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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第二章 森の外へ
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96 ハッサンと風の精霊たち

 精霊に運ばれた一行は、交易船よりもはるかに速い。速いのだが、身体に負担はかからなかった。矢のように過ぎ去る大海原の波模様に、ハッサンは楽しそうに笑った。


「こりゃあいい!へえー!」


 程よく風も水飛沫も浴びて、潮の匂いも楽しめる。銀色の魚が群れを成して跳ねる。ツルツルの魚がやって来てキューキューと話しかけてくる。


 お腹が空いたらちょっと休憩だ。


「居ないな」

「誰も見てないね、デン」

「大丈夫そうだわ」


 辺りを探ると、波の上に風の幕を作って腰を下ろす。


「ハッサンもやってみなよ!」

「出来るかなあ」

「出来るよ!」


 ケニスに勧められて、ハッサンは魔法を試みる。しばらく練習している間に、オルデンたちは海の幸を手に入れて火を通した。



 真剣に取り組むハッサンを気に入ったのか、風の精霊たちが手を貸した。


「よう、頑張ってんな」

「お前さん、沖風の友達だろ」

「あいつの仲間なんて嫌いだったんだがな」

「おおっ?何だ?急にたくさん出て来たな?」

「失礼な奴だな」

「ずっといたわい」

「お前さんが信用ならねぇから存在を隠してただけさ」

「へーえ。精霊ってのは気難しい奴らだぜ」

「そんなこと言うと手伝わないぞ」

「ほらみろ。早速かよ」


 ハッサンが朗らかに笑うと、顰めっ面の精霊たちも明るい顔に変わった。



「ハッサン、お()ぇ、へそ曲がりばっかり寄せてんなぁ」


 オルデンは感心半分呆れ半分でハッサンを眺める。


「参るぜ。優しい精霊はいねぇのかね」

「ま、風なら滅多にいないかもな」


 ハッサンは風の精霊と相性がいい。そして、風の精霊にはマイペースな者が多い。気まぐれな精霊の中でも特に行動が読めない者たちだ。


「はー、ま、仕方ねぇ」

「何だと」

「やっぱり手伝うのやめるか」

「悪ぃ、悪ぃ、手伝ってくれよ」

「ふん」

「そら」

「まあ、手伝わんでもない」


 サダもハッサンの腰で青白く光った。応援しているのである。曲刀を抜けば精霊の力を使えるが、刃物なのでそうそう抜かない。



 ハッサンの稽古をしながら1週間ほど海上を行く。


「あと半道ほどだな。精霊速ぇー」

「楽だろ、ハッサン」


 喜ぶハッサンに、風の精霊たちが感謝して欲しそうに声をかける。


「おう、ありがとな、みんな」

「ハッサン、すっかり風のみんなと仲良しだねぇ」

「ケニーほどモテモテじゃねぇけどな!」

「変な言い方しないでよね」

「おいおいカーラ、焼き餅か?」

「カーラ、大丈夫だからねっ」

「知ってるわよ、ケニー」

「なーに言ってやがんだか」


 オルデンが苦笑いをすると、カワナミが海から飛び出してきて大笑いを始めた。


「えっ、カワナミ?」

「本当に何処にでも来るわよね」


お読みくださりありがとうございます

続きます

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