73 地底湖の秘密
カーラは、地底湖の精霊がデロンを知っていると言うだけで嬉しそうだ。
「ランタンの子が役割を果たす時が来たのだな」
地底湖の精霊は得心してゆっくりと瞬きをした。カーラは警戒心を覗かせながら、青緑色の精霊を見上げる。
「あたしのこと知ってるのね」
「知っている」
カワナミがお腹を抱えて笑う。
「アハハハハハ!水の精霊ならみんなあの遺跡を知ってるからね!」
「カワナミはカーラを知らなかったろ?」
オルデンが呆れる。
「そうだけどさぁ」
カワナミは悪びれずに笑ったままだ。地底湖の精霊はちっとも気にせず、カーラを見つめる。
「邪法を破る方法も知ってる?」
カーラは期待を込めて背の高い精霊を見る。ケニスとオルデンも注目した。
「邪法の遣い手が隠した心臓を燃やすのだ」
「心臓はどこにあるのかしら」
地底湖の精霊は首を横に振った。
「残念ながら、それは知らない」
3人は落胆して肩を落とす。地底湖の精霊は、言葉を継ぐ。
「邪法の媒体を壊すか、邪法の遣い手が死ぬか、邪法に使う精霊文字を消すか」
「それはカガリビからも聞いた」
「では、新しいことは何も無いな」
「そうみたいね」
カーラは改めて地底湖を見た。水は相変わらず波も立たずに、磨硝子のように不透明だ。煌塩が注ぐ金赤に彩られながら、神秘的な青緑色を湛えている。
「この水の先に海があるのね」
「そうだ。海と繋がってる」
「その向こうからデロンは来たのね」
「そうだな。海の向こうから来た」
カーラの瞳に憧れが兆す。
「行ってみたいわ」
「どんな所だろうねぇ」
「デロンはずっと旅をしていたそうだ。生まれたところは知らない」
「へえ、ガキん頃から旅暮らしか?」
オルデンは急に親近感を覚えたようだ。
「デロンはここに来たの?」
「一度来た」
地底湖の精霊は、懐かしそうに眼を細めた。
「怪我をしてな。狼に噛まれてイーリスが運んできた」
「ええっ、大丈夫だったの?」
ケニスが思わず背伸びして地底湖の精霊と眼を合わせる。
「イーリスが駆けつけて腕だけで済んだ」
「噛まれて死んだわけじゃないのね」
カーラもほっとする。
「噛まれて死んだんじゃない。その後もしばらく生きてた。死んだ時は歳だったんだ」
デロンは寿命が来て静かに死んだと言う。
「この近くで噛まれたの?」
ケニスが訊く。
「いや、麓の森で噛まれたらしい」
「デロンが居た洞窟よりも、噛まれた場所からはここの方が近かったのかしら」
「それは分からない」
「逃げ込むなら近い方がいいでしょ?」
カーラは納得出来ずに質問を続ける。
「ここの湖に浸かれば、傷は消えてしまうからな。傷ついたから連れて来たのだろう」
地底湖の精霊は、水に宿る傷を癒す力が周知のことであるかのように言った。3人は驚いて湖に目をやった。見てもわからない。美しくはあるが、見た目は普通の水だ。
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