67 暗闇の中へ
岩の精霊が、つぶらなひとみで子供達を見て説明する。
「やつらの歴史では、双子の兄ジルヴァインが国王となった農民王ギィの玉座を狙って、西の山の中腹で暗殺したことになってる」
「酷いね!」
ケニスは涙声になる。オルデンは頭を撫でてやり、カーラは背中をさする。
「双子は相打ちとなり、枯草鋼の剣はこの付近で飛ばされたと考えられてるらしい」
「それで探しに来るのね」
「時々来るって、森の精霊には聞いたぜ」
オルデンの言葉に岩の精霊が頷く。
「たまに来る。だが、エステンデルスの連中にも似たような口伝があってな、そっちが来る時もあるな」
「その割には道もねぇな」
「最近は滅多に来ないからな」
「諦めかけてんのか」
岩の精霊は、また頷いて細い体を揺らした。
「ヴォーラ自体、伝説扱いで実在しないというのが通説だ」
「念のために見に来るのかな」
「伝説好きのやつもいるからな」
「ほんと、迷惑しちゃうわね」
ケニスは心配そうに辺りを見回す。魔法を使わないようにしているので、周囲の気配が捉えにくい。それで余計に不安なのだ。実際には、危険が迫れば精霊が教えてくれる。だが、今はまだ、ケニスはそのことを知らない。
ケニスはオルデンの袖を引っ張って背伸びする。オルデンが屈むと、声を潜めてこう言った。
「来てなさそう?」
オルデンは自信に満ちた笑顔を見せる。
「心配すんな。今国境の森も、西の山も、静かなもんだ」
「ノルデネリエもエステンデルスも、来てないな」
オルデンが言えば、精霊達も請け合う。ケニスはようやくほっとして表情を緩めた。
「それじゃ、中に入れてくれるか?」
オルデンは集まった山の精霊達に問いかける。精霊達は淡く光って、ほら穴の入り口を覆う木の枝や垂れ下がる木の根を持ち上げる。
「中、暗いね」
ケニスが首を伸ばして、ほら穴の中を覗く。カーラは怖そうにケニスの肩を握った。
「中から冷たい風がくるわ」
「入り口が開いたからな。外の方があったけぇから風になんだろ」
「気持ちいいねぇ」
「怖いのはいなさそうだけど」
茶色くなった子供達の髪の毛が、ふわふわと涼しい空気の流れに遊ぶ。洞窟を覆っていた枝の緑や黄色の草木の葉と、白や赤に開く小さな花々が秋の山路に揺れている。小鳥や仔鹿もこっそりと様子を伺っている。
「デン、早く入ろ?」
「ああ、そうだな。暗いから気をつけろよ」
ケニスに急かされて、オルデンは賢い龍パロルの寝床にゆっくりと足を踏み入れた。
「今は魔法使っていいぞ」
「うん。なんにも見えないからね」
精霊が枝を退けてくれたのは入る時だけだ。それでさえ、ほんの入り口にしか光は届かない。3人の背中で枝々はまた、ほら穴の入り口をすっかり隠してしまった。
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