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AM ‐ アンミとミーシー ‐  作者: きそくななつそ
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八話⑯


「そうそう、そうなのだ。日本は法治国家だろ?そして資本主義の国でもある。俺は今まで自分のことを結構アウトローな人間だと思っていたのだが、でも警察は怖いからな。法律は守らなくちゃならないだろ?」


「ああ、そうだな。だがまあ、アウトローな人間はそういう思考はしないだろうな。お前はどちらかというと気ままな自由人だ」


「誰もが金持ちになりたいと思ってるだろ?俺は小さい頃から金持ちになりたいと思っていて、金持ちになったときのお金の使い道も決めているのだが、……だがこれが法律違反になるかも知れないな。夢とか希望とかそういう話なのだが」


「……二人の話じゃなかったのか?すまんが何が言いたいのか全く分からんし、お前はトランプ、俺は片づけと店の準備がある。その話は準備が終わったらじっくり聞いてやるからとりあえずさっさとオチをつけろ」


「そんな長い話じゃないのだ。都会に行くと飲食店のジャンルとしてだな、健介とかは知らんのだろうがメイド喫茶というのがあるわけなのだ。金持ちだったら普通に家でメイドを雇えるだろ?メイド喫茶は偽物っぽさがあるし、他の客にも同じようにしているとかがっかりするところが多いのだが、専属のメイドが家に住み込みで『ご主人様』と呼んでくれるのはもう、結構良い夢だよな」


「ああ、そうか。頑張れ。……頑張れとしか言えん」


「だが、労働基準法とか多分そういうのがあってちっちゃい子を雇えんだろ?健介も想像してみてくれると良いのだが、俺はメイドを雇いたいとは思いながらも別に……、『家政婦は見た』みたいなのがしたいわけじゃないのだ。別に仕事とかはそんなできなくてもいいのだが、こう……、メイドをだな、メイドイン我が家なメイディングしたいわけなのだ。小さい頃からの住み込みでな?小さい頃から、ほら、ご主人とメイドという関係でな?未就学児を雇えないだろ?この国の法律では」


 アンミ、ミーシーが未成年、というのをこのタイミングで言い出すのか、陽太は。これはもう現状今更な問題点だし、店長が承知の上で、かつ陽太も別に反対してるわけじゃないだろうに。


 結局……、何が言いたいのか分からん。


 陽太が話している間に、おっさん達はトランプの競技をばば抜きに決定し、それとない場つなぎなのかわざわざばば抜きのルールを一から確認し始めた。陽太もあっちを向いたりこっちを向いたり忙しく相槌を打っていたが、トランプ組のテーブルは陽太待ちのためにナナのトランプに仕込みがないかのチェックまでしている。


「……そう、だろうな?」


「多分十六歳からとかなら雇えるのだが、その頃から雇ってもあんまり尊敬されないだろ?ご主人様なのにな」


「……そう、かもな?」


「金汚い子が寄ってくるかも知れないし、知らない内に労働組合を勝手に作るかも知れないだろ?労働基準局に職場環境が悪いだとか告げ口したり、ある日弁護士を連れてきてセクハラの証拠をでっちあげるかも知れないだろ?俺は……、そのだな、なんというのか、恥ずかしい話なのだが、正式な婚約者が、まあまず、親とかが決めた美人の令嬢とかがいて、なんか合わなくて違うなと思いながらも結婚式とかでだな、こうメイドが……、『ご主人様のことが好きです』ってその、泣きながら突然告白する感じ、とか健介は分かるか?それでだな、『メイドの分際でっ、どうせ金目当てだろっ』て野次られる中でだな、……『ご主人様はメイドの私にも分け隔てなく優しくしてくれました』的な、『お金なんていらないけど、ご主人様がどこかへ行ってしまうのがつらいです』というそういう、そういえば小さい頃とかに一緒になって遊んで、俺もそのメイドのことが好きだったような、気がする……、という切ない夢を持っているのだ」


「『……ような気がする』程度なら美人の令嬢と結婚しておけ。そしてお前には今現在『小さい頃メイドの女の子と一緒に遊んだ』というエピソードなどない。法律がどうこう以前の問題だ。そんなハッピーエンドは諦めろ。新たな夢を抱け。じゃあもうその夢の話はもういいな?」


「……分かったのだ。とりあえずその話は置いとくとして健介、思ったのだが。その話とは別のことを思ったのだが」


「…………。思うな。俺も忙しい、故にお前思うな」


「なんだと。……じゃあ健介が忙しく仕事してるか見てるからな。俺はトランプをしながら、健介が嘘をついて俺の話を面倒くさがって逃げたかどうかを見てるのだ。聞くか?今少子化が問題になってるだろ?」


「いや、聞かない。店長が一人で片づけを始め出してしまった。そしてお前の方もだ、既にトランプが配り終えられている。ごめんな、どう考えてもお前待ちになっている。後で暇な時じっくりじっくり聞いてやるし、万一俺が何か思いついたらアドバイスもしてやろう。今はまず俺とお前のそれぞれの役割をこなそう。それで良いか?」


「仕方ないな。俺も健介も忙しいし、まあ今回は仕方ないと思うのだ。頑張って仕事をしてくれ。さてじゃーんけーん」


 少子化の話とやらも陽太の与太話だろう。別に今聞くことじゃない。キッチンでは調理が開始されているだろうし、こちらも店長と協力してなんとか形だけ整えなくちゃならない。陽太も一応ゲストを退屈させないように振る舞ってくれることだろう。それぞれの役割を全うしよう。また店長の方へ振り返った。


 小さな机を店長と協力して隅へ移動させた。でかい机は分解すれば、というより元々の何個かのパーツに分けて運ぶことができたらしいが、店長はその場の勢いで一人で組み立ててしまったとのことだった。


 気持ちは分かりますし、一生懸命頑張ってたんですねと、しょんぼり店長をなだめているとトランプの休憩の合間なのかおっさんこちらへ来てでかい机の片側をよいしょとなんなく持ち上げた。嘘だろと思うほどにスムーズな動きで、腰から下などまるで動かす様子がなかった。要するに片側とはいえ腕だけで、力んでるふうにも見せずに持ち上げている。


「店長さんちょっと横にいてくださいね。ほれ健介、上がるってこれくらい」


「くっぐぅ、少しずつな?少しずつだぞ?あっあと、この場だけで良いから絶対にふざけないでくれっ」


「こうやって揺らしたりとかか?」


「やめろやめんか!はあ?どういう構造してたらそんなふうに、本気でちょっと、片側でも絶対五十キロ以上あるぞ腰を痛めるからホントにやめてくれ」


「運動不足だなあ健介は。腰じゃなくてこう、腕でな?二頭筋使えよ。そんな膝を下げて持とうとするからだろ?」


「腕でっ、上がる重量じゃないからこうしてるんだ。良いからほらいっちにっ」


「はい、いっちにっ」


 手伝って貰ったお蔭で、何とか店の中央位置に机を配置し、続けて小さな机も並べて、店内の準備作業はトランプ組周辺を除けば完了となる。思っていたほど時間は掛からなかったが、思っていた以上に消耗することにはなった。休憩時間は欲しい。


「へぇ金持ちってなるもんなんだ。金持ちになると身分証とか変わったりすんの?」


「ん?なんでなのだ?身分が変わるから、とかそういうことなのか。ああ多分変わるだろうな。市役所に行くと住民基本台帳カードというのが発行されるのだが、見た目というか色とかですぐ身分が分かるのだ。そうだな……、水戸黄門なんかが……あの時代は住基カードじゃなくて印籠だったのだが、同じようなことは今でもやってるのだな。『この住基カードが目に入らぬか』、こうやって掲げて見せるとそれまで威張っていた小悪党は慌てて跪くのだ。住基カードはちゃんと役場から発行されてるものだからな。あとマイナンバーとかも格好良い番号とかは金持ちに買われてしまうのだ」


「……へぇ金持ちそんなことできんの?あたし自分のカードとかも見たことないわ。番号も知んないし」


 とりあえず俺と店長は一息つきがてらソファに腰掛けて店内の様子をぐるりと見回す。特にこれといって修正の必要な箇所も見つからないし、店長も「よし完成」と声を出す。


「どう?健ちゃん?プロみたいじゃない?店がさ」


「ああまあ店が……。うん。並べてみれば確かに収まりはいいし、割とまともなセンスの備品だったから別におかしいところはないですけど、俺としては元から店長が満足なら何でもいいというか」


「料理はもう個人の好き嫌いがあるけどさ、店がしっかりしてるかどうかってのでお客さんが知り合いの人とかを誘いやすいかどうかって決まってくるものでしょ?って本に書いてあったよ」


「本に書いてあったんですか?最後の一文ですごい説得力が増して納得。ただそれよか個人の好き嫌い以前に不味かったら客は来ないでしょう?両方揃って万端というか、本当に今回は上手くいくかも知れないですね」


「うんうん。まあ悪くなることは絶対ないだろうね。でも料理の方はみんなで協力して、美味しくしていけば良いんだよ。陽ちゃんも健ちゃんも一応自分で料理はしたことあって、一回も料理したことない人よりはできると思うし」


 そう、言うだろうな、店長は。二人がどの程度料理できるかが未知数の状態だとこういうことを言う。


 悪くなることはまずない、というのはまあどんな新人が来ても当てはまることだから良いとして、おそらく店長の中でアンミは『年齢相応に料理ができる』か、『料理が好きだと言う女の子』程度に認識されている。


 確かにたまたま都合の良いタイミングで俺がアンミを誘えたもんだから、無選別に人材をあてがったと思われていても仕方ない気はする。若干癪だが、店長が選り好みしない器のでかい人物で、かつ、変にプレッシャーを掛けないであげようね、てな感じの優しさを兼ね備えているという、そういうことでもある。


 どうせ料理が出来上がるまでのことだから、わざわざ俺が反論する必要もないな。


「じゃあとりあえず今日は好きに料理させてやってください。それでなんかこうした方が良さそうとかあれば俺たちで考えたりフォローしたりという感じでやっていけたら良いですね。あれば……、まあ、一応、あれば」


「一個でもあればね、ま、僕だって役に立つかも知れないし。ちょっと見てこようかな」


 店長がソファから立ち上がり二人が作業しているキッチンの方へと歩き始める。料理はまず間違いなく満足できるものが出てくるとして、俺はミーシーが何を、どうやって、手伝っているのかが少し気になっていた。


 俺もそれとなく立ち上がって店長の後をついていくことにした、のを、陽太が目ざとく見つけてしまい、店長がふと立ち止まった後に、……行列ができた。


「健ちゃん、なんでみんな並んでるの?」


「…………。店長が見にいくなら、俺も一応様子だけ見ておこうと思っただけで」


「俺は二人でこそこそ向こうへ行こうとしてるからなんとなく後ろにくっついてみたのだが?」


「ナナは釣られた」


「え?俺か?ナナと一緒でなんか並ぶもんかなと思ってな?」


「いや、あたし一人残ってんのもおかしいかと思って」


「…………。キッチン狭くて邪魔になるからちょっと待ってようと思う奴はいないか?」


「え、じゃあ僕残るけど」


「店長残るなら俺は見にいくきっかけを失うな」


「そうすると俺は行くとしたら味見とかだからもうちょっと後で良いな」


「ナナも釣られて戻る」


 それぞれ一応理屈は分かるが、いらんところで集団行動しないで欲しい。まあ、長時間うろうろするわけでもないし別にいいか。俺本人は店長と共に視察という大義名分がある。


「…………じゃあ、なら俺はちらっと見てすぐ戻ることにするから、あんまり邪魔にならないようにな。特に陽太」


 俺は、料理については全く心配していなかった。まずミーシーがいる以上、食器食材調味料、調理器具の在り処、おおよそこの店の設備についても把握しているだろうし、そこはクリアできる。


 そしてアンミの料理スキルから考えれば、料理の出来上がりに文句をつける人間などいない、はずだ。仮に万一失敗しそうな場面があったとしてもそこにまたミーシーがいる。


 失敗は、万に一つもあり得ない。だから俺は「ちらっと見てすぐ戻ることにする」と言ったし、監督する必要がない以上、陽太と店長もすぐに椅子へ戻って雑談でも開始するだろうと考えていた。


 だが、大きな見落としがあることに、今ここで気がつくことになった。口を……、出さざるを得ないか、これは。相当言い出しづらいが。


「ええと、すまん。すまんな、アンミ。料理は何を作ってるのか気になってな?」


「今ね、ミーシーが手伝ってくれてる」


「そうか、良かったな。嬉しそうだな。うん、それで、昼飯の予定な、聞いとこうと思ったんだ。なんかこっちからの要望的なものもあるかも分からんし」


「カレー作ってる。みんなカレー好きかなと思って」


「そうか。カレーは、好きだろうな。多分みんな好きだと思う」


「ま、良いんじゃないの?」とハジメは言う。店長と陽太は一目切られた野菜を見て歓声を上げていた。


 だが、ちょっと待って欲しいのは俺だけだろうか。『フランス料理の店だったんだ』と、言って良いものか、これは。


 考えてみると、多分だが、アンミにフランス料理という特定分野の知識はない。そもそもカレー粉があるのか、ここに。……美味しいカレーが人気のフランス料理店というのは、一体どういう店なんだそれは。


「はっきり言ったら良いでしょう。カレーはさすがにダメでしょう。あなたが言いづらいなら私が言いましょう?でも今後そういうことはあなたがはっきりと言いなさい。アンミ、ここはフランス料理の店なのよ。さすがにカレーはフランスっぽくないのよ。だからこれは最終的にポトフ的な何かになるわ。まあシチューみたいな感じにしましょう」


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