82 オルデンと燃える煌塩
オルデンの持つ「智慧」の力が、金色の光となって溢れ出る。仲間の精霊たちが一斉に姿を消したり離れたりした後、オルデンはニヤリと笑った。
「何だ?」
「息が」
「生意気な」
弱い魔法使いから順に、追手がバタバタと倒れてゆく。追手の一団は、驚きと怒りに目を白黒させながら剥き出しの岩場に膝や肩を付く。
「オルデン、えげつねぇ」
いつのまにか、カガリビが火の精霊仲間を引き連れて浮かんでいた。オルデンの周りには、風で巻き上げた煌塩が漂っている。宙に浮かぶ塩を取り巻く赤い光は、塩のもつ性質だけではなさそうだ。
「火か」
「塩の囲いが」
「姑息な」
「眼が」
「息が」
オルデンは、巻き上げた塩と岩のかけらで追手を囲う。不思議な塩は火種となって燃えている。普通の塩では起こり得ない現象だ。オルデンの魔法は桁外れに強く、追手たちは打ち消すことができずにいた。そのまま、燃え盛る煌塩の囲いの中で酸欠を起こして気を失う。
意識のない邪法使いや魔法使いたちから、オルデンは精霊文字が刻まれた輝石を奪い、砕いてゆく。邪法使いの持ち物からは予備の石まで出てきたので、仲間の精霊たちも砕くのを手伝った。邪法のせいで遣い手を庇っていた精霊たちは、弱りながらも正気を取り戻した。
「全部壊したか?」
「うん!もう大丈夫」
「世話になったな、智慧の子よ」
「ありがとう」
精霊たちは、嬉しそうにオルデンを取り巻いた。オルデンは、倒れている追手を顎で指す。
「地底湖の、コイツら森の外に送っといてくれるか?」
「お安い御用だ、オルデン。記憶も消しておこう」
「助かるぜ」
地底湖の精霊は、厳かに頷く。カガリビが目を丸くした。
「地底湖のジィさん、そんなこと出来んのか」
「ジィさんとな?カガリビよりは若い」
「へぇ?ジャイルズは知ってるだろ?」
「いや、噂だけだ」
「あ、そんで名前貰ってねぇのか」
カガリビは得心して燃える手をとんと打った。
追手は龍の寝床から風と水で吹き飛ばされる。外に出されると、吹雪に巻き上げられて森の外へと運ばれていった。辛うじて息があり、そのうち目覚めて動き出すだろうと思われた。
「凍える前には気がつくだろう」
地底湖の精霊は言った。オルデンは苦い顔でため息をつく。
「邪法も忘れて心を入れ替えるといいんだが」
「さてなぁ。性根の良い奴は、最初から邪法なんかに手を出すかねぇ」
「ここでの記憶が無くなるだけじゃ、何にも変わんねぇな」
「ま、その場しのぎではあるな」
「また来たらどうすんだよ」
「吹雪に埋めても良かろうなあ」
「厳しいねぇ」
「殺しに来てるのだからな。諦めないなら、仕方ない」
地底湖の精霊は、こともなげに告げる。オルデンはぶるりと身体を震わせた。
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