95 海の上を進む
甲板に出ると、雪は止んだきりで青空が見えた。冷たい風が吹いている。子どもたちは、オルデンの顔を仰ぎ見た。
「こんだけ離れてりゃ、邪法遣いも追って来ねぇだろ」
「魔法使っていいんだね」
「使わないと凍えちゃうわね」
2人は温かな風を身に纏う。
「へーえ、魔法ってやつぁ便利だなぁ」
「ハッサンは魔法を使えないのか」
「精霊剣を使えるのに、魔法は使えないのね」
「こらお前ら、失礼だろ」
「いや、いいって」
「使おうとしねぇだけだろ」
沖風の精霊は嘲笑うと、海の彼方に飛び去ってしまった。
「そんで、どうやってアルムヒートに行くんだい」
ハッサンは鳥のことは気にせず、オルデンに尋ねる。
「なに、精霊に運んで貰うのさ」
オルデンが言い終わらない内に、精霊たちが集まってきた。海の精霊と風の精霊が一行を取り巻く。
「降りるの?」
「乗せてくれないのかよ」
「沈めちゃおうか?」
「おいおい、勘弁してくれよ」
オルデンが苦笑いをすると、精霊たちは不満そうにざわめいた。中にはチカチカと点滅するものもいた。
「誰か、アルムヒートまで運んでくれない?」
ケニスが無邪気に頼む。
「火焔の御子の頼みじゃなあ」
「焔の御子と智慧の子がいるのか」
「契約精霊は自分でなんとかするだろ」
「精霊剣遣いが2人もいるね」
「運んでやるかぁ」
「引き受けてやるよ」
精霊たちは賑やかに話しながら、4人を海の上に運び出す。まずは風の精霊たちが皆を船から降ろした。ふわりと浮かぶ身体に戸惑って、ハッサンが目を白黒させた。
「おい、サダ、笑うな」
「サダ、笑ってんのか?」
サダの青白い光が波打っている。ケニスはおかしそうにサダの光を見た。するとヴォーラもケニスの背中で、白い光の波を見せた。
「ったく、いきなり身体が浮いたらびっくりもするわ」
「ハッサン、飛ぶの初めてか」
「ああ、ケニー。初めてだ」
「楽しいだろ」
「そうだな。楽だしな」
ケニーは人懐こく笑いかける。ハッサンは気さくに受け答えをした。
「念のため、目立たねぇ高さで頼まぁ」
オルデンが精霊たちに注文をつける。高いところを飛んで行けば、遠くからでも見つかってしまう。ノルデネリエには優秀な魔法使いがいるのだ。用心に越したことはない。
精霊たちは、オルデンの頼みを聞いてくれた。一行を海面付近に下ろして運んでゆく。しばらく海上を進むと、今度は海の精霊たちが一行を支えてアルムヒートの港へと向かってゆく。
カーラは人の姿ではあるが、自分のランタンを掲げて海の上を滑る。風に靡く茶色の巻き毛には、虹色の火の粉が髪飾りのように彩りを添えていた。
お読みくださりありがとうございます
続きます




