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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第二章 森の外へ
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93 精霊使いのハッサン

 取りつく島もなく拒絶するタリクに、カーラが火の粉を飛ばさんばかりに苛立った。


「カーラ、駄目だよ」


 ケニスはヒソヒソ声でカーラを宥める。


「でも」

「仕方ないよ」


 ケニスはぎゅっとカーラの手を握る。口をへの字に曲げながら、カーラは渋々気持ちを収める。



 子供たちの様子を見ていた丸顔の護衛が、一歩前に進み出る。


「師匠、俺が引き受けます」

「何?」


 丸顔のラヒムが剣術指南を申し出ると、船長が低い声を出した。しかしラヒムは人の良さそうな笑顔を浮かべて、話を続けた。


「船長、申し訳ねぇですが、アルムヒートに戻るまでの契約ですから、その先は師匠と相談しますぜ」

「戻ってからか。なら好きにしろ」

「言われなくても」


 ラヒムは平然として船長との話を終わらせる。それから、改めて師匠タリクに話しかけた。


「師匠、良いですよね?」

「戻ってから考える」


 タリクは冷たく突き放す。そこへ、ハッサンが口を出した。


「誰でもいいんなら、俺、ちょっと見てやるぜ?」

「そうだなあ。ハッサンなら精霊剣を扱えるしな」


 ハッサンの提案に、沖風の精霊が同意した。


「ヴォーラも嬉しそうね?」

「ほんとだ。幸運(ヴォーラ)、その子のこと、気に入ってるみたい」

「んん?ああ、幸運(サダ)はそいつを友達だって言ってるな」

「サダって言うんだね」

「ああ。えっと、そっちの大陸じゃ何で言うのかな」

「大丈夫だ。精霊を通じて意味は解るから」


 オルデンが力強く頷く。


「そういや、ずっと普通に喋ってたな」

「だろ?」


 ハッサンが納得して、ヴォーラは白く光り、サダは青白く光る。


「その子も喋らないタイプなのねぇ」

「ははっ、気が合う筈だな」



「話が決まったんなら、すぐにでも船を降りてくれ」


 船長は、勝手な行動をしたハッサンを船から下ろしたいのだ。


「師匠」


 ハッサンは一応、師匠タリクの指示を仰ぐ。


「降りたきゃ降りろ」

「決まりだな」


 船長が机の向こうへ戻って行く。話が済んだという合図だ。しかしハッサンは困った顔をした。


「お足は?いただけねぇんで?」


 ハッサンとて精霊剣まで駆使して船を守ったのだ。ハッサンだけではどうにもならなかったとはいえ。


 船を沈没から救ったのは、精霊の力が大きい。沖風の精霊が連れてきたケニスたちの元に、沢山の精霊がやって来た。その3人を慕って集まってくれたのである。


 ケニスたちの一行は、確かにタリクを探しにきたのかもしれない。ハッサンのお陰で精霊が手伝ってくれたとは言えない。だが、ハッサンも船のために吹雪の中で働いたのである。それでなくとも、護衛として働いた分の契約もあるはずだ。


「図々しいな」

「そりゃねぇよ。タダ働きかよ?」

「勝手な行動は御法度だ。命があるだけ有り難く思え」


 船長は冷酷に宣言し、タリクは表情を変えない。ラヒムは気の毒そうではあるが、口を挟んだところで聞いてもらえる筈もない。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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