9 デロンの籠
ケニスの手を引いてオルデンが入って行くと、扉の内側も虹色の光で満たされている。
「契約精霊には作った人がいるの?」
「違ぇよ。別の精霊にお願いして欲しいタイプの精霊を生み出して貰うのさ」
「ええっ、そんなこと出来んの?」
ケニスはびっくりして立ち止まる。小さな虹色の眼がケニスをじっと見上げてくる。
「特別な道具があんだよ。古代精霊文化の中で、それを作った奴は1人しかいねぇ」
「道具?」
ケニスは幼いながらも不穏な気配を感じ取って、緑色の細い眉を寄せる。カワナミは珍しく真顔になった。
「デロンの籠って言われててなあ」
オルデンも立ち止まって簡単な説明をする。
「籠つっても、色んな形してんだがな。とにかく、大昔にデロンて野郎が作った道具だ」
「籠?精霊を閉じ込めちゃうの?」
ケニスは怖そうにオルデンの手を握りしめる。
「頼まれた精霊が力を分けるんだ。そうだなあ。確かに、道具の中に精霊の力を閉じ込めるってことだな」
「力か」
ケニスがほっとするが、カワナミは激しく首を横に振る。
「違う!魔法の道具で無理やり精霊の姿にするんだ」
「えっ、無理やり?」
「道具の中でだけ姿を保てる精霊が生まれんだよ」
「あんなの、生まれるなんて言わないっ!」
カワナミが怒って周囲の水を波立たせる。
オルデンは苦笑いだ。
「精霊の力と道具に込められた魔法とが混ざって出来た存在だからなあ。生まれたでいいんじゃねえの?」
「つらいことなの?」
ケニスはカワナミを気遣う。
「カワナミは見たことねえだろ」
「無いけど解るよっ」
「俺は、時の精霊に観せて貰ったぜ」
「あっ、オルデンずるーい」
オルデンはカワナミを宥めるように見遣ると、ケニスの肩を優しく叩く。
「契約だからな。精霊のほうも力を分ける代わりに何かしらしてもらうのさ」
「ねえ、契約ってなんなの?」
「大事な約束のことだ。力を分けた精霊はだいたい、大したこと要求しないけどな」
カワナミは不満そうに泡を立てている。ケニスは無邪気に質問した。
「例えばどんなこと?」
「好きな歌を歌って貰うとか、うまいもん貰うとか、服からボタンを貰うとか、そんなんだ」
「ふうん」
ケニスは考え込みながら言葉を継ぐ。
「道具が壊れたらどうなっちゃうの?」
「だいたいは力を分けた精霊に戻るな」
ケニスはやっと安心してにっこりした。
「道具を直したらまた出てくる?」
「そうなんだが、道具はデロンにしか直せねえ」
「デロン、大昔のひとなんでしょ?」
「ああ。道具もだんだん壊れて無くなった」
ケニスはまたがっかりする。
「今は直せる人いないんだね」
「まあな。だから契約精霊も消えちまってる。まさかまだ残ってたとはな」
お読みくださりありがとうございます
続きます




