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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第二章 森の外へ
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77 師匠の候補

 いきなり失礼な態度を取った風の精霊にケニスが抗議すると、カーラも眼を吊り上げて同意した。


「ほんとよね。あんた、なんなの?」

「マーレン大洋の沖に住む風の精霊だ」

「ふうん?で、結局何しに来たのよ」

「煩ぇガキだな」

「嫌な鳥だな!」


 ケニスはカーラの手を強く握りなおして叫ぶ。


「お前ぇら、いい加減にしろ」


 オルデンが疲れた声を出す。


「鳥も何でそんなに突っかかんだよ?」

「こいつら、龍の寝床から宝を持ち出したろ」

「宝?」

「とぼけんな。ポケットが光ってる」



 ケニスのポケットからは赤い光が漏れ出していた。地底湖のそばから持ってきた煌塩(こうえん)だ。地底湖を離れて外に出て来ても、やはり赤々と輝いている。


「地底湖の精霊が持ってっていいって言った!」

「そうよ。ちゃんと聞いてから持って来たんだから」

「オルデン、ホントか?」

「なによ、信じないの?」

「いいよ。お前なんかに信じて貰わなくても」

「ああ、こらこら。お前ら落ち着け。鳥もちゃんと話聞け」


 オルデンは苦笑する。



「確かに地底湖で精霊に聞いてから持ってきた塩だぜ」


 いきりたつ両者を交互に見ながら、オルデンは落ち着いた声で話す。実際には、地底湖の精霊は何も言わなかっただけなのだが。少なくとも持ち出すことを止めようとはしなかった。


「何だ、そうなのか」

「そうだ!謝れ」

「ちゃんと謝ってよ」


 子供たちに詰め寄られて、風の精霊はとうとう頭を下げた。


「すまねぇ。俺っちが悪かったぜ」

「分かればいいんだ」


 ケニスは、オルデンに怒られて謝った時の真似をする。カーラもケニスの言葉を繰り返す。


「分かればいいのよ」


 大人びて謝罪を受け入れる子供たちに、オルデンは眼を三日月に細めて口元を緩めた。



「こら、若僧。(わらべ)どもになんぞしてやれ」

「ジジイ関係ねぇだろ」

「わしゃ関係ないが、盗人扱いしたんだから、ちゃんと詫びんなることをせい」

「ちっ、一々煩ぇなあ」


 鳥の姿をした精霊はブルリと身を震わせて小羽を飛ばす。


「そんで?なんかして欲しいこたぁあるのかよ?」


 子供たちはオルデンを見上げる。オルデンは2人の頭を順に軽く撫でてから、風の精霊に向き直る。


「そうだ、鳥ならいろんな奴知ってんよな」

「いろんな奴?」

「ここにいるケニーに剣を教えて欲しいんだ。いい師匠はいねぇか?」

「ウーン、そりゃ良さそうな奴はいるけどよぉ」

「どんな奴だ?」


 オルデンは身を乗り出す。


扉を叩く者(タリク)ってんだが」

「何か問題があんのか?」

「今海の上だぜ」

「へえ?こっち向かってんのか?」

「いや、アルムヒート港に戻るとこだ」


 アルムヒートは海の向こうにある貿易港だ。


「そんじゃどうしようもねぇな」


 オルデンはがっかりする。


「そのひと、もうこっちには来ないのかしら?」

「さあな。貿易船の護衛だから、そのうちまた来るかもな」


 鳥の言葉にカーラは期待を込めてオルデンに訊ねる。


「ケニーがヴォーラを持てるようになる頃には、またこっちに来るんじゃない?」

「何にせよ、ヴォーラ持てるようになんなきゃな」


 オルデンは優しく笑い、ケニスは真面目な顔で頷いた。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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