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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第二章 森の外へ
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80 地底湖に飛び込む

 吹雪の中、西の山を登ってくる魔法使いの気配がした。ケニスとカーラは、ひとまず賢い龍が住んでいたほら穴に隠れることにした。


「精霊を縛ってるわね」

「間違いねぇ、苦しんでる」

「ノルデネリエかしら」

「多分そうだな」


 2人の目の前で、パロルの寝床を覆い隠すように生えた木のや枯れた羊歯が道を開ける。


「早く」

「さあ中へ」

「逃げなさい、邪法使いどもだ」


 岩屋の精霊や、木の根や木々の精霊たちがこぞって声をかけてくる。


「助かるわ」

「ありがとう」

「あなたちちも、捕まらないようにね」

「うむ、隠れるとしよう」

「大丈夫、安心して」


 子供たちは、精霊の心配をしながら龍の寝床へと駆け込む。背後で木の根や枝が再び入り口を隠した。ほら穴の中は暗くなる。


「魔法の光はやめとこう」

「そうね。邪法使いに気付かれちゃう」


 ケニスはポケットから赤く光る塩を取り出す。時々地底湖に降りては、小さな皮袋に詰めて貰ってくるのだ。この煌塩(こうえん)は、ケニスのお気に入りである。スパイスの少ない森で、味も見た目も楽しめる優れものなのだった。



 ふたりは煌塩の赤い光を頼りに、地底湖まで降りてゆく。


「ねえ、近付いてるわ?」

「うん、真っ直ぐここに向かってる」

「どうしよう」


 細い岩棚に差し掛かると、外の気配に魔法が強くなった。カワナミが現れてゲラゲラと笑う。


「わあっ、あいつら、吹雪なのにこんなとこ来て、入り口を燃やしたり切ったりしてるよ」

「入って来ちゃうわ!」

「大人たちの足なら、すぐ追いつかれちまうな」


 ケニスとカーラは焦る。


「とにかく地底湖まで行くしかないわね」

「他に隠れるとこもねぇし」


 岩棚を走り渡り、天井の低い通路を駆け抜けて、2人は煌塩が光る地底湖に辿り着く。



「飛び込め。海まで連れて行ってやろう」


 ザバリと出てきた地底湖の精霊が、子供たちを促す。カワナミはくるりと渦巻くと姿を消しながら叫んだ。


「オルデンに知らせとく!」

「ありがとう!」

「頼んだわよ」


 ふたりは地底湖の精霊に従い、磨りガラスのような湖に迷わず飛び込んだ。水音が広い空間にこだまする。邪法使いどもの足音が響く。水の中では精霊が子供たちを守り、冷たさを感じさせない。



 赤い光はやがて届かなくなり、子供たちは暗がりの水中を精霊に運ばれてゆく。地底湖の付近では、ほら穴の精霊たちが邪法使いに攻撃をしている。湖に近づけまいと風を起こし、塩を投げつけ、水を飛ばす。

 幾人かの精霊は囚われてしまい、また幾人かは激しく抵抗していた。


 遠くオルデンたちの寝ぐらでは、カワナミが急を知らせていた。オルデンは魔法を解禁して、寝ぐらの洞窟を飛び出した。吹雪を風で切り裂きながら、オルデンはパロルの棲家だったほら穴へと急ぐ。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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