8 遺跡の地下へ
オルデンが自分の眼だと言われた水の灯りは、夜明けのような紫色だった。ケニスは大好きなオルデンの眼を思い浮かべてこの色に変えたのである。しかしオルデンは、下唇をちょっと突き出しておどけてみせる。
「手前ぇの目ん玉がこっち見てるって、考えてもみねぇ」
ケニスは一瞬ギョッとして目を見開いたが、すぐに面白そうに笑い出した。
「アハハ!じぶんの目玉だけ浮かんで見てくるの、嫌だねえー!」
「ケニーのなら虹色だな!」
ニヤッと笑うとオルデンは水を人差し指でかき混ぜる。たちまち水は赤ん坊の拳くらいの球になり、虹色に輝き出した。
「ほれっ」
オルデンは虹色の水球を人差し指で突く。球は水を分けてケニスの顔の前で止まった。
「アハハ!ケニーの目ん玉だーっ」
ケニスが喜んで笑うと、カワナミもゲラゲラと笑い転げて泡を立てた。
「ほれほれっ」
オルデンは水の灯りを操ってケニスを追いかけ回す。ケニスは暗い水の中をあちらこちらと駆け回る。足はまだ床につかない。魔法で息も出来るし、地上のように動き回れる。だが、吐く息だけはブクブクと泡を作って上がってゆく。
「あっ、扉があるよ」
床の無い空間で駆け回っていたケニスが扉を見つけた。扉は木でできているのに水の中でも腐らない。何か魔法がかかっているのだろう。
「開けていい?」
「ちゃんと確認しろ」
「あ、そうだった!」
ケニスはオルデンに注意されて、扉に小さな手をかざす。眼を瞑ると額の古代精霊文字が淡く光った。火焔を意味する文字にふさわしく暖かそうなオレンジ色の光が暗い水に広がってゆく。光は次第に濃さを増して赤に近づく。
「あっ、誰か精霊が起きた」
しばらく扉の内側を探っていたケニスが、ぱちんと眼を開く。
「そりゃ、火焔の御子が来たら精霊は起きるよ!」
けたたましく笑うカワナミに不服そうな眼を向けて、ケニスは扉の取手に手をかけた。扉と同じようにシンプルな作りの金属製の取っ手だ。勿論、錆びてはいない。
外側に向かって開く扉を引くと、遺跡の地下いっぱいに虹色の光が溢れ出す。その光を受けて、ケニスだけではなくオルデンの瞳までもが虹色に輝いた。
「こりゃあたまげた」
オルデンは驚嘆の吐息を漏らす。
「契約精霊かよ」
「子供みたいだね?」
カワナミも好奇心を顕にする。
「なんだ、カワナミも知らなかったのか?」
「知らなーい」
「契約精霊ってなに?」
ケニスが訊いて、オルデンが答える。
「大昔にな、特別な契約で人間が精霊に生み出してもらった特殊な精霊なんだ」
いちいち笑い転げるカワナミをそのままにして、オルデンはケニスの手を握る。2人は警戒しながら扉の向こうへと足を踏み入れた。
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