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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第二章 森の外へ
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82 オルデンと燃える煌塩

 オルデンの持つ「智慧」の力が、金色の光となって溢れ出る。仲間の精霊たちが一斉に姿を消したり離れたりした後、オルデンはニヤリと笑った。


「何だ?」

「息が」

「生意気な」


 弱い魔法使いから順に、追手がバタバタと倒れてゆく。追手の一団は、驚きと怒りに目を白黒させながら剥き出しの岩場に膝や肩を付く。


「オルデン、えげつねぇ」


 いつのまにか、カガリビが火の精霊仲間を引き連れて浮かんでいた。オルデンの周りには、風で巻き上げた煌塩が漂っている。宙に浮かぶ塩を取り巻く赤い光は、塩のもつ性質だけではなさそうだ。


「火か」

「塩の囲いが」

「姑息な」

「眼が」

「息が」


 オルデンは、巻き上げた塩と岩のかけらで追手を囲う。不思議な塩は火種となって燃えている。普通の塩では起こり得ない現象だ。オルデンの魔法は桁外れに強く、追手たちは打ち消すことができずにいた。そのまま、燃え盛る煌塩の囲いの中で酸欠を起こして気を失う。



 意識のない邪法使いや魔法使いたちから、オルデンは精霊文字が刻まれた輝石を奪い、砕いてゆく。邪法使いの持ち物からは予備の石まで出てきたので、仲間の精霊たちも砕くのを手伝った。邪法のせいで遣い手を庇っていた精霊たちは、弱りながらも正気を取り戻した。


「全部壊したか?」

「うん!もう大丈夫」

「世話になったな、智慧の子よ」

「ありがとう」


 精霊たちは、嬉しそうにオルデンを取り巻いた。オルデンは、倒れている追手を顎で指す。


「地底湖の、コイツら森の外に送っといてくれるか?」

「お安い御用だ、オルデン。記憶も消しておこう」

「助かるぜ」


 地底湖の精霊は、厳かに頷く。カガリビが目を丸くした。


「地底湖のジィさん、そんなこと出来んのか」

「ジィさんとな?カガリビよりは若い」

「へぇ?ジャイルズは知ってるだろ?」

「いや、噂だけだ」

「あ、そんで名前貰ってねぇのか」


 カガリビは得心して燃える手をとんと打った。



 追手は龍の寝床から風と水で吹き飛ばされる。外に出されると、吹雪に巻き上げられて森の外へと運ばれていった。辛うじて息があり、そのうち目覚めて動き出すだろうと思われた。


「凍える前には気がつくだろう」


 地底湖の精霊は言った。オルデンは苦い顔でため息をつく。


「邪法も忘れて心を入れ替えるといいんだが」

「さてなぁ。性根の良い奴は、最初から邪法なんかに手を出すかねぇ」

「ここでの記憶が無くなるだけじゃ、何にも変わんねぇな」

「ま、その場しのぎではあるな」

「また来たらどうすんだよ」

「吹雪に埋めても良かろうなあ」

「厳しいねぇ」

「殺しに来てるのだからな。諦めないなら、仕方ない」


 地底湖の精霊は、こともなげに告げる。オルデンはぶるりと身体を震わせた。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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