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AM ‐ アンミとミーシー ‐  作者: きそくななつそ
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七話㉗


「つまり……、アンミとミーシーをこの家に置いて、俺がその場を離れないようにしろということだったわけだが、例えばその……、ミーシーのお父さんが来たりしたら俺はどうすれば良い?」


「……できることなら、引き止めてくれた方が都合が良いけれど、もしも二人を連れてどこか出るというのなら、健介君がついていってくれないとならないわ。ええと、その際は、健介君はこういうのも疑うかしら。場所は教えてくれなくて良いし、今持っている携帯電話が怪しいと思うのならあなたの家に置いたままにしてくれて良い。ただし、私の電話番号は覚えておいてね。何かあった時には私に連絡ができるようにはしていなければならない。あと、場所はそちらで適当に指定してくれて構わないのだけど、いよいよどうしようもなくなったと感じた時、最後に一度だけ、直接私と会う機会を用意して欲しいとは思っている」


 おっさんは、引き止めておいた方が良い……。携帯はGPSのことを言っているのか、怪しいと思うなら逃げ場所に持っていく必要はない。だが、何かあれば連絡を入れて、最後どうしようもなくなれば直接会ってくれ、という……、話を、黒い女は少しばかり落ち込んだような声色で告げた。


「お前の作戦で不確定要素になったりしないか?」


「いいえ。スイラお父さんは変に一人で動いたりはしないと思うし……、一緒にいてくれるならそれはむしろありがたいでしょう。健介君の家に引き止めてくれるのなら、心強い味方にはなってくれる。私は『あなたたちが幸せになる』ことは保証してあげられるわ。どこにいるか分からないとなるとそれは少し難しい部分にはなるから、アンミちゃんを助けたいと思う人は、それこそ一カ所に集まっていてくれた方が良い。ただ、こればかりは健介君がどうにかしようとして、というのは難しいでしょうね。とりあえず私の番号だけ覚えておいてくれたら良い」


「なるほど……、分かったような……。ああ、じゃあ、また……、今度」


「ええ。またね、健介君」


 不毛なやり取りや無駄話もあって、かれこれおよそ三十分に渡って電話を続けていた。電話を切り上げるタイミングを計りかねて長引いたし、あまり意味のある情報を引き出せたという実感はない。


 ただ、鍵は掛けたままだし、ミーコがガリガリとドアを引っ掻く音が聞こえてきたりしない。誰かが階段を上り下りする音もしなかったはずだから、三人と一匹はまだ長風呂を続けているんだろう。


 なんにせよ、際限なく続きそうだった黒い女とのやり取りを、俺はなんとかミーコが戻ってくる前に自制して終わらせることができた。


 当初の目的であった人数制限の有無についても確認を済ませた。場当たりではあるが、今回はこれで良しとしなくてはならない。念のため発信履歴を確認するが、自動消去機能が働くようだった。


 自室の鍵を開け、ついでに一度階段を下りてみたが、まだお風呂は空いていないようだ。


 おっさんが「あらまあ」と口を手で抑えて居間からこちらまで少し歩いてきていたが、俺はもう気づかないふりをしてまた階段を上る。上りきる手前で一度振り返ると階段の下でおっさんは、俺に見せつけるようにガッツポーズをしていて「風呂場の、守護者のポーズ」と口にした後、首をくいとこちらへ向けた。


「…………」


 俺は見なかったふりをして階段を上りきった。剽軽な笑顔に納得して一時安心させられてしまう。この状況で温かさを持って人に接する余裕は、おっさんの自信の表れなんだろう。


 結局最後はおっさんが、難なく問題を解決してくれるのかも知れない、そしてその可能性は高い。


 であれば、俺がこうして、疚しく思いながら電話なんてしなくて構わないわけだが……、素知らぬふりをして何もせず待てるほど、のんびり屋でいられる気がしない。


 俺の目の前には、危ういながらも道が用意されている。たった半歩足らなかったばかりに悲劇を招くようなことがあってはならない。知らなければならないだろうし、考えて、見つけなくてはならない。


 そう思うのは、アンミ捜索騒動で予知万能説が崩れたのも一因ではあるが、まあそれがなかったにせよ、俺はできることは探したに違いない。


 偶然なのか必然なのか、俺は黒い女に目をつけられた。今の段階では危険人物だと断言できるような材料はない。黒い女が完全なる善意の協力者であるなら、俺が役に立てる場面を与えてくれるつもりでいるだろう。


 そうでない場合であっても、俺が疑う気持ちを忘れなければ、二重スパイのように立ち回ることはできるはずだ。こちらに不都合な情報を渡すようなことはない。


 心労ばかりはどうしようもないが、ただ何もできないことを後ろめたく思いながら眺め続けるよりは、そうであった方が、幾分かだけ、俺のありたいようにいられる。


 俺は腰を下ろして椅子を鳴らして首を持ち上げ天井を眺め、まず何を知るべきなのか、何を聞くべきなのかを考え始めた。


 例えば……、まずトロイマンやその手先に出会わないように人相など知っている方が都合は良いかも知れない。黒い女の顔を俺があらかじめ知っていたのなら、喫茶店に引きずり込まれることもなかった。……まあ、場合によっては、ではあるが。


 あとは、……『魔法使いを作りたい』という目的の先に何があるのかは全くの謎だ。複雑な経緯や事情があるんだろうが、俺などは、……作って、どうするんだと、思っている。


 その研究自体に価値があるのか、その魔法を使って何かやりたいことがあるのか、それを知ればもしかして、……例えば、世論を味方につけて糾弾することができるかも知れない。


 世界征服が目的だとすれば、それを暴き出して公表することで、研究自体を止められるものなのかも知れない。


 ……あまり、現実味はないが、そういう可能性もゼロとはいえない。ああ、またか……。何だろう。


 最近ちょくちょく、俺は自分が寝ているのかどうか分からなくなる。起きているはずなのに、いきなり視界が白く黒く染まって、空想に溶け込んでいく。


 ミナコのことを思い出す時もそうだったように思うし、眠る前と起きる直前なんかは特に、こんなふうに、そうだ、幽霊を見た時もこんなふうに体の感覚が抜け落ちて目を開けようとして開けられない、開けたとして俺の視界じゃない、そんな症状が俺を襲う。


 腕を起こそうにも俺の頭からの信号がかき消されたかのように思う通り動かないし、足を伸ばそうにも重力が百倍になったようにぴくりとも反応を示さない。俺はまたこうして、夢を見始める。



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