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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第二章 森の外へ
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98 海上の剣舞

 遠くに船影が見えると蜃気楼を立てて隠れながら、一行は一路アルムヒートへ。


「出鱈目でも何でも、実戦さえ生き抜けりゃいいんじゃねぇの?」


 波の上で剣の稽古をしながらハッサンは言う。


「いい加減ね」


 カーラは眉を吊り上げる。


「そうは言ってもな。習ってりゃ出鱈目よりは無事だろ」


 オルデンは剣術を知らないので、やはり習ったほうが安心だろうと考えたのだ。


「まあ、そりゃそうだけどよ」



 ハッサンの説明によると、ヴォーラとサダでは構え方からして違うという。


「けど、受けたり返したりは慣れだからなあ」

「じゃ、それ教えてよ」

「そうだな。俺も賊にはそんなに会ったことはねぇんだがよ」

「なんだ、ハッサンもジッセンしてないんじゃないの」

「ハハ、カーラは手厳しいな。まあ、ちったあ海賊とやり合った経験もあるんだぜ?」


 ハッサンはまず辺りを見回した。


「最初は棒切れでも使おうかと思ったんだが」

「流れてねぇな」


 オルデンも海上を見て同意した。



「ハッサン、これ使いな」

「おおっ?」


 沖風の精霊がやってきて、風をかき混ぜると剣の形になった。


「いやでも、直刀は」

「ふん、頭固ぇな。だからなかなかプロポーズできねぇんだろ」

「関係ねぇだろうが!」


 ハッサンは狼狽えながらも、風を操って得意な曲刀の形に固める。


「そしたら、俺は炎な!」


 ケニスは面白がって引き抜いた髪の毛を燃やす。たった一本の髪の毛がたちまち大きく燃え上がり、真っ直ぐで細身な剣に変わった。


「ハッサン、いい人いんのかい」

「ほっとけよオルデン」

「頑張れよ」

「オルデンにはカミさんいんのかよ」

「居ねぇけどな?」

「なんだよ」

「はやく練習しようよー」


 大人たちがくだらない話をしていると、ケニスがせかす。


「あのさ、ケニー、水か風じゃだめかな」

「えー」


 ハッサンが燃え盛る剣に恐れをなして提案する。ケニスは真っ赤に燃える剣がお気に召している様子。


「ケニー、火傷でもしたら危ないから、炎はやめとけ」

「デンが言うんじゃなぁ」


 大好きなオルデンに言われて、ケニスは渋々炎を消した。それから海の水を持ち上げて、練習用の剣を作り直す。



「よし、好きに打ち込んでみろ」

「うん!」


 ケニスはハッサンに向かって走る。ハッサンはアルムヒートへ進路をとりながら、ケニスと(やいば)を交わしてゆく。カーラとオルデンは少し離れてついてゆく。


 ケニスは小さな動作で水の剣を振った。いつも西の山で練習していた剣を抜く動作だ。ハッサンは手首を軽く返して、ケニスの直線的な剣の軌道をいなす。


「えいっ、それっ、どうだっ」


 ケニスは身軽に動き回る。鳥の姿の精霊に鍛えられた軽技のような身のこなしだ。ハッサンも楽しそうに相手をしてくれる。剣先で螺旋を描いたり、斜めに跳ね上げたり、摺り寄せて鍔元まで削ったり。わざと小さな水音を立て、パシャパシャと波の上を走ってゆく。


「ほらほら、どうした!」

「やあっ、はあっ、とうっ」


お読みくださりありがとうございます

続きます

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