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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第二章 森の外へ
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97 ケニスと剣

 海から飛び出して来たカワナミは、ひとしきり笑うといつものように話しかけて来た。


「オルデン、ケニー、カーラ!うまく逃げてるね!」

「今んとこはな」


 オルデンがむすっとして答えると、子供たちも口を開く。


「何しに来たのよ」

「カワナミ、遊びに来たのか?」


 カワナミは好奇心の強い精霊なので、それには返事をせずに新顔のそばにゆく。


「ねえ、この人風しか見えないのー?」


 急に顔にかかる飛沫に驚いて、ハッサンは辺りを見回した。渦になったり少年の姿になったりしてカワナミが笑う。オルデンが煩そうに片手を振った。


「カワナミ、姿見せてやんなよ」

「えー、アハハッ」


 カワナミはゲラゲラ笑い声を立てるばかり。ハッサンは仲良くなった風の精霊から事情を聞いて、おかしそうに頬を緩めた。



 マーレニカとアルムヒートを結ぶ航路は、船だとひと月よりも長くかかる距離である。精霊の力を借りたなら2週間から3週間で着いてしまう。精霊だけならもっと速い。


「コツが掴めて来た」

「だいぶ動けるようになったな」


 オルデンも太鼓判を押す。


「なあ、オルデン」

「なんだ?」

「ケニーに剣の使い方を教えていいか?」

「是非頼む」


 風を足場に動けるようになったので、練習しながら進もうと言うのだ。


「やった!」

「良かったわね、ケニー」


 子供たちも満面の笑みを浮かべる。


「けどよ、俺、直刀は分かんねぇ」

「違うの?」

「見たことあるけど、けっこう違う」

「ヴォーラは何とかなるって言ってるよ」

「サダのやつも大丈夫って言ってる」


 言葉で伝わるわけではないが、ふた振りの精霊剣と持ち主は意思の疎通が出来るのだった。



「ケニーは騎士になんのかい?」


 ハッサンに聞かれて、ケニスはキョトンと目を丸くする。


「キシって何?」

「剣を持って、馬に乗って、鎧着て、王様や高貴な人を守る人たちだ」

「ふうん。じゃ、違う」


 実を言うと、ケニスは王様や高貴な人と言われてもピンとこない。彼らには一度も会ったことがないし、噂する庶民も森にはいない。物語や人形芝居も森には無いのだ。オルデンは物語を聞かせるような性格でもないし。


「そうか。じゃあ俺たちみてぇな雇われ護衛だな」

「そうじゃない」

「じゃあ剣は何に使うんだ?」


 ハッサンは不思議そうにケニスを見る。


「砂漠の魔女を倒して、弟を助けるんだ」

「砂漠の魔女?なんだか怖そうだな」

「うん。怖い奴だ」

「弟が捕まってんのか」

「そうなんだ」



 ハッサンはそこまで聞くとオルデンに顔を向ける。


「オルデンよぉ、ケニーはずいぶんとまあ、厄介なことに巻き込まれてんだな」

「そうだな」

「オルデンも砂漠の魔女ってやつに立ち向かうのか?」

「さてなあ。成り行き次第(しで)ぇだな」


 オルデンがキチンと髭を剃った顎を撫でる。


「そんなこと言って、助けちゃうんでしょ。アハハッ」


 カワナミがオルデンに飛沫を飛ばして笑う。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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