71 金赤に光る塩
笑い納めたカワナミは、鼻高々で3人に告げる。
「煌塩の結晶だよ」
「こうえん?」
「なんだ、その煌塩ってなぁ?」
「聞いたことないわね」
「この湖、海に繋がってるんだ。舐めてみて?」
3人は恐る恐る水面に指を触れる。オルデンはまず匂いを嗅ぐ。子供たちも真似をする。それから舌先で水滴に触れて味を確認した。
「しょっべぇな」
「塩だ!」
「オルデンが時々持ってくるやつね」
ケニスは目を輝かせる。塩は、旅人が通らないと手に入らない貴重品だ。子供が寝ているうちに、オルデンがくすねて来るのである。
「いつものより美味しい」
「そうだな。甘味がある」
「なんだかいい香りもするわね」
「色んなものが混ざってるんだ」
カワナミはまた得意そうに説明をした。
「どんなのが混ざってるの?」
「私も知りたいわ」
「海から来た水に、ここの岩に最初からある元気になる元と、竜の血や骨から溶け出した力が混ざってるんだ」
「凄いねぇ」
ケニスは理解していないが、感心した。カワナミは愉快そうにゲラゲラ笑う。
「凄いよね!」
「この水と壁のキラキラは色が違うけど?」
「竜の血の色じゃない?」
カーラの疑問に、カワナミは適当なことを言う。
「湖は赤くないのに?」
ケニスが疑わしそうに眼を細める。
その時、青緑色でやや不透明な地底湖から水飛沫が上がった。
「わっ」
「冷たいわね!」
びっしょりではないが、3人は水を被ってしまう。カワナミが喜んで笑い、ケニスとカーラも楽しそうに声を上げた。オルデンは顔と頭をつるりと撫でて水滴を拭う。
飛沫はしばらく金赤にきらめきながら踊る。くるくる回りながら集まった水滴が、やがて人の形をとった。全身が磨りガラスのような青緑色だ。長く幅広な布を巻きつけたような衣装も、長身の身体も、長い手足の器用そうな指も、皆ガラス細工のようである。
やがて湖が再び鎮まると、その人は形の良い裸足を岸辺の岩に進めた。真っ直ぐに流れる長髪は、静かな湖面にふさわしく波打たずに揺れる。
3人は黙ってその人を見つめた。その人は瞳の無い水の眼で3人を見下ろす。
「龍の寝床へようこそ、お客人」
水の人は、美しい姿にふさわしく潤いのある声で話しかけてきた。ゆったりとした語り口には、威厳すら感じる。
「邪魔するぜ、地底湖の精霊。俺はオルデンだ」
「初めまして、俺、ケニー」
「よろしくね。あたしはカーラよ」
地底湖の精霊は静かに3人を眺める。カワナミも成り行きを見守っていた。
「ねえ、なんで湖は青いのに煌塩は赤いの?」
ケニスは子供らしく率直に聞く。
「この辺りの岩の上で乾くとあんな風になる」
湖の精霊は、淡々と答えた。
お読みくださりありがとうございます
続きます




