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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第二章 森の外へ
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75 パロルの寝床を出る

 オルデンは地底湖の精霊に、カガリビから聞いた話をかいつまんで話した。


「ギィの野郎が血筋の子供達を器にしてやがったのは知ってるか?」

「1人残らず予備にしているらしいな」


 地底湖の精霊は眉を寄せ、オルデンは苦い顔で頷く。


「器に精霊を縛る道具に使う精霊文字は、直系全員の額に直接刻まれてんだ」

「それが器を壊せない理由だと聞いている」

「そうだ。普通に精霊文字を消すなら額を抉るしかねぇ」


 オルデンは忌々しそうに口を曲げる。


「そうでなければ、ギィと砂漠の魔女が何処かに隠した心臓を焼くしかないそうだが」

「魔女のは砂漠のどこかに、ギィのは乗り移られた器の精霊文字そのものに移動してくんじゃねぇかと思ってる」


 地底湖の精霊は全身を波打たせて憐憫を表した。オルデンは続ける。


「ヴォーラが持つ幸運の力なら、邪法だけ切り捨てて器の身体と魂は助かんだろうと踏んでんだ」

「やはり、ヴォーラを扱えるようになる事が、大きな助けになるのだな」


 オルデンは深く頷いて、


「ヴォーラだけが邪法を破れる希望ってわけさ」


 と締めくくる。



 地底湖の精霊とヴォーラの力について同意すると、オルデンはひとつため息をつく。


「カガリビに聞いた以上のことはわかんねぇか」

「すまない」

「邪魔したな」

「怪我をしたら来るといいぞ」

「悪ぃな」

「ありがとう」

「また来るわね!」


 ケニスのポケットには煌塩(こうえん)、子供2人の革袋水筒には地底湖の不思議な水が入っている。入り口に戻る3人の背中を見送り、地底湖の精霊は人の姿を崩して水に戻った。



 賢い龍パロルの寝床から外に出ると、3人は眩しさに思わず眼を瞑った。ぎらつく午後の陽が、大樹の枝間から溢れてくる。地底湖よりは乾いた空気が熱を含んで3人を襲う。


「熱いねぇ!デン」

「熱いな」

「カーラ大丈夫?」


 ケニスは片手を自分の眼の上に翳し、もう片方の手でカーラの眼に影を作った。小さくてむっちりとした子供らしい掌を指いっぱいに広げて、刺すような太陽を防ごうとする。


「ありがとう。優しいのね、ケニー」

「そんなことない」


 カーラがはにかんで茶色に変えたまつ毛を上げ下げする。ケニスは白い歯を剥き出しにして野生的に笑った。泥棒オルデンに育てられた子供である。顔立ちはイーリスの遠い血を受けて美しいが、野育ちの荒さを持っている。



 目が慣れるまでパロルの寝床の入り口に立っていると、頭上ではバサバサと羽音がした。見上げると、大きな灰色の鳥が3人に向かって降りてくる。鳥は嘴がずんぐりと太く、カラスに似ているが尾羽の一部が細長く垂れている。


「あの目、なんだか恐ろしいのね」

「真っ青だよ」


 子供たちは恐ろしそうに身を寄せ合う。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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