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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第二章 森の外へ
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99 パリサ

 精霊の助けを借りながら、ハッサンはケニスに実践的な剣術を教える。沖風の精霊に回避を習っていたように、今度も明確な剣術は習えていない。それでもケニスは真剣に取り組んだ。カーラはその真摯な姿を素敵だと思った。


「とりあえず刀をしまうか」

「そうだな。目立つことはなるべく避けたい」


 陸が見えてきた。ハッサンはケニスを促して風と水の刀剣を片付ける。ハッサンが精霊刀を遣うことは、護衛仲間なら知っている。だが、それまで使えなかった魔法まで使えるとなると、騒ぎになるかもしれない。才能溢れる子供まで連れて海上を走っていれば尚更だ。


「面倒くさいね」


 ケニスの言葉に全くだ、とばかりに頷くカーラ。



「どっか目立たねぇとこから陸に上ろう」

「港を回り込むと岩の海岸がある」

「人目は?」

「昼でも滅多に人が来ねぇ」

「そこから上ろう」


 一行は念のため陽炎を纏って姿を見て隠す。賑やかな港を遠く逸れて、岩の多い海岸に出る。茶色っぽい岩がゴツゴツとしていて、波は高かった。海水浴には向かないし、船も出せない場所である。



「今日は港に泊まるか」

「ハッサン、俺たちこっちの金ねぇぞ」

「食堂で働けるか聞いてやるよ」

「そいつぁありがてぇ」


 一行は姿を現すと、町の裏手からぞろぞろと港に入る。活気のある港町は、裏町にもちらほら人が行き交っていた。オルデンたちは、ハッサンの後について樽や木箱が並ぶ店の裏手を通り過ぎる。


 子供たちは初めて見る町というところの情景に、好奇心丸出しできょろきょろと見回した。ケニスはカーラの手をしっかりと引いて、はぐれないように気を遣う。



 ケニスたちがいた森の奥は、滅多に人が訪れなかった。オルデン以外の人間は、追手の魔法使いが初めてだった。そのあと船の乗組員たちと出会った。


「ここの人間たちは、オルデンやデロンと違うわね」

「ハッサンとも似てない」

「俺みてぇのも少しはいるぜ?」


 子供たちの感想ににこにこしながらハッサンが答える。


「肌の色は、ハッサンみたい」

「うん、濃いね」

「オルデン、色変えた方がいいかしら?」

「いや、大丈夫だろ」


 港町には色々な国の人が行き交う。服装も肌や目の色も様々だ。



「ここだ」


 ハッサンはとある裏口で立ち止まる。二階建てになった石造りの家である。壁沿いに木箱が積んであり、1箇所に鉄の横板がついた木四角いの扉が見えた。ハッサンは2、3度ノックする。


「はい、だあれぇ?」


 中から澄んだ声がした。


佳人(パリサ)、俺だ、ハッサンだ」

「ハッサン!どうしたんだい?」


 勢いよく開いた扉から、縮れた黒髪の美女が現れた。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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