96 ハッサンと風の精霊たち
精霊に運ばれた一行は、交易船よりもはるかに速い。速いのだが、身体に負担はかからなかった。矢のように過ぎ去る大海原の波模様に、ハッサンは楽しそうに笑った。
「こりゃあいい!へえー!」
程よく風も水飛沫も浴びて、潮の匂いも楽しめる。銀色の魚が群れを成して跳ねる。ツルツルの魚がやって来てキューキューと話しかけてくる。
お腹が空いたらちょっと休憩だ。
「居ないな」
「誰も見てないね、デン」
「大丈夫そうだわ」
辺りを探ると、波の上に風の幕を作って腰を下ろす。
「ハッサンもやってみなよ!」
「出来るかなあ」
「出来るよ!」
ケニスに勧められて、ハッサンは魔法を試みる。しばらく練習している間に、オルデンたちは海の幸を手に入れて火を通した。
真剣に取り組むハッサンを気に入ったのか、風の精霊たちが手を貸した。
「よう、頑張ってんな」
「お前さん、沖風の友達だろ」
「あいつの仲間なんて嫌いだったんだがな」
「おおっ?何だ?急にたくさん出て来たな?」
「失礼な奴だな」
「ずっといたわい」
「お前さんが信用ならねぇから存在を隠してただけさ」
「へーえ。精霊ってのは気難しい奴らだぜ」
「そんなこと言うと手伝わないぞ」
「ほらみろ。早速かよ」
ハッサンが朗らかに笑うと、顰めっ面の精霊たちも明るい顔に変わった。
「ハッサン、お前ぇ、へそ曲がりばっかり寄せてんなぁ」
オルデンは感心半分呆れ半分でハッサンを眺める。
「参るぜ。優しい精霊はいねぇのかね」
「ま、風なら滅多にいないかもな」
ハッサンは風の精霊と相性がいい。そして、風の精霊にはマイペースな者が多い。気まぐれな精霊の中でも特に行動が読めない者たちだ。
「はー、ま、仕方ねぇ」
「何だと」
「やっぱり手伝うのやめるか」
「悪ぃ、悪ぃ、手伝ってくれよ」
「ふん」
「そら」
「まあ、手伝わんでもない」
サダもハッサンの腰で青白く光った。応援しているのである。曲刀を抜けば精霊の力を使えるが、刃物なのでそうそう抜かない。
ハッサンの稽古をしながら1週間ほど海上を行く。
「あと半道ほどだな。精霊速ぇー」
「楽だろ、ハッサン」
喜ぶハッサンに、風の精霊たちが感謝して欲しそうに声をかける。
「おう、ありがとな、みんな」
「ハッサン、すっかり風のみんなと仲良しだねぇ」
「ケニーほどモテモテじゃねぇけどな!」
「変な言い方しないでよね」
「おいおいカーラ、焼き餅か?」
「カーラ、大丈夫だからねっ」
「知ってるわよ、ケニー」
「なーに言ってやがんだか」
オルデンが苦笑いをすると、カワナミが海から飛び出してきて大笑いを始めた。
「えっ、カワナミ?」
「本当に何処にでも来るわよね」
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