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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第二章 森の外へ
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79 雪の舞う頃

 ケニスとカーラの2人は、今日も西の山に登っていた。山頂での訓練を続けながら、師匠候補のタリクと会える日を楽しみにしている。沖に住む風の精霊は、時折やってきて海の噂を落としてゆく。


「ようガキども。今日も跳ねてんのか」

「訓練だ」

「そうよ、ただ跳ねてるんじゃないのよ」

「どれ、手伝ってやる」


 大ぶりなカラスに似た灰色の精霊は、羽ばたいて風を起こす。嘴はずんぐりと太く、尾羽の一部はとても長く垂れている。この長い尾羽をくるくると回すと、風の中で鞭のように襲ってくるのだ。


「こんなの、簡単だ」

「わけないわ」


 2人は軽々と尾羽を避ける。風の精霊が巻き起こす突風をものともせずに、飛んでくる小枝や石も避けたり弾いたりしている。ケニスはヴォーラを振り回し、カーラは離れてマントを翻す。古びた毛織りのマントだが、砂や小石程度なら充分に防げるのだ。



「2人とも動きが良くなってるな」

「毎日訓練してるもの。当然よ」

「それだけ動けりゃ、剣の訓練にもついてけるだろうな」

「タリクにはまだ会えないの?」

「今マーレニカに向かってる船に乗ってるぜ」


 それを聞いて、ケニスとカーラは嬉しそうに顔を見合わせた。


「ほんとっ?」

「会えるのか!」

「明日にはマーレニカの港に着くだろ」

「それじゃ、あの船かな?」


 山頂から見える海の上に、近づく船影がある。やや小型の帆船だ。灰色の空の下、北風を巧みに受けて波の上を滑ってくる。


「そうだ。あれに乗ってる」

「オルデンに頼んで、明日までにマーレニカの港に降りなきゃ!」

「早く帰りましょ」

「うん」

「そうしな」

「ありがと、鳥」

「鳥、またね!」

「アルムヒートのタリクを探すんだぞ」


 鳥の姿をした精霊は、言い残して沖へと去ってゆく。



「なんだ、紹介してくれるんじゃないのかよ」


 ケニスは口をへの字に曲げる。


「あの鳥、ほんと相変わらずよね」


 カーラも不満そうに口を尖らせる。見送る空に、何か小さなものがちらつき始めた。


「冷たい」

「雪だ」

「風が出てるし、吹雪になるかしら」

「吹雪く前に帰ろう」

「そうね」


 子供たちは手を繋ぐと、足早に山頂を後にした。



 魔法を使わず、精霊たちの助けも借りずに、子供たちはスイスイ山路を降る。雪はあっという間に激しく降り出し、風の音がおどろに鳴った。太い枝がまるで小枝のようにやすやすと、風に振り回されている。


「思ったより早かったわね」

「口開けないほうがいいぜ」


 吹雪は2人の視界を奪い、口を開けば砂粒と雪片が刺さる。粗末なフードを片手で押さえながら、2人は風に逆らって山腹に差し掛かる。


「ケニー」

「ああ、来るな」


 カーラは吹雪の向こうに魔法の気配を感じた。ケニスは眉根を寄せてカーラの手を引く。


「パロルの寝床に避難しよう」


お読みくださりありがとうございます

続きます

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― 新着の感想 ―
[良い点] 5年も経過したんですね。 ケニー、男っぽくなりましたね! [一言] カーラも10歳の外見になってるんですよね。 あとオルデンはいま何歳くらい? 私の中ではイケオジなんですが。
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