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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第二章 森の外へ
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81 オルデンと追手

 オルデンは風を纏ってパロルの寝床だったところに駆けつける。無惨に引き千切られ砕かれた木や岩を跨ぎ越え、仄暗い洞窟を突き進む。吹雪が中に吹き込んで、足元にはうっすらと雪が積もっていた。


「やつら、地底湖まで降りてる」


 カワナミが心配そうにオルデンを急きたてる。いつものゲラゲラ笑いは消えていた。オルデンは、ほら穴の奥から聞こえて来る罵声や破壊の音に顔色を失う。


「子供たちの声がしねぇ」

「もう逃げたんだよ!」


 カワナミは、周囲の水を集めて状況を探る。


「海まで行ってる」

「追手は食い止めてんのか?」

「うん!まだ1人も地底湖に入らせてないよ!」



 オルデンは岩棚のある空間を真っ直ぐに突っ切る。最短距離を選んで地底湖まで到着した。



「王兄か?」

「こりゃ収穫だな!」

「ああ、双子の兄が二代とも仕留められるぜ」


 邪法使いどもは、精霊を引き連れたオルデンを見て、かつて仕留め損ねた子供であることに気がついた。彼らは邪悪だが優秀な魔法使いであり、精霊を見ることも出来るようだ。


 オルデンは顔を顰める。


「ああくそ、面倒な」

「ノルデネリエの魔法使い達だね」

「間違ぇねぇ」


 邪法使いの中には、たいして精霊が見えない者もいる。今回の追手には、まるで見えない魔法使いも同行しているようだ。何人か、精霊が見えていない動きをしている。見えない者たちは、精霊の力を閉じ込めた輝く石を身につけているだけである。


「しつこいよね」

「ご苦労なこった」

「勘違いなのにね」

「人違いで何十年もつけ狙うとはよ」



 輝石(きせき)と呼ばれる輝く石は、世界中で発見される。中でも、ケニスの祖先であるジャイルズが牛や羊と取り替えるために使った輝石は、透明で色合いも美しい。精霊はこれを大変に好む。


 邪法使いたちは、砂漠の善良な職人が精霊の助けを呼ぶために作った道具を悪用している。本来は、刻んだ精霊文字の種類によって火や水などの精霊が呼べる日常道具だ。

 ところが、砂漠の魔女と呼ばれる邪悪な魔法使いが、呼び寄せた精霊に名前をつけて縛り付けた。ノルデネリエには、その邪法が今も伝えられているのだ。


「邪法使いめ!」

「カワナミ!みんなを連れて隠れろ」

「嫌だよ!オルデンはやくケニーたちの所へ行って!」

「ばか、みんな捕まるだろ」

「捕まるもんか!」


 精霊を呼びやすい輝石に、精霊の性質を表す古代精霊文字を刻みつける。引き寄せられた精霊に名前をつけて縛る。そして、おびき寄せる為に使った輝石を通して、精霊の力を吸い出す。これを使えば、才能に乏しく精霊が見えない魔法使いでも、強い魔法を繰り出せるのだ。ノルデネリエで古代精霊文字を学ぶのは、王族だけである。血の薄い傍系でも簡単な文字は習うので、邪法の集団にたいてい1人は同行している。


「みろよ!捕まった奴もいるだろ」

「みんなは助けるから!早く行って」

「カワナミ、下がれ」

「えっ、何する気?」


 オルデンの体から、金色の光がゆらゆらと立ち昇る。カワナミは慌ててそばを離れて、洞窟の天井へと逃れた。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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