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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第一章 国境の森
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7 水は何処にでもある

 ケニスの疑問に、オルデンは丁寧に答えた。


「水は太陽にあっためられると、もやもやって空に昇るだろ」

「うん」

「そうすっと、またどっかで雨になって降ってくんのさ」

「どこか?別のとこ?」

「雨雲は風でいろんなとこ流れてくだろ」

「うん」

「そうやって水は繋がってんだ」

「へえー」


 ケニスは虹色の目をキラキラさせる。水の中に差し込む光が、ケニスの瞳を幻想的に揺らす。



「だから水の精霊は、いろんな水ん中を通って何処にでも行かれるんだぜ」

「すごい!」

「見えねぇけど、俺たちが吸い込む息ん中にもいるぜ」

「吐く息にも?」

「ああ、いる。他にも色んなとこにな」

「花にも?」

「いる」

「木にも?」

「いる」

「じゃあ、石にも?」

「いるさ」

「へーえ!」


 ケニスが感嘆の声を上げる。カワナミは機嫌を直して胸を張る。


「凄いでしょう?」

「うん!凄い」


 カワナミは、一旦周りの水に姿を溶かして2人の周りに渦を作った。ブクブクと細かい泡が立つ。水草の吐き出す泡と混ざって、光の中でたくさんの泡が踊っている。


「綺麗だねえ」

「そうだな」


 ケニスとオルデンは泡の渦に導かれて走りながら笑い合った。



 しばらく行くと、カワナミはまた姿を現した。透明な子供の姿だが、泡と光で着飾っている。カワナミは踊るようなステップで遺跡の敷石を踏む。踏まれた石が紫色に光る。足を離すと光は消えて、今度は次に踏まれた石が光る。


 いくつかの敷石を光らせた後、カワナミの足元にはぱっくりと四角い穴が開いた。穴の上に浮いているカワナミは、一旦ふたりのほうへ振り向いて手招きをする。


魔法錠(まほうじょう)か」

「面白いねえ。洞窟にもつけよう!」

「つけるか?」

「うん!」

「扉はどうする?木か?石か?」

「んーとね、石!ツルツルのやつ」

「よし、ツルツルの石、明日探しに行くか」

「行く!」


 ふたりはそんなことを話しながら、敷石に開いた穴を覗き込む。下は暗くてよく見えない。



 カワナミは穴に潜ってゆく。オルデンとケニスも後に続いた。穴の中にも水はいっぱいある。


「なんだ、魔法の壁で水は無いのかと思ったぜ」

「どっちだっていいでしょう?」


 カワナミがいつものようにゲラゲラ笑う。


「まあ、そうだな」

「ねえねえデン、広いねぇー!」

「ああ、広いな」


 オルデンは水を小さな球にして黄緑色に発光させる。


「ケニーもやる!」

「おう。やってみな。水の灯りだ」

「うん!」


 ケニスは楽々とオルデンの真似をする。


「色は何でもいいんだぜ」

「じゃあ、紫がいい!」


 ケニスが叫ぶと、水の灯りはすぐに紫色に変わった。


「デンの眼だ」

「そう言うと何だか気持ち悪ぃな」

「デンの眼、気持ち悪くねぇよ!」

「眼ん球だけが目の前に浮かんでんだぜ?」


お読みくださりありがとうございます

続きます

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― 新着の感想 ―
[良い点] 水はどこにでもある。 科学的なことと精霊の存在が自然に融合していて、素敵な世界観ですね。 小さくて綺麗なエピソードが丁寧に描かれ、心あたたまります。ケニー可愛いです! [気になる点] 虹色…
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