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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第二章 森の外へ
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74 地底湖の水

 地底湖の水は、万全の体調である3人には何の効果も与えなかった。近くにいて元気になるような感覚もない。


「傷が消えるですって?」

「湖に浸かるとすぐに治っちゃうの?」

「見る間に傷は綺麗に消える」

「はぁ、そいつぁたまげた」

「若返りはできないが、病も治るぞ」


 地底湖の精霊は、3人に飛沫を飛ばす。3人とも傷や疲れがなかったので、磨りガラスのような水滴がついただけだった。キョトンとしている3人をみて、地底湖の精霊は少しがっかりした様子を見せる。


「なんだ、疲れてもいないのか」

「あ、いや、なんか悪ぃな」


 オルデンは申し訳なさそうに、ツルツルの頭を撫でる。



「この水、少し貰ってもいい?」


 ケニスは空の水筒を取り出しながら聞いた。皮袋の口に木の栓を嵌め紐で縛っただけの物だ。ケニスはふたつ持ってきていた。片方にはまだ水がたっぷりと残っている。


「好きなだけ持ってゆけ」

「ありがとう!」

「大海原から来る水だ。遠慮することはない」


 カーラは怪しまれない練習のために少し飲んだだけだったので、水筒はふたつとも水が入っていた。オルデンは、予備に持っていた空の水筒を地底湖の水で満たす。



 水筒に水を入れると、オルデンは改めて地底湖の精霊を見た。


「なあ、チビに剣教えられる奴、いねぇかな」


 地底湖の精霊は、ケニスをじっと見つめる。


「この坊やに?」

「ああ、そうだ」

「小柄だな?」

「そうか?」


 オルデンは魔法と精霊で事足りるので、剣は知らない。魔法も精霊の助けも、生まれた時からの付き合いだ。剣を習うのは、水汲みを習うのとたいして変わらないと思っていた。体格や才能などが関わって来るとは、夢にも思わなかった。



 地底湖の精霊は、じっくりとケニスを観察する。3人は固唾を飲んでその様子を見守った。やがて、大柄な水の精霊がゆっくりと口を開く。


「イーリスの末なら、ヴォーラの遣い手だな?」

「うん!」

「そうなんだが、まだ持てなくてよ」

「精霊の血を引く魔法使いなら、持たなくても操れるだろうに」


 地底湖の精霊は不思議そうに言った。


「魔法を使わずに練習させてぇんだよ」

「魔法を使うと、オーゾクに見つかっちゃうんだ!」

「それは厄介だな」

「これから邪法を解く方法を探すために森を離れるんだが、せめて剣を持たせたくてな」


 オルデンの親心に、地底湖の精霊は深く頷く。


「邪法を解く決め手となるやも知れぬなあ」

「ヤモシって何?」


 ケニスが無邪気に聞く。大きな精霊とオルデンは穏やかに笑い、カワナミはゲラゲラと笑い声を響かせた。細切れの知識をパロルやイーリスから引き継いだカーラは、お姉さんぶって胸を反らす。


「あらケニーったら、知らないの?かも知れない、ってことよ!」

「ふうん、カーラはすごいね!さすがノルデネリエの導き手だぜ」


 手放しで褒めて両手を握るケニスに、カーラは頬を染めて喜んだ。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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