93 精霊使いのハッサン
取りつく島もなく拒絶するタリクに、カーラが火の粉を飛ばさんばかりに苛立った。
「カーラ、駄目だよ」
ケニスはヒソヒソ声でカーラを宥める。
「でも」
「仕方ないよ」
ケニスはぎゅっとカーラの手を握る。口をへの字に曲げながら、カーラは渋々気持ちを収める。
子供たちの様子を見ていた丸顔の護衛が、一歩前に進み出る。
「師匠、俺が引き受けます」
「何?」
丸顔のラヒムが剣術指南を申し出ると、船長が低い声を出した。しかしラヒムは人の良さそうな笑顔を浮かべて、話を続けた。
「船長、申し訳ねぇですが、アルムヒートに戻るまでの契約ですから、その先は師匠と相談しますぜ」
「戻ってからか。なら好きにしろ」
「言われなくても」
ラヒムは平然として船長との話を終わらせる。それから、改めて師匠タリクに話しかけた。
「師匠、良いですよね?」
「戻ってから考える」
タリクは冷たく突き放す。そこへ、ハッサンが口を出した。
「誰でもいいんなら、俺、ちょっと見てやるぜ?」
「そうだなあ。ハッサンなら精霊剣を扱えるしな」
ハッサンの提案に、沖風の精霊が同意した。
「ヴォーラも嬉しそうね?」
「ほんとだ。幸運、その子のこと、気に入ってるみたい」
「んん?ああ、幸運はそいつを友達だって言ってるな」
「サダって言うんだね」
「ああ。えっと、そっちの大陸じゃ何で言うのかな」
「大丈夫だ。精霊を通じて意味は解るから」
オルデンが力強く頷く。
「そういや、ずっと普通に喋ってたな」
「だろ?」
ハッサンが納得して、ヴォーラは白く光り、サダは青白く光る。
「その子も喋らないタイプなのねぇ」
「ははっ、気が合う筈だな」
「話が決まったんなら、すぐにでも船を降りてくれ」
船長は、勝手な行動をしたハッサンを船から下ろしたいのだ。
「師匠」
ハッサンは一応、師匠タリクの指示を仰ぐ。
「降りたきゃ降りろ」
「決まりだな」
船長が机の向こうへ戻って行く。話が済んだという合図だ。しかしハッサンは困った顔をした。
「お足は?いただけねぇんで?」
ハッサンとて精霊剣まで駆使して船を守ったのだ。ハッサンだけではどうにもならなかったとはいえ。
船を沈没から救ったのは、精霊の力が大きい。沖風の精霊が連れてきたケニスたちの元に、沢山の精霊がやって来た。その3人を慕って集まってくれたのである。
ケニスたちの一行は、確かにタリクを探しにきたのかもしれない。ハッサンのお陰で精霊が手伝ってくれたとは言えない。だが、ハッサンも船のために吹雪の中で働いたのである。それでなくとも、護衛として働いた分の契約もあるはずだ。
「図々しいな」
「そりゃねぇよ。タダ働きかよ?」
「勝手な行動は御法度だ。命があるだけ有り難く思え」
船長は冷酷に宣言し、タリクは表情を変えない。ラヒムは気の毒そうではあるが、口を挟んだところで聞いてもらえる筈もない。
お読みくださりありがとうございます
続きます




