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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第二章 森の外へ
71/311

71 金赤に光る塩

 笑い納めたカワナミは、鼻高々で3人に告げる。


煌塩(こうえん)の結晶だよ」

「こうえん?」

「なんだ、その煌塩ってなぁ?」

「聞いたことないわね」

「この湖、海に繋がってるんだ。舐めてみて?」


 3人は恐る恐る水面に指を触れる。オルデンはまず匂いを嗅ぐ。子供たちも真似をする。それから舌先で水滴に触れて味を確認した。


「しょっべぇな」

「塩だ!」

「オルデンが時々持ってくるやつね」


 ケニスは目を輝かせる。塩は、旅人が通らないと手に入らない貴重品だ。子供が寝ているうちに、オルデンがくすねて来るのである。



「いつものより美味しい」

「そうだな。甘味がある」

「なんだかいい香りもするわね」

「色んなものが混ざってるんだ」


 カワナミはまた得意そうに説明をした。


「どんなのが混ざってるの?」

「私も知りたいわ」

「海から来た水に、ここの岩に最初からある元気になる元と、竜の血や骨から溶け出した力が混ざってるんだ」

「凄いねぇ」


 ケニスは理解していないが、感心した。カワナミは愉快そうにゲラゲラ笑う。


「凄いよね!」

「この水と壁のキラキラは色が違うけど?」

「竜の血の色じゃない?」


 カーラの疑問に、カワナミは適当なことを言う。


「湖は赤くないのに?」


 ケニスが疑わしそうに眼を細める。



 その時、青緑色でやや不透明な地底湖から水飛沫が上がった。


「わっ」

「冷たいわね!」


 びっしょりではないが、3人は水を被ってしまう。カワナミが喜んで笑い、ケニスとカーラも楽しそうに声を上げた。オルデンは顔と頭をつるりと撫でて水滴を拭う。


 飛沫はしばらく金赤にきらめきながら踊る。くるくる回りながら集まった水滴が、やがて人の形をとった。全身が磨りガラスのような青緑色だ。長く幅広な布を巻きつけたような衣装も、長身の身体も、長い手足の器用そうな指も、皆ガラス細工のようである。


 やがて湖が再び鎮まると、その人は形の良い裸足を岸辺の岩に進めた。真っ直ぐに流れる長髪は、静かな湖面にふさわしく波打たずに揺れる。



 3人は黙ってその人を見つめた。その人は瞳の無い水の眼で3人を見下ろす。


「龍の寝床へようこそ、お客人」


 水の人は、美しい姿にふさわしく潤いのある声で話しかけてきた。ゆったりとした語り口には、威厳すら感じる。


「邪魔するぜ、地底湖の精霊。俺はオルデンだ」

「初めまして、俺、ケニー」

「よろしくね。あたしはカーラよ」


 地底湖の精霊は静かに3人を眺める。カワナミも成り行きを見守っていた。



「ねえ、なんで湖は青いのに煌塩は赤いの?」


 ケニスは子供らしく率直に聞く。


「この辺りの岩の上で乾くとあんな風になる」


 湖の精霊は、淡々と答えた。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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