈夫なもの残ってたりしますか?」


「え、どこ?猫?猫飼ってたっけ?まったく、健ちゃんそういうこと言わないからなあ。後付けでそういうこと言うからもお。え、どこ?家に料理持って帰るの?」


「…………。賢い猫なんで外でお行儀よく待ってて。飲食店だし、動物が入るのは良くないなという気遣いのできる猫で……、裏口かな。裏口に回るような素振りもしてたから、多分その辺にはいるんですけど」


「わあ、何それ。賢いとかいうレベルなの、それ。あるある。多分健ちゃん出てってからだと思うけどまた追加で作ってくれてたし。休憩挟んでもう健ちゃん以外みんなお腹一杯で、いやあすごい量食べたね、よく考えると。で、ほら。なんかゲームやってるみたいだから、健ちゃんも混ざって来たら?猫ちゃん連れてきてさ」


「ありがとうございます、……なんですけど、猫が店の中入るとあんまり良くないかな。多分」


「…………まあ。確かに。そっかあ。ちょっと可哀相だけど、じゃあじゃあ、僕あげてきていい?僕、さっきからもう電話が、ああ、まただよ……。ちょっと癒されたい感じなんだよね。あ、ごめんね」


 言い終えて携帯を取り出し耳に当て、どうやら食材の取引先とやり取りをしているようだった。声のトーンが若干落ちていくところから察するに、もしかすると何かお叱りを受けているのかも知れない。


 店長がふらふらとテーブルに近づき、俺もその後に続く。一応ハジメとナナは既に俺の姿に気づいていたようだったが、テーブルへ近づくまでは立ち上がったり声を掛けたりはしなかった。


「ええっとね、うん、そうそう。だからお祝いをね?ええ、僕、ほら祝賀会って言ったよ。ほらあ、言ったって。大体、僕の店そんなお客さんいないの知ってるでしょ?というか、だって、営業しててもそんな用意したことないじゃん。うん、うんうん、いやあ、それはすっごいありがたいんだけど、別に新装開店セールとかよく分かんない雰囲気じゃなかったって。あっはは、何それ、でも多分健康に良いよ。あ、ごめんね。ちょっと猫ちゃんに分けてあげて良い?健ちゃん猫ちゃん連れてきたって」


 ミーシーが用意していた皿を「どうぞ」と店長に渡して、店長はニコニコ受け取って裏口の方へと歩いていった。店長の電話の邪魔をしないようにか、集団は少しの間だけ静かになったが、俺がいない間もずっとワイワイ盛り上がってはいたようだ。


 おっさんはへべれけで日本語にならない大声でおそらく『どこへ行っていたんだこの野郎』みたいな意味合いのことを言って、続いてハジメもそれに乗っかるようにして、あるいは翻訳のつもりなのか「あんた、どこ行ってたの?」と俺に聞いた。


 が、別にどこに行っていたかを本気で気にしている素振りでもなく、陽太が「トイレ、長かったな……」と切なげに呟いたのを相手した後、まあとにかく座れということになった。


「あれ、でもいついなくなったんだっけ?トイレってそりゃさすがに長過ぎだけど、なんでトイレ行って猫連れてきてんのよ。いや、ちょっと待って。確かトイレ行くって行ってたような気も……、どうだっけ」


「まあ、そんな気にするな。誰もあれか?……お前が酒飲むのを止める人間がいなかったのか?」


「そしてハジメはお食事の時にトイレトイレ連呼してお行儀が悪いわ。うんこって言って良いのは中学生まででしょう」


「うんこっては言ってないでしょ。あんたこそお行儀悪いー。折角ねぇ、あんたねぇ、まったく。あたしみたいにおとなしく食べてなさい。女の子らしく」


「女の子は酒瓶に口つけて飲んだりしないわ。両手でこうやってコップ持ってちゅうちゅうすするものでしょう」


「いや、……あんたがこっちに寄越してんじゃん。あんなちょっとしか残ってなかったからコップ注がないでしょ、普通。……ねぇ?」


「ねえ、て……。俺に聞くな。別に俺は誰がどんな飲み方してても気にしないし、元からお行儀良くしてるとかも思ってない。状況も知らないからコメントは控える」


「いやぁ、だかんね。あたしが、コップ満タンの時に、これもうちょっとしかないし片づけとけみたいなこと言うから……、はいはい、分かった分かった。うふふ、へへ、こうやって飲めば良いんでしょ?……んっく、んく。こんなんで。どうよ、今できてんだけど」


「まあ、何が悪いかというと、元はといえば健介のうんこが長いのが悪いな。うんこが長いというのは語弊があるのだが、うんこを踏ん張っている時間が長いというのが悪いのだな。ハジメちゃんはそこまで悪くないと思うのだ」


「そうでしょそうでしょ。ま、そゆこと」


「上品さは心掛けろ、二人とも」


「ところで、さっきまで『あるある健介隊』というのをやっていたのだ。『あるある健介隊』というのをやっていてだな。昔、こう、テレビでやってたことがあるのだが、健介は知ってるか?」


「…………?俺の名前が何故か使われているという部分以外は知ってるかも知れん。どちらかというと内容よりもネーミングについての疑問を解消したいな」


「まあ、要するにだな、健介は自分がこう、よくあるなあと思うことをリズムに乗って自己紹介みたいにしてくれたら良いのだ。まあ、しかし、これはだな。健介あるあるなのがポイントだからな。別にリズムは特に重要じゃなくて、だから健介はいきなり、なんというのか、自分語りのラップとかを始めてくれても多分誰も文句は言わないのだ。ちょっと寒い空気になるというだけで、それでもちゃんとポイントはちゃんと与えられる」


「そうか。だがまあ、できたら俺もその寒い空気というのは回避したいな。お前らが笑って受け入れてくれるというならまだしも、なんだか寒い空気で気まずいというのはちょっとつらいな」


「んぅ、いや、まあそこは今までやってたみたいにね?タンタンタタタン、タタンタタンっ、て。あたしもさすがにラップで自己紹介とかはなんか止めるに止めらんないし。して、気ぃ使ってんのバレバレなのもちょっとあれだし……」


「大丈夫だ、心配するな。自分に優しく、他人に優しく、俺が仮に何かひらめいちゃったとしても一晩は考えてから披露することにしてる。ましてこの場で何の準備もなくわけの分からない蛮勇チャレンジをしたりはしない。リズムは……、タンタン?タタタン、タタンタタンな。よし、まあルールに則ろう。俺はできることなら魔王城など行かずに出身地周辺の魔物だけ倒していたいような男だ。安心しろ」


 なるほど。まだ自己紹介をやっていたわけか。確かにそういうゲーム形式ならスムーズに相手の情報を引き出せそうだ。ターン制で、考える猶予時間も毎回あるわけだし、何も思いつかなくても他の人間に乗っかってそれっぽいことを発表していけば良い。


 話に入れなくて自己紹介できないような引っ込み思案の人間などおそらくこの場では俺ぐらいしかいないわけだが、初対面の余興としては面白い。


 もし陽太が覚えているようならではあるが、聞き逃した分は後日陽太に聞いてみようかな。俺もそう大した自己紹介をして貰ってないから。


「あるあるじゃないのはペナルティだからな。まあ健介のあるあるに関しては正直審議スルーでも問題ないくらいなのだが」


「まあ、常識人だからな。俺はすごく普通にあるあるしか言わないだろう。ところで、共感度が低かった時はどういうペナルティなんだ?」


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