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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第二章 森の外へ
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68 魔法の灯りで進む

 3人がほら穴に入ると、入り口が元通り草木に覆われた。パロルの棲家は、すっかり闇に包まれてしまった。


 オルデンは辺りの空気から湿気を集めて、小さな水の球を作る。水はほのかに虹色の光を纏う。


「デン、目の灯りだね!」


 カーラを見つけた川底の遺跡で、オルデンはケニスをからかった。そもそも、ケニスがオルデンの瞳と同じ色にした灯りを作ったのだ。その時、自分の目玉だけがこちらを見てくるのは気味が悪いと、オルデンは言った。


 そして、ケニスの瞳と同じ色に拳大の球を光らせて、ニヤニヤしながらケニスの顔の前に浮かべた。ケニスは大喜びで気持ち悪いと喜んだのである。



「ほら!デンの目ん玉だよ!」


 ケニスは笑いながら紫の球を作った。朗らかな笑い声がほら穴に響く。天井も床も、そして壁も、幾重にも子供の笑い声を跳ね返す。


「わあっ、響くのね」


 カーラは楽しそうに暗闇を見回した。


「わーっ!」


 ケニスがわざと叫ぶ。ほわんほわんと声は響く。カーラとケニスは顔を見合わせて、また笑い声を上げた。



 オルデンは小さな光の球をたくさん作って辺りに飛ばす。オレンジの球は天井へ、黄緑色の球は壁際へ、赤い球は足元へ、虹色の球はケニス達の顔の高さ、白い球はオルデンの頭の上、オルデンの胸の高さに茶色い球を、背中にはいくつかの青い球を浮かべた。


「デン、灯りが自分で動いてるよ」

「そのほうが楽だろ」

「そうね」

「俺もやる!」


 魔法の灯りである。ケニスとカーラが真似をする。ケニスも小さな水の球を使って、何色もの光を作る。カーラも同じように水の球を光らせる。炎の精霊だが、空気を暖めて水を取り出したようだ。



 カーラは目を輝かせて、光の球の動きを追う。足を出すたびに光の球はついてきて、3人の周りを動き回りながら光る。ゆらゆらするもの、くるくる回るもの、素早く上下に動くもの。光る水の球の動きは様々だった。


「綺麗ね」

「うん。キラキラしてる」


 カーラは喜んで星形の火花を散らす。星の火花は虹色に輝いて、短い間岩にくっついていた。腰まで届くカーラの髪は、今は焦茶色である。しかし、その周りをうっすらと虹色の炎が包んでいた。



 それ自体が色をもつ魔法の灯りは、水の球の表面にカーラの炎を受けて幻想的な光の霧を生み出した。


「足元に気をつけろよ」


 手を繋いでキョロキョロしている子供達に、オルデンは優しく声をかける。


「あっ」

「ほら」


 言うそばからケニスが躓く。賢くても子供は子供である。楽しくて少々不注意になる。


 ほら穴の床はでこぼこの岩に土が被さっている。所々に日陰の草木が生えていて、壁の割れ目から垂れ下がる葉も絡まっている。足元はかなり悪いのだ。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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